福島牛は福島県内で肥育・生産された黒毛和牛のこと。風味豊かでまろやかな味わい

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“ふくしまイレブン”をご存じだろうか? イレブン、といってもサッカーの優秀選手のことじゃない。

ふくしまイレブンとは、福島県の多彩な農林水産物の中でも、生産量が全国でも上位の11品目のこと。具体的には、米、福島牛、きゅうり、もも……など。いわば、ふくしまの顔ともいえる美味しいアスリートたちだ。

これらの中には原発事故以降、風評に苦しむものも少なくないが、「福島牛」もそのひとつ。福島牛は福島県を代表する黒毛和牛のブランドで、色鮮やかで良質の霜降りに定評がある。ところが震災以降、枝肉価格は全国平均を下回っており、1kgあたり200〜300円も価格が低い。牛1頭あたりになると10万円以上も違うから、この差は大きい。

ところで肉の産地はどうやって決まるのだろうか? 

一般的に肉用牛を生産する農家は、「繁殖農家」と「肥育農家」にわけられる。繁殖農家というのは、母牛に子牛を生ませ、9カ月齢くらいまで育てて売る農家のこと。一方、肥育農家とは、繁殖農家が育てた子牛を買って、30カ月齢前後まで育てて出荷する農家のことだ。

肉の産地は最も長く飼われたところが表記されるため、基本的には肥育農家の場所とおなじ。子牛価格は産地表示に関係しないため、風評の影響を受けない。そのため、福島県産の子牛は良質であることが評価され、いまや価格は全国平均を上回っているほど。それが枝肉価格となると、全国平均から1割ほど安い価格になってしまう。肉のバイヤーも消費者から敬遠されるリスクを考えると買いづらいのが現状のようだ。

では、実際に福島牛は安全なのか? ということになるが、すべての牛肉は市場に流通する前に放射性物質の“全頭検査”がされ、その結果は「ふくしま新発売。」 のウェブサイトなどで毎日公開されている。結果は“不検出”が続いている状況。検出下限値はおおむね7〜8Bq/Kg以下だ。

測定は、県内と畜の場合は、福島県農業総合センターでおこなわれ、県外と畜の場合は検査委託先でおこなわれている。なお、出荷制限一部解除後は、暫定規制値および新基準値を超える放射性物質が検出されたものはないそうだ。

肉用牛の測定には、1頭あたり100グラム、おもに首の筋肉をとっているそうだ。これはセシウムが内臓よりも筋肉にたまりやすいから。

もちろん、こうした全頭検査の前提として、生産者単位の飼養管理も徹底されており、すべての農家に立ち入り検査をして状況も調査している。にもかかわらず、
「科学的に安全なことと、安心感がイコールにならないのが難しい。2割くらいの人は、なんとなく、で避けてしまう」と福島県農業総合センターの佐藤さん。
ちなみに現在のゲルマニウム半導体検出器の精度も高いが、牛を生きたまま検査する機械の開発も進んでいるのだとか。

実際に福島の肥育農家も訪ねてみると、そこには大切に育てられている牛たちの姿があった。
「ひどい環境で牛を育てているじゃないかと思う人もいるかもしれないが、私たちはここで米を食べ、水を飲み、子供も孫もいてみんなで生活しています」と肥育農家の沼野さん。本来なら、毎月10頭買って10頭出荷というのが目安だが、いまは枝肉価格がなかなか回復しないため、12頭売っても8頭しか買えないような状況だそう。

現在、福島県産の肉用牛は東京都中央卸売市場の取り扱い頭数の9.1%(2013年度)を占めている。真面目な農家さんたちが手塩にかけて育てている福島牛。正しい理解と共に、おいしく味わいたいものだ。
(古屋江美子)