良く打たれた試合だった。3月29日のシリア戦である。
 
 ロシアW杯2次予選の日本は、格上ゆえの現実に悩まされてきた。自陣に閉じこもったままほとんど出てこない相手を、どうやって崩すのかに苦慮した。
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が提示するタテに速いサッカーは、世界のトップクラスに対応するための手段である。あらかじめスペースを埋められている攻防では、タテへの速さも、味方選手を追い越す動きも、思うようにいかない。
 
 シリア戦の後半は違った。日本が1対0とリードするなかで、シリアは徐々に攻撃へ人数を割くようになってきた。2次予選でありながら、対世界のシチュエーションが生まれていたのである。
 
 相手が出てきてくれれば、タテの推進力を出すことができる。香川真司が決めた2点目は、GK西川周作のフィードからボールを失うことなく攻め切ったものだった。スローダウンはさせられたものの、ゴール前を固める人数が少ないのでボールを下げずに済んだ。
 
 2対0となったことでアタッキングサードでの窮屈さはなくなり、個人のスキルを発揮することが可能になった。その結果が、終盤のゴールラッシュにつながっている。
 
 気になったのは、守備のリスクマネジメントである。不用意な形からボールを失ったり、選手同士の距離感が悪かったり、ギャップを作ってしまったりといったことが重なり、シリアに際どいシーンを作られてしまった。
 
 日本は20本以上のシュートを放ったが、シリアにも15本のシュートを浴びた。良く打たれた試合である。最終予選で対戦する相手なら、無失点で抑えることはできなかったかもしれない。
 
 たとえば、後半39分のシーンで失点を喫していたら。その後の3得点はなかったはずだ。2対1で辛くも逃げ切る展開だった。勝点3を取ることはできても、得失点差のアドバンテージは最小限に止まっていた可能性は高い。
 
 押し込まれたなかでのプラス材料は、GK西川だろう。2次予選の6試合に出場した背番号12は、観衆の悲鳴を漏れなく歓声に変えた。守備機会をほとんど与えられなかったこれまでとは異なり、相手の決定機を阻止したうえでの無失点は、最終予選に臨むうえでの支えとなるに違いない。
 
 もうひとり、長谷部誠にも触れたい。
 
 後半39分のシーンで失点を免れたのは、彼のシュートブロックがあったからだった。ここぞという場面でしっかりとチームに貢献できるのは、経験や実績に寄りかかっていないからだ。国際Aマッチ出場100試合の節目となった岡崎慎司にキャプテンマークを譲ったものの、長谷部はこの日もリーダーシップを発揮した。
 
 2年後のロシアW杯を見据えると、世代交代の必要性を感じざるを得ない。32歳となった長谷部は、34歳で2018年を迎える。ブラジルW杯の遠藤保仁と同じ立場だ。先のことを考えるのはまだ早いが、新たな人材の台頭を望む声が聞こえているのも事実である。
 
 だが、彼をこえる選手を見つけるのは簡単ではない。2次予選を締めくくったシリア戦は、背番号17の存在感を際立たせるものでもあったと思う。