■「人間は嘘をつき、河童は嘘をつかない」というように、この物語の中では「嘘」という言葉が、キーワードだと思われるのですが、監督はどのような思いで、この言葉を使われたのでしょうか

僕の創作です。それが河童というものの性質をすごく現すことになるんじゃないかなと思ったんです。「嘘」というのは人間だけのもので、妖怪はそんなものすら考えたこともない存在だと考えたんです。

■子供たちは、その「嘘」という言葉の意味を感じ取ったようでしたか

どうでしょうね。アフレコの後、話をする機会がないんです。ですから、出来上がったものを見て、彼らにどう思ったのかすごく聞きたいんですよ。
でも、まだ聞けていないですね。クゥの冨澤君は、試写に来たときにちらっと会ったんですけど、お母さんたちも居るわけですよね。そこで、面白かったと聞いても、面白くなかったとは言えないわけです。もうちょっと、ゆっくり聞きたいですね。

■作品の上映時間が138分という長編作品ですが、作品時間はどう思われますか

僕としては、あまり長いとは思っていないんですよね。絵コンテを書き上げた時点で、3時間あったんですから。ただそれは、自分でもリアリティのある長さではないと思っていたので、当然切ることになるだろうと。
やっぱり一度切って、まだ長すぎる。じゃということで、また少し切ってというようなことを何度か繰り返したわけですよね。それで今の尺に落ち着いたんです。だから僕としては、映画の長さだけでいうと不十分なんですよ。本当につらい思いをして、一杯切りましたから。

■子供たちが見るには138分でも長いと思われるのですが、子供たちが飽きないような工夫なども考えられたのでしょうか

今回は、そういうことは意識していないですね。せっかく、20年間抱えていた企画ができる機会があったときに、多くの人に見てもらいたいという思いはありますけれども、「それほど抱えていた企画をやるのに、人に媚びたようなことをするなよ」と、自分に言い聞かせていましたよね。「いいだろう、今回は」と。
ただ、商業作品をずっとやっていますから、身に着いたものというのはあると思います。いやらしい言い方をしますと、それなりのテクニックが多少はあると思うので、そういうものは使っています。

■今までの「クレヨンしんちゃん」シリーズと、今回の「河童のクゥと夏休み」との作り方の違いはありますでしょうか

自分が思った以上に大きな違いでしたね。「しんちゃん」では、粗筋を書いて脚本を書かずに絵コンテを描くというやり方をしていて、今回もそうやり方で臨みました。
ただ、「しんちゃん」と全然違うんだなと、やり始めて気がついたんです。それは、自分の中にキャラクターが育っていないんですね。「しんちゃん」はまず原作があって、テレビのアニメがあって、映画があって、声優さんもどんな声で何を話すか大体わかっているわけです。「河童のクゥ」では、それが全くないというのが、うかつにも気がつかずにやり始めて、途方に暮れましたね。

■キャラクターを育てる楽しみはなかったのですか

それは、なかったですね(笑)。
正解がなかったので、作っている間はずっと辛かったです。これだけ長いこと考えていると、何をやっても正解に思えないんですよ。この人はここでこういうことを言ったけれども、これで本当に正しいのかと。一々ちょっとしたセリフでも、ずっと自問自答の繰り返しでしたね。

■映像表現として気をつけられたことはありますか

一つ大きなものは「水」です。最初、この映画の絵作りのテーマを何にしようかと考えたときに、河童は水の生き物だから、水はなるべく凝ろうと思いました。主にCGのデジタル表現でリアリティを出しています。

■自然は広大に描かれていて、家の中はこじんまりと描かれている印象を受けたのですが、表現上のメリハリをつけようと思われたのでしょうか

なるほど。
別に意識はしていなかったですね。ただ、家の中はなるべく生活感のようなものを出したいなと思っていました。アニメで家の中を表現するのは、大変なんですよ。実写だったら、その辺に適当に転がしていればいいのですが、アニメではそれを全て描かなければならない。それにキャラクターの芝居が絡んだら、もう大変なことになるわけで。
実際、僕は独り者で子供はいないのですが、小さい子供とか、小学生の子供がいる親だったら、多分、あんなもんじゃないと思うでしょうね(笑)。もっと、ごちゃごちゃだよって。なるべくそれに近い形にはしたいなと思っていました。

■最後にメッセージをお願いします

この映画が出来上がり始めたあたりで、何となく自分でホッとしたのは、これは何にも似ていない映画になるなと思ったんです。そういうものが作りたかったんだと。
それは、自信を持って見てもらえると思えました。特にここを見て欲しいというのはありません。一言では言えない複雑な映画にしたかったんです。見ていただいて、いろんなことを考えていただけると嬉しいなと思います。

原 作:木暮正夫
監 督:原恵一
脚 本:原恵一
音 楽:若草恵
出 演:田中直樹(ココリコ)、西田尚美、なぎら健壱、ゴリ(ガレッジセール)、冨沢風斗、横川貴大、植松夏希 ほか
配 給:松竹
公式サイト: http://www.kappa-coo.com/ 
7月28日、全国ロードショー

『河童のクゥと夏休み』原恵一監督「この映画は僕の夢の企画だった」前編【独占インタビュー】

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