また、選手たちはハリルホジッチ監督の指示を忠実に実行しようとしていた。まだ新体制が立ち上がって間もなく、新しい指揮官のやり方をしっかり把握するとともに、指示に従わなければ、メンバーから外されてしまうという恐怖感もあったに違いない。
 
 ただ、そうした鬼軍曹ぶりのやり方が、今回はマイナスに出てしまった感じだ。とはいえ、言われたことをやるだけだったら、ロボットになりかねない。
 
 ピッチ上でも話し合い、そして監督とも意見を交わし合い……もっと、そういった人間的な会話ができていかないと、この先また路頭に迷いかねない。衝突し合うというより(時にはぶつかり合ってもいいかもしれないが)、思っていることを伝え合って、理解し合える環境にしていかないといけないだろう。
 
 そうしなければ、なんだかお互いに距離を取ったまま、大事なところの意見が噛み合わないまま、ワールドカップ本番になんとなく臨んでしまったザッケローニ体制の二の舞になりかねない。コミュニケーション――意思疎通を図ること――はとても重要だ。
 
 ただし、アルジェリア代表の監督時代には、守備的、攻撃的とダブルスタンダードのチームを編成したこともあるハリルホジッチ監督のことである。現在20代後半から30代前半の占める主力全員が、3年後のロシア・ワールドカップまでメンバーに残るとは考えていないはずだ。むしろ、今回の結果を受けて、より多くの選手にチャンスが与えられるかもしれない。
 
 その点で、注目しているのが、8月1日から9日まで中国で開催される東アジアカップだ。
 
 中国、韓国、北朝鮮と今年の日本代表の対戦スケジュールの中では、ある程度実力のあるチームとの対戦が組まれている。重要な強化ポイントに挙げられる。
 
 そこで、これまで以上に選手発掘が進むのではないか、と期待している。
 
 初戦で躓き「2015年の全勝宣言」が早くも崩れた。ただし、そこまで焦る必要は決してない。

 ハリルホジッチ監督は国内外のいろいろな会場に足を運び、様々な選手をチェックしている。もちろん、このシンガポール戦だけで、出場した選手がダメだったというのも早計だろう。彼らも再び自らの課題を克服してくるだろう。
 
 日本代表にも「対アジア」と「対世界」のダブルスタンダードが必要ではないかと、ハリルホジッチ監督は考えるかもしれない。そうなれば、またこれまでとは異なるタイプの選手がメンバーに加わってくるだろう。

 今回のような「おいおい、嘘だろ!」という試合展開は、もうゴメンだ。
 
 ただし、この先に起こりそうなチーム内の争いと思い切った選手の抜擢は、ひとつの楽しみでもある。今後さらに、ハリルカラーを出していってもらいたい。