『さよならノワール』“元暴力団員役”佐久本宝が存在感を発揮 小池栄子との演技合戦が白熱
フジテレビ系ドラマ『さよならノワール』第5話では、西池袋署・犯罪被害者支援室の夏海(小池栄子)と絵梨子(北香那)が、暴行事件の被害者となった元暴力団員・高坂(佐久本宝)の支援にあたる。
参考:『さよならノワール』なぜ“犯罪被害者支援”をテーマに? 井上由美子がドラマに込めた願い
高坂は勤務先の自動車工場で、同僚の泉(八木将康)から鉄パイプで殴られ、重傷を負った。工場の金庫から消えた現金300万円を盗んだと決めつけられたのだ。かつて指定暴力団「祥仁會」に所属していた高坂は、3年前の逮捕を機に脱会を決意。夏海や山崎(渡部篤郎)、河口(眞島秀和)の尽力によって組を抜け、一丸(おかやまはじめ)が営む工場で再出発していた。
元暴力団員への支援に慎重な絵梨子に対し、夏海は自ら脱会を望んだ高坂の更生を見届けたいと訴える。室長の貴子(戸田恵子)は夏海の強い思い入れを懸念し、絵梨子を中心に動くよう指示した。
病室を訪れた2人の前で、一丸は高坂の手を握り、「これっぽっちも疑ってないよ」と言い切る。ところが高坂は、「300万を盗んだのは俺です」と突然告白。説明には曖昧な点が多く、絵梨子が「本当のことを言えない理由でもあるんですか」と踏み込むと、高坂は怒りをあらわにする。正しさを求める絵梨子の言葉は、高坂が守ろうとしているものにまでは届いていなかった。
一方、夏海自身も絵梨子のカウンセリングを受け、過去を語り始める。山崎が姿を消した夜、待ち合わせ場所へ向かった夏海が家を空けている間に、娘が母を捜して外へ出て交通事故に遭ったこと。その出来事が離婚のきっかけになったこと。夏海が山崎を捜し続ける理由には、彼の失踪だけでなく、あの夜から止まったままの時間もあった。
支援室に戻った絵梨子は、「黒木さんのことを考えていました」と話す。過去の選択が正しかったかどうかではなく、これから正しいものにしていけばいい。第1話では知識を先に立たせていた絵梨子も、夏海と行動をともにする中で、その人が抱えてきた時間を受け止めようとする姿勢を身につけ始めていた。
■『怒り』『エール』『十一人の賊軍』でも光った、佐久本宝の表現力 再び病室を訪れた夏海と絵梨子に、高坂は祥仁會に入った経緯や、組を抜けた理由を話す。そこで口にしたのが、「俺は男になれなかったんだよ。ヤクザとしても、カタギとしても」という言葉だった。夏海に「誰かをかばってるの?」と見抜かれた高坂は、ナイフを手に絵梨子を人質にする。しかし、300万円の盗難は一丸による自作自演だったことが判明。高坂は世話になった一丸を守り、その恩に報いるため、自分が窃盗犯になることを選んでいたのだ。
「こんなことさせてしまったのは、アタシがあんたの気持ちを分かってやれなかったから」。夏海が高坂を責めるのではなく、自分にも責任を引き寄せると、張り詰めていた彼の表情がわずかに崩れる。小池は声を荒らげることなく、低く落ち着いた口調と高坂を見つめ続ける視線に、再び彼を罪人にしてはいけないという切実さを込めた。対する佐久本も、恩人を守りたい思いと、再び罪を背負う恐れを、潤んだ目や言葉をのみ込むような間で見せていく。
高坂を演じる佐久本は、映画初出演となった『怒り』で1200人のオーディションを勝ち抜き、知念辰哉役に抜擢。第40回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。その後も、NHK連続テレビ小説『エール』で主人公の弟・浩二、映画『十一人の賊軍』で純粋な青年・ノロを演じてきた。今回も一丸への恩義と再び罪を背負うことへの恐れの間で揺れる高坂の内面を、抑えた声や視線の動きで丁寧に表現。小池の静かだが力強い語りかけを受けるたびに高坂の強がりがほどけていく、その繊細なやり取りに説得力があった。
夏海はさらに、「どん底から這い上がって、過ちを乗り越えて、歯を食いしばって頑張ってきたアンタだからこそ言えることでしょ」と訴える。一丸の罪を代わりにかぶるのではなく、過ちは過ちだと伝えること。それこそが高坂にしかできない恩返しであり、彼が求めていた“男になる”ということなのだ。
誰かを守るために自分を犠牲にするのではなく、相手が過ちから立ち直れるよう向き合う。小池の静かな訴えと、佐久本の揺れ動く表情が、高坂が別の生き方を選び直す瞬間を印象深いものにした。「男になれなかった」と自らを否定していた高坂が、過去を背負ったままでもやり直せることを示した第5話だった。(文=川崎龍也)

