もはや魔法では…この宇宙を支配する「4つの力」が秘めた「不思議すぎる性質」
138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか?
本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。
*本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
世界に存在する「4つの力」
前回の記事で、この宇宙にあるものは素粒子でつくられているという話をしました。でも、宇宙は「もの」だけではできていません。例えば、サッカー場にボールを持って選手が集まっただけでは、サッカーの試合をしたことにはなりません。ドリブルして、パスして、シュートをすることで、サッカーをしたと言えます。このドリブルして、パスして、シュートしてという動きについて、ここまでまったく触れてきませんでした。この動きを生み出す作用を「力」と呼びます。
この宇宙では、ものだけがあっても、力が働かないと何も起きません。力と聞いて、皆さんはいろいろな力を思い浮かべると思います。ボールを蹴ったり、ゴールに点が入らないようにボールを止めたりする力。ボールを投げたり、バットで打ったりする力。鉛筆の芯を折ってしまう力。「おしくらまんじゅう」をする力もあるでしょう。私たちはいろいろな種類の力を使っている、と思っています。
でも、本当にたくさんの種類の力を使っているかというと、そうではないのです。この宇宙に働いている力を整理していくと、作用ごとに分類できることがわかりました。そして、最終的に残ったのは4種類。その4つの力を順に見ていきましょう。
感謝しかない「電磁気力」
「表:4つの力の大きさと、それぞれの力を伝える素粒子」を見てください。まず、私たちが一番お世話になっているのが電気の力と磁気の力を統括して捉えた「電磁気力」です。私たちは24時間365日、一瞬たりともこの力を使わないときはありません。
私たちの身の回りにあるものはすべて原子でできています。実は、原子が分子としてくっついていることができるのも、電磁気力のおかげです。ものに触れて蹴ったり、止めたりと力を加えるときにはすべて、この電磁気力が働きます。もちろん、「おしくらまんじゅう」のときも、鉛筆の芯を折るときも、日常生活で私たちがものに関わるときはたいがい、この力が働いています。
寝ているときは、何も力がかかっていないのでは? 果たしてそうでしょうか。寝ているときでも、ベッドや布団と接していますから、そこではやはり電磁気力が働いています。しかも、ベッドや布団が動かないで止まっているのは、ベッドや床との間に摩擦が働いているからです。この摩擦も、床と布団の間に電磁気力がかかることで発生しています。
私たちがご飯を食べて動き回るとき、食べ物から吸収したエネルギーは最終的に電気になって筋肉を動かします。また、目や耳などで捉えた情報は電気信号の形になって脳に運ばれますし、考え事をしているときも、神経細胞の中を電気が走ります。こう考えると、さまざまな場面で電磁気力に仕事をしてもらっていることがわかります。私たちは実に電磁気力をたくさん使っています。
「落ちるリンゴ」と言えば…
私たちが普段接している力は、電磁気力の他にもう1つあります。それは地球からの「重力」です。
重力はイギリスのアイザック・ニュートン博士が発見したことで有名です。ニュートン博士はリンゴが落ちる様子を見て、重力を発見したといわれています。
ニュートン博士は、リンゴは落ちるのに、なぜ月は宙に浮かんでいるのか? それが気になったのです。そしてニュートン博士は、実は月だって落ちていることを数学によって導き出しました。落ちているけれども地上に対してすごいスピードで水平に動いていて、落ち切らずに地球の周りを回っているのだと。月もリンゴも何でもかんでも落ちるのだと。
地球が引っぱっているのはリンゴと月だけではありません。すべてのものの間で働く引っぱり合う力という意味で「万有引力」と教わった人もいるでしょう。
私たちが地球上で暮らしていけるのは、地球が大きな重力で私たちを引っぱってくれているからです。月が地球の周りを回っているのも、地球と月が重力で引っぱり合っているからです。もし、地球の重力が月に働いていなかったら、月はとっくの昔に、どこか遠くに飛んでいってしまっています。同じように、地球は太陽の巨大な重力と引っぱり合っているから、太陽の周りをぐるぐると回っていられるのです。
その他の「2つの力」はどこへ?
4つの力のうちで私たちが日常的に接しているのは、電磁気力と重力の2種類だけです。
4つの力のうち、電磁気力と重力以外の力は、原子核よりも狭い範囲にしか働かないので、20世紀になって原子核を研究することによって初めて、そういう力があることがわかってきました。
明らかになった2つの力は、「強い力」と「弱い力」と言います。冗談のように聞こえる名前ですが、れっきとした物理学用語です。でも「強い力」と「弱い力」だけでは何のことだかわかりません。
実は、この名前は大事な部分が省略されています。強い力は「電磁気力よりも強い」力、弱い力は「電磁気力よりも弱い」力なのです。強い力は強い相互作用、弱い力は弱い相互作用とも言います。
強い力は、クォーク同士をくっつけて陽子や中性子をつくるときに使われる力です。この力があるおかげで、プラスの電気をもったアップクォークが複数あっても、マイナスの電気をもったダウンクォークが複数あっても、それらをくっつけて陽子や中性子をつくります。また、プラスの電気をもっている陽子と電気をもっていない中性子をくっつけて原子核をつくるのにも役立っています。
一方、弱い力は他の3つの力と違い、何かを引き寄せたり、押しのけたりする力としては働いていません。例えば大理石からは微量の放射線が出ていますが、このとき、弱い力が働いて粒子の種類を変化させ放射線が出ます。弱い力は、粒子の種類を変える錬金術のような力です。
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さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする。