小惑星「イトカワ」から微粒子を持ち帰った探査機『はやぶさ』プロジェクトに関わった吉田教授(右から2人目)が挑む、夢のような月面車レースとは

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 今、「一番早く月に行き、500メートル走ってきたものが勝ち」という月面車レースが開催されているのをご存じだろうか?

 レースの名前は「グーグル・ルナー・Xプライズ」。民間の技術と資本だけで実現できる宇宙飛行を目指し、96年に設立されたアメリカの「Xプライズ財団」が主催しており、スポンサーはグーグル。ルールは、月面に“純民間”開発の無人探査機を着陸させ、その地点から500メートル以上走行、そして高解像度の動画、画像を地球に送信するというもの。期限は2015年12月31日までで、最初にクリアしたチームに2000万ドル、2位には500万ドルが与えられるほか、あらかじめ課せられたミッションをクリアすることで最大で500万ドルが加算され、賞金総額はなんと3000万ドル(約23億円)。現在、米国や中国など18ヶ国の29チームがエントリーしている。

 それらのひとつ「ホワイトレーベルスペース」(以下、WLS)という国際集団には、日本のチームも参加している。中心となっているのは、東北大学大学院・工学研究科の吉田和哉博士(航空宇宙学)だ。「はやぶさ」プロジェクトにも携わった吉田博士はコンテストの勝算について、次のように語る。

「トップから4、5チームは開発が順調に進んでおり、WLSもなんとかその中に入っています。技術的にも組織面でも頭ひとつ抜け出しているのが、アメリカのカーネギー・メロン大学のメンバーを中心とする『アストロボティクス』。リーダーのウィリアム・レッド・ウィタカー教授は、NASAの研究やDARPA(米国防高等研究計画局)の自律ロボットレースなどに積極的に参加しており、険しい環境で動かすロボットは専門分野です。私たちも勝算ありと思っていますが、最終的には資金力の勝負でしょう」

 確かに優勝すれば莫大な賞金が与えられる同コンテストだが、参加チームにとって一番の問題は、開発資金をどう捻出するか。なにしろ月まで行ける宇宙船だ。とても一個人や一企業で捻出できる額ではない。

 WLS日本チーム代表の袴田武史氏は「開発費はサポーターの方からの応援金と企業からのスポンサードで賄(まかな)います。WLSのプロジェクトの予算は4年間で約55億円ですから、極端な話、例えば日欧で平均1500円を約360万人から集めれば可能になる計算」として、広く個人の応援を募り、並行してスポンサー企業を探していくと語る。

 コンテスト優勝の成否を担うスポンサー探しのため、吉田博士は「応援金を提供してくださる個人の方には『ルナー・マイレージ』を発行し、それをためることによってローバー(月面探査機)の操縦権などを提供したいと考えています」という。

「国家による宇宙開発は税金を使うため慎重な議論が必要で、スピードが遅れがちになる。国際宇宙ステーション建設にも時間がかかりましたし、最近ではアメリカの有人月面基地計画がキャンセルされてしまいました。これからは民間でもっと競争させて“革命”を起こしたいというのが、『Xプライズ財団』の願いです。宇宙に行きたい、宇宙をより知りたいという気持ちは、普遍的に人々の心の中にあるはず。それを現実へと結びつける道筋を示すことが私たちの役目だと考えています」(吉田博士)

 WLSは今後、月にたどり着くまでの技術開発情報を随時発信し、一般からも広くアイデアや意見を求めていくという。つまり一般の人も、資金やアイデアを提供することで宇宙開発に参加できるということ。多くの人の夢を乗せた月面車、打ち上げの予定は2014年だ。

(取材/世良光弘、撮影/五十嵐和博)


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