一言では言えない複雑な映画にしたかったんです

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「クレヨンしんちゃん」の映画シリーズなどで高い評価を受ける原恵一監督が、長年に渡り映像化を考えていた「河童のクゥと夏休み」が、7月28日、全国ロードショーとなる。
「河童のクゥと夏休み」は、現代によみがえった河童の子供と少年、そして少年たちを取り巻く人々とのひと夏の出来事を描いた心温まる物語だ。

原作に出会ってから20年。アニメ映画化を実現させた原恵一監督のインタビューの後編をお送りする。
・前編はこちら

■今回の作品では声優ではなく役者の方々を起用されていますが、その狙いは何なのでしょうか

タレントさんを使うということもありますけれども、クゥも含めて中心になる子供たち、その辺の声はなるべく設定年齢に近い人にやってもらおうというのは最初から思っていました。今まで自分がやっていたアニメとは違う、意外な部分が欲しかったんですね。ずっと大人の声優さんと仕事をしていましたから。
もちろん、声優さんたちの技術はものすごいものがあって、だいたいこっちが望んだことを返してくれるわけですよね。子供だとそうはいかないだろうと思っていたのですが、あえて今回はそうしようと思ってやったんですけど、思った以上に大変な思いをしましたね。

■どのようなところが大変だったのでしょうか

まず、どう指示していいかわからないわけです。
大人の声優さんたちとは、共通言語があるわけですよね。
子供に、そんなことをいきなり言っても通じない。だから、そういうこまごまとやらないといけないだろうなと思っていたのですが、やりはじめたら思った以上に大変だった。でも、子供にしか出せないような感じというのは、ちゃんと録れたと思っているので、それで良かったと思っています。

■子供たちから学んだことはありますか

最初は、途方に暮れたんですよ。アニメのアフレコというのは、大抵の場合、完成した絵ではなく作っている途中の絵でやるわけですよね。声優さんはそういうのに慣れているので、見ればどこで何を言うかが分かるんですよね。
最初、子供たち相手にビデオをまわし始めたときに、彼らはどこで何を言ったらいいのかわからないわけです。ここから始めなければならないのかと。子供たちも苦労したと思いますよ。
ただ、同じ年頃の子供たちが集まると、賑やかですね。スタジオの待合室が運動場になっていましたね。それを横目で見て、またイライラするんです(笑)。
「お前ら、楽しそうだよな。こっちは、ハラハラし通しだよ」と。最初は思ったとおりに行かなくて、結構、イライラしていたのですが、最後には子供ってすごいなと思ったんです。やっぱり、どんどん上手くなったんです。感動しましたね。クゥの役をやった冨澤君は、クゥが追い詰められる孤独なシーンで、やりながら涙をこぼしていたので感動しましたね。

■収録はどれくらいかかったのですか

ほぼ、一ヶ月くらいです。子供なので、収録が土日になるんですね。毎週末、朝から夜までやっていましたね。

■次の週までにやるべき課題を出されたりされましたか

あまり、そういうのはやらなかったですね。ただ、思ったペースで進まなかったのは、ハラハラしていました。十分に終わるスケジュールだと考えていたのに、これ終わるのかなと思いましたからね。終わるような気がしなかったです。気が遠くなっていましたよ(笑)。

■子供たちへのさじ加減が大変でしたか

初めてだったので、どのように話したら彼らが分かってくれたり、のってくれたりするのかなと探りながらでした。心の中で、「何でできないんだよ!」と、つっこんだことは一杯あります。

■一方、大人の役者さん達はどうでしたか

今回は、子供たちと大人のタレントさんや声優さんと一緒に収録すると、多分メチャクチャになるなと思ったので、子供たちは子供たちだけにしたんですよ。
プロの声優さんたちも、沢山の役があるので一斉に録ったわけではなくて、何日間かに分けて録りました。タレントさんに関しては、それぞれ一人ずつでしたね。僕は一人に集中して録れば良いと思っていたのですが、やる方からすると「やり辛かった」というのは聞きました。で、子供たちも言っていたので、「お前らが、それを言うか」と(笑)。