80年代まではお土産の定番だったペナント、つり革、オープンリールとイヤフォン、懐かしいマスクなど、トランクケースには思い出が詰まっている

写真拡大 (全9枚)

誰しも、大切なものを保管している箱を持っているのではなかろうか。そんな、さまざまな箱(240点)を紹介した本『箱覧会』(スモールライト刊)が話題だ。著者で、いわば“箱鑑賞家”の小西七重さん(タイムマシンラボ)に、気になる箱について伺った。

まずは小西さんが「開けた瞬間、たまて箱のように時間がタイムスリップした」という箱から。

●青春時代が詰まった”お宝”いっぱいの箱
「大勝庵 玉電と郷土の歴史館」館長 大塚勝利さん

大塚さんは「そば処大勝庵」を41年間営んでいた。現役を引退した玉電(東急玉川線)の運転台を店内に展示していたこともあり、鉄道ファンの間で有名だった。といっても、大塚さん自身は鉄道ファンというわけではなく、レコードやモノクロテレビなど昭和30〜40年の青春時代の思い出を集めているコレクターだ。お店は2011年に閉店。改装して「大勝庵 玉電と郷土の歴史館」をオープン。鉄道に関係するものや、懐かしい日用品を月替りで展示している。物を集めるようになったきっかけは、蕎麦の修行に出ていた時に実家が建て替えられたが、その時に大切にしていたものが全部捨てられてしまい、悔しい思いをしたから。

『箱覧会』の小西さんは、大塚さんの博物館を訪れた時に、「絶対に魅力のあるものが詰まった箱をお持ちに違いない」と直感的に思ったという。
「箱は、整理整頓のために予め入れるものを決めて入れていく箱と、捨てられないものをとりあえず何でも入れていく箱に分けられると思いますが、こちらは後者。箱を見ると大塚さんの人生が垣間見られます」

●時間を重ねて集まった“宝物”が詰まった箱
デザイナー・造形作家の鎌田豊成さん、イラストレーター・アーティストの内藤三重子さんご夫妻の箱もユニークだ。

「鎌田さん、内藤さんご夫妻は、他にも海外のお土産を保管している箱や、紋章やマッチ箱などを入れた箱など、長い年月を重ねてお二人が出会ってきたものたちを大切に保管されています。“入れる箱にこだわりはないのよ”とおっしゃっていましたが、木箱や小包の箱を開けた瞬間に別世界が広がります」(小西さん)

●現在小学6年生、あーちんの『ドッキリ助六寿司』

「あーちんが2012年に制作したものです。全て手作りで、おいなりさんは茶色封筒で、エアキャップは酢飯に見立ててあって、一品ごとのクオリティーの高さに驚かされます。あーちんは食べることが大好きなので、食べ物の観察力がすごいんです。きっと、感覚的に美味しそうに見えるポイントがわかるんだと思います」(小西さん)
あーちんのお母さんはクッキー屋さん。あーちんはお店で配布する手作り新聞を作っている。色を塗る時に使っている「コピックペン」を大事にしていて、「さつまいもを塗る時はこの色」というふうに決めているそうだ。

●『マッチ箱ギャラリー』

最後に「おまけ」として懐かしいマッチ箱を紹介。こちらのマッチ箱を集めているのは原野農芸博物館 館長補佐の梅室英夫さん。農具の研究をするために各地に行っていた時、喫茶店などで変わったマッチ箱を見つける度に持ち帰っていたという。小西さんはある展覧会でマッチ箱の展示を見かけて、その魅力に一目惚れ。すぐさま取材を申し込んだという。
「可愛いデザインのマッチが勢ぞろい。紙製のマッチ箱が登場したのは昭和30年頃で、昔は広告ツールとして使われていたそうです。今のポケットティッシュのような存在ですね。中には『当店のマッチは只今制作中です』と書かれたマッチもありました」
当時はどんなラベルのマッチ箱を使っているかで、その人となりが分かったのではないだろうか。

●人に箱あり
小西さんは、さまざまな人の箱を鑑賞していくうちに、箱の大切さについて改めて実感したそうだ。
「人生には箱がつきものです。へその緒を入れる箱に始まって、お弁当箱、お道具箱、書類を入れておく箱、大切なコレクションを入れておく箱などを経て、最後は……棺桶も箱ですよね。つまり、人生は箱で始まって箱で終わるんです」

「木箱に入れられることが多いと思うんですけど、私が生まれた病院は、なぜかプラスティックなんですよ〜。『できれば木箱がよかったな〜』って思います(苦笑)」

鑑賞した箱を改めて振り返って、「思い出や大切なものを詰め込んだ箱は、個人の博物館のようです」という小西さん。小西さんは箱を通じて、持ち主の人生をも鑑賞しているのであった。
(取材・文/やきそばかおる 写真/ただ〔ゆかい〕)

●『箱覧会』(小西七重著/スモールライト刊)発売中