『おみおくりの作法』はシネスイッチ銀座他にて公開、順次全国ロードショー

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映画『おみおくりの作法』が大ヒット上映中だ。本作は、第70回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で「監督賞」を含む4賞を受賞したほか、世界各国で数々の映画賞を受賞。日本でも公開されるや、初日、2日目は満席・お立ち見が続出。その勢いはとまらず、むしろ加速する方向で翌週末やレディースディ、映画の日等も完売するほどだという。これほどの快挙は、昨年公開され口コミが口コミを呼びメディアがその様子を特集したほどの『チョコレートドーナツ』以来だとか。

一体どんな内容かというと―――

■ストーリー

主人公はロンドン市ケニントン地区の民生係ジョン・メイ(エディ・マーサン)44歳。彼の仕事は、ひとりきりで亡くなった人の葬儀を執り行う“おみおくり”。几帳面な彼は、事務的に処理することもできるこの仕事を、残された遺品の中から何とか手がかりを見つけ、遺族を探したり、その人の為に弔辞も書く。ある日、ビリー・ストークという男が自身のアパートの真向かいで孤独に亡くなったという報告を受けたジョンは、彼のこれまでの人生を探す旅に出ることに―――

■英国版“おくりびと”

ストーリーの内容から英国版“おくりびと”とも呼ばれる本作は、本木雅弘さんほどイケメンとはいえない(失礼!)、一見どこにでもいる真面目そうでちょっぴり小太りなおじさんの物語である。『チョコレートドーナツ』はゲイのカップルが育児放棄されたダウン症の少年と一緒に暮らす為、さまざまな苦難を乗り越えていく作品だったのに比べ、ドラマチックな何かが起こるわけでもなく、グラマラスな美女が登場するわけでもない。それどころか、登場キャストも少なく、ただただこのおじさんの行動が淡々と描かれるのだ。これだけ書くとヒットの要素があまり見当たらない(笑)
が、しかし、始まって数分もすれば、彼の繊細な表情、一挙手一投足が気になり始め、洗練されたシンプルな映像と絶妙に繰り出されるユーモアに、気づけば虜になっている。とはいえ、決して派手とはいえない、いやむしろ地味な本作、なぜここまでヒットしているのか配給のビターズ・エンド、宣伝担当の石原さんに伺った。

■ご覧になった方々の反応について

石原さん:「客層は20〜50代のカップルや夫婦、女性連れなど幅広く、土日には意外にもデートムービーのような様相を呈しました。また、公開前日には500程度だったFacebookのいいね!の数は、土日を挟んで1000以上に倍増、現在は2000いいね!を超えています。Twitterのフォロワーも倍以上増え、『世界中の人に見てもらいたい』『主人公がすごく真面目で丁寧で、日本人みたい!』 『悲しいのではない、切ないのでもない、感動とも違う。あえて言えば“幸福感”だった』『最後の10分間はただただ涙が止まりませんでした』など、熱い感想が続々とあがっています」

■大ヒットの理由について

石原さん:「題材が今の時代にリンクしていたのが大きな理由かなと思います。 というのも、最近ひとり暮らしの方が多くなってきていていますし、阪神・淡路大震災などをきっかけに“孤独死”は社会問題の一つとしてクローズアップされ続けています。また、近年、自分の最期の迎えかたを考える“終活”(エンディングノートなど)が注目されていることもあり、『自分だったらどういう最期を迎えたいか』『どういう人生を歩みたいか』ということにも興味を持つ方が増えています。主人公ジョン・メイの生き方は、そういった方々の心の琴線に触れるのではないでしょうか?」

また、「映画を観た方が熱い感想をツイッターでつぶやいてくださり、口コミが広がっているのも後押しとなっていると思います」とのこと。

■さいごに

『おみおくりの作法』は各メディアからも好評価のコメントがでている。俳優・斎藤工さんも、「きめ細かく上質な風味。厳選され抽出されたエスプレッソの様な作品。ひたすらに素晴らしい」と自身のブログに掲載。また、『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督も「本当に美しい……大好きな映画!」と述べている。

また先ほどから筆者が失礼ながらも“おじちゃん”呼ばわりしている主人公ジョン・メイを演じているのは、イギリスが誇る名優、エディ・マーサンだ。『戦火の馬』『思秋期』などの大作やシリアスな作品から、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』などコメディもこなし、マーティン・スコセッシ監督やマイク・リー監督など世界の巨匠達からのオファーが耐えない名脇役。日本でも大ヒットしている海外TVドラマ「レイ・ドノヴァン」シリーズでは、パーキンソン病を患う、主人公レイの兄・テリーを好演している。
また、監督・脚本を手がけたのは、大ヒットコメディ『フル・モンティ』を生み出した名プロデューサー、ウベルト・パゾリーニ。その卓越したユーモアのセンスと、シンプルで洗練された北欧デザインのようなシーンの数々が、若年層を引き込むひとつの要因にもなっている。

本作は、21日からはシネ・リーブル梅田(大阪)京都シネマ(京都)で公開が始まるほか、その後、全国各地で順次ロードショーが決まっている。今後もじわじわと、本作の大ヒットは広がっていきそうだ。(mic)