小田原ドラゴン クロちゃん 撮影/松山勇樹

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ダメな男だった。でも、どこか憎めない愛嬌があった──。安田大サーカス・クロちゃんのキャバクラ仲間であり、漫画家・小田原ドラゴンの作品にもしばしば登場する石川キンテツさんが亡くなった。2人にとって故人が特別な存在だったことは疑う余地もなく、その思い出を語るうちに思わず涙する場面も。3回にわたって掲載した超ロング追悼対談も、この後編が最終回。天国にいるキンテツさんは両巨頭の“答え合わせ”に何を思うか?(前中後編の後編)

【前編はこちら】クロちゃん・小田原ドラゴン初対談「友達を亡くすということ」共通の友人への鎮魂歌

【中編はこちら】クロちゃん×小田原ドラゴン「友達を亡くすということ」愛すべきクズと過ごした青春時代と絶縁

【写真】小田原ドラゴンが描いた石川キンテツのイラスト

──さて、そんな“愛すべきクズキャラ”石川キンテツさんですが、先日、お亡くなりなったことが判明しました。一般的にはドラゴン先生のX(旧ツイッター)へのポストで知られることになりましたが、そのときの率直な想いをお伺いできますか。



クロちゃん 僕もドラゴン先生の投稿によって知ったんですけど、最初の一報は「亡くなった」ということではなかったんですよ。その時点では、あくまでも「音信不通」という状態でしたから。ただ、嫌な予感はしましたね。「これが入院だったらまだいいけど、もしかして……」と。

小田原 キンテツの異変に気づいたのは本当に偶然だったんです。その前に僕は女性との婚約が破綻になったんですね。そして、それをキンテツに伝えようとLINEしたんです。でも、それが1週間くらい既読にならなかったんですよね。常にスマホを握っているような奴だから、これはさすがにおかしいなと思いまして。それで確認しにキンテツの家へ行こうとしたんですけど、肝心の住所がわからない。「心配だな。どうしているのかな」ってXに書いたら、「僕、キンテツさんの住所わかるかもしれません」という人が現れまして……。

クロちゃん どういうことですか?

小田原 僕が最後にキンテツに会ったのが6月11日。そのとき、キンテツが言っていたのは「2週間後にコンカフェ嬢のバースデーイベントがある」ということ。ちなみにそのバースデーというのはニセモノだったんですけどね。

クロちゃん ニセのイベントとは? 

小田原 実際は誕生日でもなんでもないんだけど、その子は売上が欲しかったみたいで八百長のバースデーイベントを開催したんです。もちろんキンテツはそんなことを知る由もなく、参加したがっていました。ところが、困ったことにキンテツにはそのためのお金がない。それでわざわざ電車に乗って、千葉に住んでいる知り合いのところまでお金を借りに行ったんですね。

クロちゃん 妙なところで行動力があるからなぁ。

小田原 僕にDMを送ってくれたのは、その千葉の知り合いの方でした。イベント当日、キンテツは無事にシャンパンを入れることができたらしくて。そして借りたお金を千葉に送ったんですよ。その送付元にキンテツの住所が書かれていたというわけです。

クロちゃん なるほど。それでドラゴン先生はキンテツの家を突き止めることができたのか。

小田原 様々な奇跡が重なった末の出来事だったと言えるかもしれません。ニセのバースデーイベント、金欠状態にあったキンテツ、借金返済……。とにかくそれでキンテツの家に行ったんですけど、結構ボロボロなマンションだったんですよ。共有スペースに粗大ゴミが乱暴に積まれているような感じで。キンテツは昔から無駄に高級志向があったから、その時点で軽いショックは受けましたね。「キンテツ、こんなところに住んでいたんだ……」って。

クロちゃん ドラゴン先生のXによると、その1〜2週間後くらいでしたかね。キンテツのお父さんから正式に訃報を聞いたのは。

小田原 キンテツが倒れたのは7月8日。そして7月11日には葬儀も済ませていたそうです。僕がお会いしたのはそこから2週間くらい経ったタイミングだったので、お父さんもすでに吹っ切れているような印象を受けました。少なくても悲壮感はなく、わりと明るく対応してくれた感じで。

クロちゃん そうかぁ……。

小田原 家の中にも入れてもらったんです。ワンルームで本当に狭くて……たぶん5畳くらいなのかな。家賃も4万チョイという話でしたし。「キンテツも晩年はこんなところに住んでいたんだな」って、しみじみするものがありましたね。

クロちゃん なんだかなぁ……。もともと俺は、芸人をやっているくせに友達が極端に少ないんです。たかみなからも「半径2メートルの中で生きている」って笑われるくらいで。だけど、キンテツは間違いなく友達だった。一時はものすごく仲がよかった。その頃のことを、どうしたって思い出しちゃうんですよ……。キャバクラでお酒を飲んだあと、「うちらはずっと仲良しでいようね」って話したりしてね。

──そんなこともあったんですね。



クロちゃん なんというか、人間関係って結構うつろいやすいものじゃないですか。キンテツにはよく言っていたんですよ。「一瞬だけ仲良くなるんだったら、相手の懐に飛び込めばなんとかなるのかもしれない。でも、うちらは10年経とうが20年経とうが、お互いがどんな仕事をしていようとも、ずっと一緒にいよう」って。どちらかというと、そういうことを俺が一方的にしゃべって、キンテツがうんうんと頷く感じ。だけど結局は俺から切ったわけだから……。そして、もう二度と会えなくなって……(※涙ぐむ)。

