世の中を震撼させる“不謹慎映画”『先生を流産させる会』内藤瑛亮監督インタビュー
タイトルを聞いただけで、不快に感じる人も少なくない。そんな問題作『先生を流産させる会』の監督は、29歳の見た目穏やかな青年。彼が、このショッキングなテーマを題材に選んだ理由とは……?
■『告白』が公開されて「カブってる!」って
―『先生を流産させる会』は2009年に愛知県の中学校で実際に起こった事件がモデルですよね。なぜこの話を映画化することに?
内藤 その前に撮ったのが『牛乳王子』という15分の学園ホラーだったんですが、自主映画の映画祭に手当たり次第応募しても、もう箸にも棒にも掛からないんです(笑)。たまに上映されても、女性客の「やだ〜」「キモイ」っていう声がボソボソ聞こえたりして。
―それは「教室での自慰行為を好きな子に見られた中学生が笑い者にされ自殺するが、彼の怨念が殺人鬼・牛乳王子となって女子たちを皆殺しにする」という作品内容のせいじゃないですか?(笑)
内藤 ですかね(笑)。「ちきしょう……」っていうフラストレーションはどんどんたまるんですけど、かといって、映画は人に観てもらえないと存在しないのと同じですから。それなら、大きな話題になった社会事件を題材にすれば、たくさんの人が振り向いてくれるかもしれない、と思って。
―それで、生徒たちが妊娠した担任の先生を流産させようと給食に異物を混ぜたりした悪質な事件に行き当たったんですね。
内藤 特に、生徒たちが結成した「先生を流産させる会」というグループ名の、言葉の禍々(まがまが)しさにショックを受けて。例えば「先生を殺す会」より「流産させる会」のほうが、はるかにおぞましい印象を受ける。そこを逆説的に突き詰めていけば、より肯定したいもの、大切にしたいものが描き出せるんじゃないかなと思ったんです。
―実際の犯人グループは男子ですよね。映画で女子に変えたのは、何か理由があったんですか?
内藤 先生が妊娠していること自体に嫌悪感を抱くキャラクターじゃないと、描きたいテーマに迫れません。女生徒にとっては、妊娠って将来自分にも振りかかってくる問題ですよね。また、先生にしても、思春期の彼女たちは自分の過去の姿でもある。そっちのほうが生々しいな、と思って。
―今回の作品に似た陰湿な学園内バトルの映画というと、大ヒットした中島哲也(なかしまてつや)監督の『告白』があります。
内藤 はい。実はこの映画を準備していた一昨年に『告白』が公開されて、「やっべえ、カブってんじゃん!」って(笑)。でも実際『告白』を観たら、確かにとても面白かったんですけど、自分の撮ろうとしているスタイルとは全然違ったんです。キャスティングにしても、向こうは芸能人のきれいなコたちだけど、こっちはガチの素人がメインですから(笑)。
―生徒役は全員素人なんですよね。特に主犯のミヅキ(小林香織)のインパクトは強烈! っていうか、マジで怖いんですけど……。
内藤 演劇部に入っているコはいたけど、映画はみんな初めてでした。ミヅキなんて、まったく演技したことがなかったんですよ。
―そんな素人たちをまとめ上げていくのは苦労したのでは?
内藤 現場では子供たちにはあまり論理的に説明せず、「あいつ、ムカつくヤツなんだよ」くらいのシンプルな感情だけ伝えて演技してもらった感じです。だいたい何回撮っても、1回目のテイクが一番いいんですけど(笑)。
■ずっと誰にも振り向いてもらえなかった
―実際、「『告白』より面白い」という声も上がっています。週プレの名物編集者・ヤノアツも、合コンで「一番好きな映画」と言っているみたいですよ。
内藤 ありがたいことです(笑)。むしろ『告白』と比較して観てもらいたいですね。同じテーマを扱っても、絶対的な真理はひとつじゃなくて、別の視点や判断があるんだっていうことを、お客さんが考えてくれたらなと思います。
―学校の現場の描写もリアルですが、取材はかなりされました?
内藤 実は僕、大学で教育学部だったんです。別に教師になりたかったわけじゃなくて、何も具体的な将来の展望がなかったから適当に入っただけなんですけど(笑)。だから教師の知り合いが多くて、いろんな学校のエピソードが集まってくるんです。
―自主映画ながら、ついに劇場公開まで漕(こ)ぎ着けましたね。賛否両論ありますが、ともかく話題の作品となっています。
内藤 これまで、ずっと誰にも振り向いてもらえなくて。学生時代にはマンガを描いていたんですが、雑誌に投稿しても毎回落ちる。演劇もかじってみたんですけど、やっぱりダメ。バイトなんか何をやっても最悪で……。ようやくこの映画を作って、とりあえず世間が振り向いてはくれたなって。まあ、すっげえ怒られているんですけど、いいんです(笑)。あとは実際に観てもらえれば。
― 鬱屈(うっくつ)してますねえ(笑)。そんな監督の映画作りの基本には、やはりホラーがあるんですかね?
内藤 突き詰めて自分が描きたいものを考えると、ホラーというより恐怖映画ですね。何かに対する「怖い」っていう感覚とか、なぜ人間はそれを怖いと思うのかを、自分なりの映画表現でやりたい。それは今回の作品にもつながっていると思います。
―今後のご自身の展開はどのように考えています?
内藤 今年30歳になるんですけど、本当に人生の分岐点にいるな、とは感じていて。依頼はあるので、職業として映画監督をやっていくか。でも、大学卒業後に就いている仕事もすごく楽しくて……。迷っています。
―それじゃ「職業・映画監督」としてオトナの男女の恋愛映画なんかを撮る可能性もあると?(笑)
内藤 うーん……。僕、映画のセックスシーンって苦手で。その前の段階ならドキドキできるんですけど……。「セックスなんて、生々しすぎる」みたいな感覚です。
―なんですか、その童貞感は!
内藤 全然モテなかった10代の頃抱えていた鬱屈を、未清算のまま引きずっているんですよね。
―その鬱屈感を失わず(笑)、これからもがんばってください!
(取材・文/森 直人 撮影/佐賀章広)
●内藤瑛亮(ないとう・えいすけ)
1982年生まれ。映画美学校の修了制作として撮影した短編『牛乳王子』が「学生残酷映画祭2009」のグランプリを受賞。卒業後、社会人として働きながら自主映画を制作。今回の作品が自身初の長編映画となる
映画『先生を流産させる会』
東京・渋谷ユーロスペースほか全国順次公開中
担任教師の妊娠に嫌悪・反発し、「先生を流産させる会」を結成した女子中学生5人。彼女たちは給食に異物を混ぜたり、教師のイスに細工をするなど、嫌がらせを始める。(c)2011内藤組