これが無いと、私たちの身体はすぐバラバラに…宇宙で最も重要な「強い力」の正体とは
138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか?
本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。
*本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
「重力」はこの世界で一番小さい力
この宇宙で働く4つの力を整理すると、私たちが常に感じることのできる電磁気力と重力、感じることがなかなかない強い力と弱い力に分けることができます。
私たちは、地球の重力によって常に、地球に引っぱられています。普段意識することはなくても、重力は私たちにとって感じやすい力なので、それがとても大きい力だと思い込んでいます。しかし、それは勘違いです。
例えば、クリップでも釘でも、鉄でできたものを机の上に置きます。そして、クリップや釘の上から磁石を近づけてみます。すると、クリップや釘は机を離れて磁石に吸い寄せられます。クリップや釘には下向きに重力がかかっています。重力がかかっているにもかかわらず磁石に引き寄せられたということは、重力よりも磁石の力、つまり電磁気力の方が大きいということです。
しかも重力は、電磁気力より小さいだけでなく、4つの力の中で一番小さい力です。4つの力の大きさを比べてみましょう(「表:4つの力の大きさと、それぞれの力を伝える素粒子」)。
電磁気力の力を1としたとき、強い力は電磁気力の100倍で、弱い力は1000分の1くらい。ところが重力は電磁気力の10の38乗分の1倍! もし、電磁気力が太陽を持ち上げる力があったとすると、重力は0.1ミリグラムの小さな薬のカプセルすら持ち上げられないくらいの小さな力です。
私たちが生きていられるのも「強い力」のおかげ
では、私たちはなぜ、重力が大きな力だと勘違いしているのでしょうか。
電磁気力にはプラスとマイナスがあり、お互いを打ち消してゼロになることが多いのに対して、重力は引き合う力しかないので、打ち消し合うことがありません。また、質量が大きくなればなるほど重力は大きくなります。私たちは、大きな質量をもつ地球の上で暮らしていて、地球の重力を常に受けているので、重力が大きな力だと感じているのです。
ちなみに、電磁気力と強い力の関係も重要です。強い力が電磁気力よりも小さかったら、クォーク同士をくっつけて陽子や中性子をつくることができません。
電気はプラス同士、マイナス同士が狭い空間にあると反発します。陽子の中にはプラスの電気をもったアップクォークが2個あり、中性子の中にはマイナスの電気をもったダウンクォークが2個あるので、反発して離れようとしています。でも、離れずに陽子や中性子をつくれているのは、強い力が引きとどめてくれるからです。陽子や中性子がバラバラになっていたら、私たちの体をつくる原子ができなくなってしまいます。
私たちが生きていられるのも、強い力があるおかげです。
力の運び役としての素粒子たち
この宇宙に存在するものは素粒子でできています。実際、原子をつくる素粒子と、それによく似ている仲間の素粒子が発見されました。実は、素粒子にはもう1つのグループがあります。それが、力を伝える素粒子たちです。4つの力は、それぞれ異なる素粒子によって伝えられます。
磁石が鉄を引き寄せるときは、磁石と鉄の間で電磁気力を伝える「光子」という素粒子がキャッチボールのように交換されることで、力が働きます。電磁気力の場合は、電気の符号によって異符号なら引き寄せ合い、同符号なら反発します。
強い力が働くときも、いくつかのクォークの間で強い力を伝える素粒子「グルーオン」が交換されることで、それぞれのクォークに関係が生まれ、くっつきます。
弱い力の場合は、例えば、中性子の中のダウンクォークに弱い力を伝える負電荷の「W粒子」が働いて、中性子を陽子に変化させます。また、弱い力を伝える「Z粒子」も見つかっています。
クォークや電子など、ものをつくる物質素粒子の仲間は、グルーオン、光子、W粒子、Z粒子といった力を伝える素粒子を交換することで、お互いに関係ができ、それらの素粒子の間で力が働いて素粒子の状態を変えます。
今のところ、4つの力のうち、電磁気力、強い力、弱い力の3つでは力を伝える素粒子が発見されています。重力にも力を伝える素粒子が存在すると考えられており、一応「重力子」という名前がつけられているのですが、まだ発見されていません。
* * *
さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする。