「こんな上司に悩みなんて言えない」上司の2特徴
部下が悩んでいても「あんな人には相談できない」と思われてしまう悲しい上司には、どんな特徴があるのでしょうか?(画像:8x10/PIXTA)
今、多くの企業が人手不足に悩み、離職を防ぐことは喫緊の課題となっています。
離職を防ぐには、部下の悩みを把握し、その悩みを解消することが求められます。その悩みを把握する方法として面談や1on1があります。
しかし、経営心理士講座を主宰する、一般社団法人日本経営心理士協会の藤田耕司氏は、面談や1on1をしても悩みを抱えている部下が悩みを話していないことは多いと言います。そこで、同氏の著書『離職防止の教科書――いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版』から一部を抜粋・再編集し、面談や1on1で悩みを話さない部下の心理と対処法についてお伝えします。
1on1をしたつもりになっている社長
ここ数年、離職防止やモチベーション向上のために、1on1を導入する会社が増えています。
1on1とは、部下の本音や悩みなどの把握を目的として、比較的フランクな雰囲気の中で部下の発言を尊重しながら、上司と部下の双方向のコミュニケーションを行うものです。
私は経営心理士、公認会計士として心理と数字の両面から経営コンサルティングを行っていますが、1on1の導入に関する相談を受けることがあります。その中でこんな事例がありました。
その会社は離職者が多いという悩みを抱え、その解決のために社長自ら1on1を実施していました。ところが離職者は減るどころか、むしろ増えている気配すらあるとのこと。
そこで私がコンサルタントとして関わり、まず部下の方にヒアリングを行いました。その結果、こういう意見が多く聞かれました。
「社長が『悩みとか不満があるなら話して』と言うものの、社長はトップダウンでものを言う人なので、とてもじゃないけど言いたいことなんて言えないです」
「社長に不満なんか言うと、逆に『お前はわかってない!』って説教されそうで怖いです」
「1on1は部下の話を聞くための機会だって人事から聞いてたんですけど、結局、社長の昔話を聞かされて終わりでした。『ありがとうございます。勉強になりました』と言うと、社長はご満悦でした」
つまり、1on1をしたつもりが、まったく1on1になっていなかったのです。
なぜ社長は部下から本音を話してもらえなかったのでしょうか。
それは、部下から「この人は自分の気持ちをわかろうとしてくれない」という印象を持たれていたからです。
その状態で「悩みや不満があれば話してほしい」と言ったところで、相手は悩みや不満があったとしても「あ、大丈夫です」と言って話してはくれないのです。
この点、パーソル総合研究所の「職場での対話に関する定量調査」によると、上司との面談において、どれだけ本音を話せているかについて、41.6%の方が「全く本音で話していない」と回答しています。
この結果からも、多くの上司が部下の本音や悩みを把握できていないことがうかがえます。
部下から本音を話してもらえるようにするためには、「この人は自分の気持ちをわかってくれる」という印象をもたれることが必要不可欠なのです。
そして、その印象は「普段の話の聞き方」から形成されます。
では、どのような話の聞き方をすれば、「この人は自分の気持ちをわかってくれる」という印象を持たれるのでしょうか。
特徴1:部下に共感を表現できていない
私が主宰する経営心理士講座では「どのような話の聞き方をしてくれたら、この人は信頼できると感じますか」というテーマでこれまで数千人の方にディスカッションをしてもらっています。
その内容を統計的に分析していますが、中でも多いのが「共感を示してくれる」という意見です。
人間には自分の感情を誰かと共有したいという「共感欲求」があります。例えば、ものすごく嬉しいことがあったとき、誰かに話して共感してもらいたくなるでしょう。
あるいはSNSに投稿したくなる。そして「いいね!」が欲しくなる。たくさん「いいね!」がつくと嬉しくなるし、全然つかないと切なくなると思います。それは共感欲求を満たしたいからです。
そのため、自分の話をして、その話に共感を示してもらえると、共感欲求が満たされ、相手に心を開こうとします。
共感は心の中で共感するだけではなく、その共感が相手に伝わるように表現することまで必要です。
この表現力の差が「この人は自分の気持ちをわかってくれる」という印象を持たれるかどうかの差をもたらします。
特徴2:話を最後まで聞かない
そして、もう1つ多い意見が「話を最後まで聞いてくれる」という意見です。
自分の話をさえぎって話す人には、人は心を開こうとしません。
ある会社から支店の離職率が高いと相談を受けたときのことです。
社長から依頼され、その支店の支店長のJ氏とお会いすることになりました。J氏は体育会系の雰囲気の元気のよい方でした。
私はJ氏と話し始めて5分もしないうちに離職率が高い理由の察しがつきました。J氏は私が話す度に、私が話し終えないうちに私の話をさえぎって話すのです。
こういうタイプの人は頭の回転が速い人が多く、それが故にせっかちで相手が話し終えるのを待てずに話し始めるのです。こういった話の聞き方をされると、相手は「この人は自分の気持ちをわかってくれない」と感じます。
そこで、部下の方にJ氏の印象についてヒアリングしたところ、案の定、「ワンマンで一方的」「まともに話を聞いてくれない」「自分の気持ちをわかってくれない」「悩みがあっても相談できない」といった答えが返ってきました。
一方、J氏に「部下の話は聞くようにしていますか」と質問すると、「定期的に面談の機会を設けてるので、部下の話は聞いてますよ」と話されました。
J氏は部下の話を聞けていないことに気付かないままマネジメントをし、部下は悩みをJ氏に相談できずに抱え込み、それが離職率の高さにつながっていました。
態度を改めさせる指摘の仕方
そこで部下の方たちの名前は伏せたうえで、ヒアリング内容をJ氏にフィードバックしました。J氏は「なるほど、なるほど」と言いながらも、ショックを隠せない様子でした。
そして、「Jさんは頭の回転がかなり速い人だと思います。だからこそ会話のペースが速くなり、相手の話をさえぎって話すので、共感が疎かになりやすい。それだけ頭がいい人ですから、ペースを相手に合わせて、話をさえぎらず、共感しながら聞くこともできるはず。ぜひそうしてください」とお伝えしました。
こういった指導をする際は、相手のプライドを傷つけないことが重要です。プライドを傷つけてしまうと相手は心を閉ざし、言い訳するなどして言うことを聞こうとしなくなります。
そこでJ氏には、「頭の回転が速い」という点を強調し、優れた人であることを前提として、だからこそ話の聞き方も改められるはず、とお伝えました。
その結果、J氏は私の提案を受け入れてくれました。以降、私も継続的にモニタリングすることで部下に対する関わり方が変わり、離職率も下がりました。
部下から本音を話せてもらえていないことに気付かない上司は少なくありません。そういう上司による面談や1on1は意味を持ちません。
そういった状況に陥らないように、普段の話の聞き方に留意していただければと思います。
(藤田 耕司 : 経営心理士、税理士、心理カウンセラー)