「印象に残ったBGM」としてよく名前が挙がる、ゴーゴーカレーの音楽。アカペラバージョンもある

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ふとしたときに思わず口ずさんでしまう、企業オリジナルの“店舗BGM”。商品名や店名を連呼するだけのものからメロディや言い回しにひと工夫あるものまで、バリエーションはさまざまだ。

なかでも、良くも悪くも「印象に残ったBGM」として名前が多く挙がるのが「ゴーゴーカレー」と「バニラの宣伝カー」。これらのBGMはいったいどのように作られたのか、両社に直接聞いてみた。

まずは、コクのあるボリューム満点のカレーを象徴するかのような商品名連呼型のBGMが特徴の、ゴーゴーカレー。「昔のことで詳細のわかる者が社内でなかなか見つからない」(同社広報担当者)というが、BGMについては同社のホームページにも「うっとうしい」「しつこい」といった声が届いているそうだ。しかし……。

「われわれとしてはまったく聞く耳を持ちませんから。あれがいいと思ってくれる方に来ていただきたいと思っていますし、苦手な人は弊社通販のルーを買ってください。そもそも『うっとうしさ』は狙い。このような形で名前が挙がるのは印象に残っている証拠」(広報担当者)

続いては風俗求人サイト「バニラ」。「バ〜ニラ、バニラ、バ〜ニラ、求人♪」という言い回しがインパクト抜群だが、誰がどういう狙いで作ったのか。バニラを運営する、コネクト・荻野将文社長はこう話す。

「曲を作ったのは私です。風俗業界は色眼鏡で見られがちですが、そうじゃないんだ、もっと健全な世界なんだよということをアピールするため、親しみを持ってもらうためにあの曲を作りました。ちなみにメロディの元ネタは昔の飲みのコール。パーリラ、パリラ、パーリラ♪の部分をバニラ用に編曲したものなんです」

ちなみに荻野社長によると「2006年の創業以来ずっと増収増益ですが、この曲を使用し始めた2009年以降はさらに右肩上がり」とのこと。BGM効果、恐るべしだ。

しかし、必ずしも好まれているワケではないBGMでも、大きな効果をもたらしているのはなぜか。雑学に詳しい作家の唐沢俊一氏は、こう推測する。

「最初は耳障(ざわ)りでも、慣れてくると不思議とその魅力に気づかされることがありますから。音楽は条件反射的に、人の心理に訴えかける力があるということ。例えば食欲を満たしたい人にとっては、ゴーゴーカレーのような特徴的な音楽は効果絶大で、『あのウザい曲を聴くと食べたくなる』という人も多いはず。これこそまさしく条件反射、パブロフの犬と同じ原理です」

一方、広告業界に詳しいライターの速水健朗(はやみず・けんろう)氏は過激に説明する。

「初めは不快なBGMでも耳にこびりつき、いつの間にか『洗脳』されていく。これは教祖の名前を連呼するカルトの手法に近い。初めは、ネタとして消費しているつもりが、いつの間にか取り込まれていく。ドンキ(ドン.キホーテ)のBGMなんかもその典型ですよね。僕は勝手に『バッド・センス・マーケティング』と呼んでいます。コンサルが勧めてくるブランディングの逆なわけですが、誰でも狙ってできるわけでもないでしょうね。ゴーゴーカレーなんかは、狙ってトータルコンセプト的にバッドテイストをにじみ出させてますけど」

“店舗BGM”の世界は、思ったより深いのかもしれない。

(取材・文/コバタカヒト)