歴史は変えた。だが、大きく動かすまでには至らなかった。

 フットサルW杯で史上初めてグループリーグを突破した日本代表だったが、決勝トーナメント1回戦でウクライナに3−6で敗れてベスト8入りはならなかった。ミックスゾーンに現れたカズこと三浦知良は、悔しさをにじませながら敗戦を振り返った。

「悔しいです。それに、ずっとやってきた人たちは僕以上にいろいろな思いがあるだろうから、余計にベスト8に行きたかったな、と思っています。自分の力でベスト8に連れて行くのは難しいと思うんですけど、そういう舞台にみんなで行きたかった。ただ、今回負けてW杯は終わりましたけれども、日本フットサル界にとっては、今日からがまた新たな出発だと思います」

 カズにとって最初で、おそらく最後になるであろうフットサルW杯は幕を閉じた。大会1カ月前の代表チーム合流から、国内で親善試合を2試合こなし、3試合目にして世界最高峰のW杯の舞台に立ち、そこで4試合に出場した。出場時間は4試合で30分弱。ゴール数はゼロ。本人はこの結果をどう受け止めたのか。

「グループリーグを突破するというのが、最低のノルマとしてあった。それについては、チームの雰囲気をポジティブなものにして、決勝トーナメントに行くという手助けはできたのかなと思います。でも、メンタル面では引っ張れても、ピッチの中で引っ張ることができなかったのは、悔しいというか、自分的には情けない気持ちがあります」

 それでもウクライナ戦では、4試合を通じて最多の10分以上の出場時間を記録した。逸見勝利ラファエルが出場停止で、高橋健介が怪我で離脱。もともとメンバーが少ない中で貴重な戦力だった稲葉洸太郎までも前半で1発退場を食らい、FP(フィールドプレイヤー)が8人になってしまったこともあって、後半のパワープレイの時間帯にもピッチに送り込まれた。

 日本がパワープレイを実践する際、カズがピッチに立つのは初めてのことだった。パワープレイではGKをFPに代えて、5人が攻撃に参加するため、ひとつのミスが失点に直結する。高度な戦術でもあり、フットサルを本格的にプレイし始めて1カ月あまりのカズを入れるのは、通常では考えられないことだった。

 しかし、ミゲル・ロドリゴ監督はリスクを加味したうえで、カズのピッチ上での責任感にかけた。与えられた役割は得点源の森岡薫をベンチで休ませている間、主にディフェンスで走り回るという地味なもの。カズは不慣れなシチュエーションに戸惑いながらも、相手の決定的なシュートをゴールライン上まで戻って、身体を張ってブロックするなど、精一杯の仕事を果たした。

 そんなカズの姿を見て、他の選手が何も感じないわけがない。0−6という絶望的な状況から、反撃の口火を切ったのはカズと入れ替わった森岡だった。後半10分に木暮賢一郎のシュート性のボールを胸で押し込むと、11分には右サイドで反転してから右足を振り抜き、2点目を挙げた。さらに12分には、素早いパス交換から北原亘が決めて3点差まで詰め寄った。結果的に勝つことはできなかったが、後半の日本代表のプレイは、カズが常に話していた「日の丸を背負うことの重み」を感じさせるものだった。

 8強入りは果たせなかったものの、W杯でベスト16に入ったことは、日本フットサル界にとって大きな一歩と言っていい。さらに、カズが入ったことで大きな注目を集めた中で結果を出したことにも価値がある。問題は、これを、この先にどうつなげていくか、だろう。試合後のミックスゾーンで、カズが最も時間を割いて語ったことも、そのことだった。

「行き帰りのバスの中とか、食事のときとか、木暮や小宮山(友祐)とかとは、『どうしたらフットサル界が良くなるのか?』という話をずっとしていました。例えば、来年はアジア選手権もないので、代表戦は5月に親善試合があるだけらしいんですが、それでは遅いし、物足りない。まずは、この熱があるうちに国内で試合を見せることが必要だと思います。サッカーのA代表だったら、6月にW杯が終わって、8月には新しい監督で、次に向かって動き出すわけですから。あとは、Jリーグとのつながりを持てるチームがもっとあってもいいのではないかと思います。南米では、サンパウロFCやコリンチャンスなどはフットサルチームを持っています。そういうのがあれば、同じチームで、同じユニホームで、同じサポーターが応援に来てくれるようになるかもしれない。今は同じ地域にあっても、あまり連携がないみたいですから、Jリーグとフットサルの共通のチケットを作るとかがあってもいい。そういういろいろなアイデアを、みんないつも話していたので、それをいくつか実現できればいいな、と思っています」

 そのためにも、カズは今後も、積極的にフットサル界に関わっていくつもりだという。

「今回W杯に参加させてもらって、また新しい仲間もできましたし、何か協力できることがあれば、どんどん言ってほしい。サッカーも、フットサルも、フットボールですから。フットボールファミリーとして、協力をしていきたいです」

 20分以上話したあと、「みなさん、ありがとうございました」と言ってバスに乗り込んだカズ。その背中には、ひとつの仕事をやり終えた充実感と、また新たなことに挑んでいこうとする気概があふれていた。日本サッカー界の“キング”が臨んだ、激動のフットサル挑戦は幕を閉じたが、カズがフットサル界に残した“魂”は、これからもずっと生き続けていくはずだ。

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