◆以下、「こんな感じか?」という妄想にてお送りします!

阪神タイガースの小宮山慎二選手は、今でもまだそんなはずがないと思っている。

9回表である。広島、最後の攻撃。ツー・アウト・二塁三塁のピンチ。スコアは3-2。阪神は1点のリードを保っている。一打逆転、内野安打でも同点になる。ゲームの流れは、追い上げ、攻め立ててきた広島に向いている。

マウンド上には阪神タイガースの榎田がいる。榎田はテンパっていた。打者・梵に対する6球目、広島ベンチからは特にサインはなかった。普通に空振りした。

その空振りしたボールは、見事にどこかに飛んで行く。榎田の投球は内角低めで三振を奪い、しかも、曲がるように、落ちた。

小宮山が淡泊に差し出したミットは空しく揺れ動き、ボールを捕らえることができない。榎田の投げた球は、ミットの下を通り抜けた。ベンチに帰ろうと思って猛然とホームベースに走り込んできた三塁走者の天谷は「振り逃げ」だと気づく。

天谷宗一郎の話:「バッター梵さんのカウントが1ストライクになったところで、アカンと思いました。全然タイミング合ってないやん、打てる気せーへんと。榎田さんはちゃんとしてるから、もう試合は終わりだろ…それがまず頭に浮かんで…。スタートは早くして、帰り支度を急ごうという気になってしまった。ベンチに向かって走ってったところで、小宮山クンの後逸が見えましたね。もういっぺんに元気が出てきて…」

その1球が、小宮山の頭の中にはいつまでも引っ掛かっているのだ。

小宮山慎二の話:「榎田の投げたあのボール。あれはホントに捕れるボールだったのか…。信じられないのですよ。魔球か何かじゃないか。ミットに当てられない球じゃなかった。キャッチャーってのは何が来ても身体に当てて、前にこぼすつもりでやるもんです。ところが後逸した。信じられない。アレが魔球だったなら、そりゃもう、大変なことですよ…」

しかし、間違いなく榎田の投げたボールは、小宮山のミットの下をかいくぐったのである。

偶然ではなく、である。

松山坊っちゃんスタジアムはほとんど阪神ファンで埋まっていた。阪神ファンはここで落胆しなければならない。しかし、このシーンに吸い込まれた人間の気分は落胆ではなく、むしろ爆笑だった。振り逃げで二者が生還し、逆転する展開には爆笑しかない。

「何やってん!」
「あっ…ぐっ…三振なのに同点、そして逆転のランナーがかえってきた…」
「信じられないこの松山の悪夢」
「勝っていたゲームが暗転しました」
「松山の悲劇です」
「いやー、こんなことがあるんでしょうか」
「これで二者がかえります、逆転です。4-3」
「こんなことって広沢さん、ないですね」
「見たことないですね」

実況中継のアナウンサーはサジを投げた。解説の広沢は呆れた。ファンはヤケクソでジェット風船を飛ばした。

その1球は、このイニング、9回表に榎田が投げた球の中での23球目に当たる。

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