バラードを歌い上げるが、歌詞がひどい。

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以前、コネタで「鼻毛の森」というアーティストを取材したことがある。ラヴソングを十八番としているミュージシャンなのだが、その内容があまりにもポジティブじゃない。彼、「カップル撲滅」を目的としているらしい。でも、ラブソングなんです。人呼んで、“リアルラヴソング”。

ここらを理解するためには、鼻毛の森が歌うラヴソングの歌詞を確認する必要がある。まずは、彼の代表曲である「誰でもよかった、だから君でもよかった」から追って見ていきましょう。
“君でもよかった むしろ誰でもよかった 僕が寂しかったとき たまたま君がいた”

「もう一度選び直せるのなら」の歌詞は、こちら。
“君に巡り会えてよかった そう胸に言い聞かせてきた”
“もう一度時を戻せるなら 僕は君を選ぶのかな? 選び直してみたい”
このテイストの真意は、何なのか? 彼いわく、“リアルラヴソング”とは「理想論をやわらかく排除した“リアルメッセージ”」の意だそう。

普段は北陸地方を主戦場としている彼が、2月10日、「Eggman tokyo east」(東京都千代田区)にてライブを開催しています。私、招待されたので、この公演へ行ってきました。
さて、当日。場内には男性同士、もしくは女性同士の友達グループが多数。いや、男子一人のみのファンも少なくありません。中には、あからさまなカップルも3〜4組。いや、場違いなんですけど……。

そんなこんなで、そろそろライブがスタートするらしい。
「間もなく『カップル撲滅』をスローガンに恋愛の残念な部分を歌う、鼻毛の森による出しものを行います。カップルでお越しのお客様は、ご注意ください」

この場内アナウンスに乗って登場した鼻毛の森だが、すぐに歌には行かない。彼、MCが長いんです。割合としては、「歌4:語り6」といった塩梅か。「J-POPは、内容が優しすぎる、無難すぎると思ったことはありませんか? それが、世の中に歪みを起こしている。こんな余裕のない時代なのに……」「J-POPから理想論の部分、甘い部分、要するに“売れる要素”を差し引いたのが、私の提唱する“リアルラヴソング”です」

というわけで、やっとこさの1曲目! 「2003年に出会い2004年にフラれた3歳年上の元カノへ向け、当て付けで作った曲です。『私が貴方をずっと支える』と言ってくれたので思いっきりアテにしてたら、『貴方の将来が見えない』と去って行ったあの人に向けた、この曲から行きましょう」
歌のタイトルは、「それまではそばにいるよ」。こんな歌詞です。
“君よりも綺麗な人が目の前に現れたなら(中略)後ろなんて振り返らないさ”
“君よりも綺麗な人が現れることがなかったら 僕は君のそばにいるよ それまではそばにいるよ”

★動画はこちらからhttps://www.youtube.com/watch?v=5flo2jl_6Ng
なるほど。「ずっとそばにいる」という綺麗事ではなく、しょせん人は「それまではそばにいる」。実体験が元になった、悲しきバラードです。

こんな感じで、彼の曲は実体験が元となった曲が多い。尽くしてあげたのに去って行き、しかも鼻毛氏の電話を着拒してしまったというさっきとは別の元カノ。「だったら、あの高額なプレゼント返してよ。もらってから別れるなんて! ……尽くしすぎると、バランスが悪くなります。それ以来、私は『彼氏と彼女のバランスを均等にしよう』というキャンペーンを始め、今では、どんな女性とも割り勘です」
この思いを乗せて歌うは、「君にしてあげたこと」という曲。
“僕が君のためにしてあげたこと思い出して 少しあげすぎたから”
“君が僕にしてくれたこと 僕は覚えてるよ そんなに無かったから”

最低な曲は続き、次の曲のタイトルは、「紐」。
「支え合ってたらいいけど、片方が依存していたらこうなってしまうという曲です」
“僕の懐だけでは できることも限られる 君に持ち前があれば 叶うことはきっと広がってく”
“その優しさを頼りにただ繋がる僕は ヒモですか?”

ちなみに彼、かつて結婚式場でのアルバイト経験があるらしい。そして、そこである違和感を覚えたという。
「式を挙げるカップルって、『この人たち大丈夫かな?』ってくらいに前向きなの。だって、現実の入り口じゃん? 離婚とか親権争いとかも、この先には有り得るのに」「どう見てもベストパートナーじゃなさそうなのに『出会うべくして出会った』と、プロフィールの捏造から入ってる」
「式で流すVTRのエンドロールにも矛盾を感じていた。当時流行ってたBGMは、JUJUさんの『やさしさで溢れるように』。美談にも程があるんじゃないか」
この疑念を糧に作り上げたのは、「幸せだと思うことにするよ」なるナンバー。
“いろんな人に出会って恋をするはずだったけど それほど出会えないまま(中略)君に出会った”
“君なんだね(中略)それが答えなんだ 諦めたよ”
“幸せと思うことにしたよ(中略)それで僕が救われるなら”

続いての曲は、“リアルラヴソング”の真骨頂ではないだろうか。浮かれすぎたカップルに矛先を向けたナンバー、その名も「お気を確かに」。
“浮いた気持ちはやがて沈むよ どうか気付いて お気を確かに”

もちろん、お馴染みの代表曲もバシバシ行く。「誰でもよかった、だから君でもよかった」では、場内のテンションもMAXに!
★動画はこちらからhttps://www.youtube.com/watch?v=aSIB-xcOfl4

ちなみにこの日、入場料金には「残念割」と「充実増」なるサービスが採用されていました。
残念割
ライブ当日、会社から左遷の辞令を受けるなど残念な目に遭った人は、その公的資料を提示すれば一割引き。
充実増
カップルで来場のお客さんで自己申告した方からは、2000円ずつ徴収する。

“リアルラヴソング”の何たるかを確かに理解した今回。妙にやさぐれてはいないのは奇跡的だが、とは言いつつやはりクローズドな空間で楽しむべきミュージシャン。秘密クラブのようなライブを体験しました。
(寺西ジャジューカ)