手取り22年間で51万減の試算も…“106万円の壁”撤廃でどうなる?

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厚生労働省の審議会で、“106万円の壁”をめぐり、議論が行われました。

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年収106万円は、パート労働者に社会保険への加入義務が発生するライン。年15万円程度の社会保険料負担が生じ、その分、手取り収入が減少します。年収が約125万円になれば、手取りが戻りますが、106万円の手前で“働き控え”をする人が多いという問題です。

現在、社会保険への加入義務が生じる年収106万円以上、従業員51人以上、週20時間以上の労働という条件を、週20時間以上の労働という条件のみに見直す方針です。つまり、労働時間が週20時間以上であれば、年収を問わず、社会保険料を負担することになります。

新たに加入義務の対象となるのは200万人。受け止めはさまざまです。

週に30時間ほどのパート勤務の女性。週20時間以上労働という条件に当てはまるため、新たに社会保険料を負担することになります。

パート勤務
「もともと出産前は営業職やっていたので、バリバリ働いていた。妊娠を機に仕事を辞めて。(106万円の)壁がなくなるのであれば、私ももっと働ける時間はあるので、もうちょっと仕事はしたいなと思います。(Q.週20時間未満におさえるのではなく)そうですね、働きたいです」

働く時間を増やせない事情がある人もいます。

パート保育士
「実際問題、今、子どももいて、主人が家にいない単身赴任なので、それで子どもに何かがあると、自分がどうしても休んで、子どものことを見なきゃいけないってなると、あまりいっぱい働こうってまではいかない」

保育士として働く女性は、今後も社会保険の負担が生じないよう、週20時間を超えないペースで働くつもりだといいます。

そもそも“社会保険の壁”が始まったのは、1985年の制度改正。“男性が外で働き、女性は家庭に”という価値観が強かった時代に、保険料を払わなくても専業主婦が年金を受け取れるよう優遇するというものでした。時は過ぎ、働く女性が増え、社会が変化するなかで、なるべく多くの人に社会保険料を負担させ、老後の年金を手厚くしようというのが、政府の立場です。

15日の審議会でも、“106万円の壁”を撤廃すべきとの意見が多くを占めました。

厚労省は、年内に議論をとりまとめ、来年の通常国会に必要な法案を提出したい考えです。

◆そもそも、私たちの“手取り”は、どれだけ減っているのでしょうか。

ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんが試算した年収700万円の会社員を例として、税金や社会保険を引いたいわゆる“手取り”が、この20年でどう変化したのかというグラフを見てみます。

2002年に手取り収入は587万円ありました。それが、2008年には565万円と、22万円減っています。これは、社会保険料の値上げや配偶者特別控除の一部廃止などによるものです。

さらに、565万円から子どもの扶養控除の縮小・廃止により、2024年には536万円にまで減らされてしまいます。試算では、22年で手取りは51万円、減少したということです。

一口に“壁”といっても、性質が異なります。国民民主は『手取りを増やす』をスローガンに掲げ、“103万円の壁”を撤廃しようと主張。これは、「控除額」を増やす、つまりは減税ですので、手取りが増える話です。ただ、税収が大きく減るため、自治体などから懸念する声も出ています。

一方、厚生労働省で議論が進む“106万円の壁”“130万円の壁”は、社会保険料の壁です。例えば、106万円の壁を撤廃するということになると、今は配偶者の扶養に入っているパート労働者も保険料を負担することになり、単純に手取りも減ることになります。一方で、保険料を負担するので、将来もらえる年金は増えることになります。

また、立憲民主党は“130万円の壁”について、手取り減を補う給付金制度の法案を国会に提出しています。

深田さんは「制度が複雑で、実際にどれだけ働けば良いのかわからない。例えば、従業員51人以上の企業で働くパート労働者の場合、“106万円の壁”を意識する人が多いが、125万円を超えて働けば手取りが増えることを知らない人が多い。“壁の撤廃”の議論とともに、働く人にわかりやすい制度にする必要があるのでは」と指摘しています。