小田原 急な出来事でしたからね……。

クロちゃん こうなってしまうと、その事実が自分的にキツいんですよ。それで、昔キンテツと3人で仲がよかったサンミュージックの大関さんに連絡したんです。大関さんも、そろそろ久しぶりにキンテツへ連絡しようかなと思っていた矢先の出来事だったらしくて……。俺は大関さんに「キンテツのことを話しながら、ごはんでも食べましょう」と誘ったんですけど、大関さんは「無理かもしれない。今、クロちゃんと会ったら泣いちゃうと思う」と。電話越しにも憔悴しきっているのが伝わってきました。でも、俺は言ったんです。「それでいいじゃないですか。泣くために会いましょう」って。実際、それで大の男が2人で会ってボロボロに泣いたんですけどね……。

──クロちゃんにとって重要な人物だったことは伝わってきます。



クロちゃん だってキンテツはバカだけど親友だったし……。もう二度と会えないってことを考えたら、そりゃ後悔だってしますよ……(号泣)。

小田原 それで言うと、僕は逆にキンテツが死んだという実感がいまだに沸かないんです。なんだか今でも急にLINEとか電話が来るような気がして。たとえば新宿とかに行くと、アルタ前にキンテツが立っているんじゃないかって思ったりもしますし。

──ドラゴン先生のポストがなかったら、キンテツさんが亡くなったことは世の中に知られないままだったと思います。



小田原 キンテツのことを思い出そうとすると、出てくるエピソードすべてが本当しょうもないんですよ。ただ、僕は生前にキンテツ本人から“石川キンテツフリー素材権”というのを5万円で買っていますからね。それによって、キンテツのことは何を書いてもOKという話になったんです。だから、これからも僕の漫画の中でキンテツは生き続けますよ。何かしらキンテツのキャラクターは描いていくと思いますし。

クロちゃん いや〜、それは真剣にありがたいですね。ドラゴン先生が描くキンテツに対して、俺はどの読者よりも共感している自信があるんです。「そうそう! 本当にこういう奴なんだよ!」って激しく膝を打つと言いますか。今日は本当にドラゴン先生にお会いできてよかった。いかにキンテツが自分を大きく見せるかというのも再確認できましたし。話していて、いろんなことの答え合わせができた気がします。

小田原 改めて呆れた部分も大きかったですけどね。

──ちなみにドラゴン先生の“第2期絶縁”はどういう理由だったんですか?



小田原 女性絡みですね。個人情報もあるので細かくは話せませんが、キンテツの交際女性とキンテツの2人がタッグを組み、僕の悪口を各所で言いまくっていたんです。その内容が看過できないほどひどかったものですから……。

クロちゃん ドラゴン先生にこれだけお世話になっているにもかかわらず、とんでもない話ですよ。ヤバい二枚舌ですね。今だから暴露すると、キンテツは俺の前でもドラゴン先生のこともボロクソに言っていました(笑)。

小田原 ……あの男(苦笑)。

クロちゃん 人が亡くなると、実際の姿より美化して語られたりすることが多いじゃないですか。僕もうっかりキンテツのことをいい思い出にしようとしていた節があるんですけど、ドラゴン先生と話してそれが大間違いだと再確認できました。中途半端な美談にするのは、キンテツの場合、本当の意味での成仏にならない気がします。

小田原 そこは僕も同じように考えていました。なかなか珍しい存在だと思うんですよね。たとえば国際ロマンス詐欺に200万も盗られたり……。

クロちゃん えっ、マジですか!?

小田原 Tinderに登録すると、モデルみたいな女の人から「私とセックスしましょう」みたいなメールが山ほど来るんですよ。いわゆるサクラで。だけどキンテツは自分の都合がいいように解釈するものだから、「今、僕に興味を持っている女の子は大体こんな感じです」とか得意気にスマホの画面を見せてきて。

クロちゃん そんなの、スター・ビーチとかが流行った時代にみんな学習しましたよ! そういえばキンテツ、AV女優と10人以上つき合ったことがあるとか自慢していたもんな。あれも今思えば相当に眉唾なんだけど……。ドラゴン先生、今度、ごはんでも一緒に行きましょうよ! これだけキンテツのことを語り合っても、まだ話し足りない気がするので(笑)。

小田原 ぜひぜひ! 僕らが“答え合わせ”することで、あの世にいるキンテツは焦っているかもしれませんが(笑)。

▽くろちゃん
1976年、広島県生まれ。01年、団長安田、HIROとともにお笑いトリオ・安田大サーカスを結成。強面のルックスに女性のような甲高い声が特徴で、バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などで炎上騒動を起こすこともしばしば。アイドルやキャバクラにも造詣が深い。近著に『日本中から嫌われている僕が、絶対に病まない理由 今すぐ真似できる! クロちゃん流モンスターメンタル術30』(徳間書店)。

▽おだわら・どらごん
1970年、兵庫県生まれ。98年、『週刊ヤングマガジン』(講談社)の『おやすみなさい。』で初連載を果たすと、モテない男のペーソスを描いた作風で多くの支持を獲得。代表作『チェリーナイツ』(講談社)はドラマ化もされている。また『小田原ドラゴンくえすと!』(小学館)では、石川キンテツさんとタッグを組んで様々なスポットをレポート。近年は車内泊や愛犬をテーマにした作品をするなど、マルチに活躍している。