10月27日に投開票が行われた衆院選で国民民主党は議席を大幅に増やした。代表の玉木雄一郎代表は何を目指しているのか。作家、大下英治さんによる『政権交代秘録』(清談社Publico)より、一部を紹介する――。(第1回)
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一部週刊誌による不倫報道を受けて記者会見する国民民主党の玉木雄一郎代表=2024年11月11日午前9時33分、国会 - 写真提供=共同通信社

■コロナ対策の「一律10万円支給」を最初に言い出した

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

現在の国民民主党は、「対決より解決」をキャッチフレーズに掲げて、政策実現のために与野党の垣根を超えて協力することを惜しまないスタンスを活動方針としている。これまでにも、玉木や、国民民主党が導入を訴えた結果、実現した政策は多い。

たとえば、新型コロナウイルスが蔓延し始めた2020年4月に国民一律で10万円を給付する案が決まったが、これは、もともと、当時政調会長だった岸田が所得制限を設けて低所得世帯に30万円を給付する案として主導していたものが、公明党や二階俊博幹事長の要望により、一律10万円給付に決まったものだ。そして、この一律10万円給付の案を政界で最初に言い出したのは玉木だった。

当時は、現在の国民民主党ではなく、2020年9月に立憲民主党に合流することになる旧・国民民主党の代表を務めていた。玉木が最初に10万円の給付に言及したのは、2020年3月9日。自らのTwitterで、1人10万円程度の簡素な給付措置に言及した。

さらに翌日の10日に収録した自身のYouTube「たまきチャンネル」でも、「緊急経済対策」として1人10万円の給付を訴えた。その後、3月18日には、国民民主党として緊急経済対策を党議決定して、発表している。

■与野党からの反対はあったが

公明党や日本維新の会、共産党なども、その後、一律10万円の提言を取りまとめて発表しているが、それらに比べてかなり早い時期での発表であった。二階幹事長や公明党が動き出し、安倍総理が補正予算案の組み替えを指示する4月16日より、1カ月以上前から玉木は訴えていたのだ。

玉木が振り返って語る。

「わたしはアメリカが一律給付をおこなっていることを知り、日本でもやるべきだと最初に訴えました。

日本の場合、税務署が把握している所得は前年のもの。コロナが拡大したときは、急に仕事がなくなったり、営業ができなくなったりして、その日の生活にも困っている人もいた。前年の所得でいま困っている人を把握することは無理なので、とにかく一律で、スピード重視で配るべきだと訴えました。

所得が多い人にはのちに確定申告時に納税で返してもらえば問題ないわけですから。最初は、与野党から『国会議員まで含めてもらうことはおかしい』と言われましたが、平時ではなく緊急時なので困っている人のもとにすぐに届くやり方を採用したほうがいいと訴えたら流れが変わりました」

■トリガー条項の凍結解除

ロシアによるウクライナへの侵攻以降、高騰したガソリン価格の問題についても、国民民主党は、いち早く対策を訴えていた。玉木が語る。

「2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降は、自民党から共産党までガソリン価格の高騰対策を訴えていますが、わたしたちはその半年前の2021年10月の衆院選のときから公約に掲げています。

その時点から、新型コロナが落ち着いて需要が戻ってきたときに、ガソリン価格が高騰する可能性を危惧していたんです。衆院選のときから、トリガー条項の凍結解除を追加公約として掲げていたのもわれわれだけでした」

国民民主党は、2021年10月の衆院選の公約として、ガソリン価格の高騰にともなうトリガー条項の凍結解除を掲げていた。

写真=iStock.com/gremlin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

トリガー条項とは、ガソリン価格が3カ月連続で1リットルあたり160円を超えた場合、上乗せされている特例税率を停止してガソリン価格を25.1円引き下げる措置のことで、東日本大震災の復興財源確保を名目に2011年以降凍結されていた。

だが、国民民主党は、車への依存度の高い地方の生活を守るために、トリガー条項解除の必要性を訴えていた。その後、国民民主党は、2022年度の予算案に賛成。賛成する理由の一つとして、岸田総理が高騰を続ける原油、ガソリン対策として、トリガー条項の凍結解除も検討する意向を示したことを挙げた。

■スピードで勝負をしないと生き残れない

このとき、国民民主党は原油、ガソリン価格の高騰対策で自公と実務者協議を開き、トリガー条項は凍結解除されなかったものの、補助金の大幅な拡充が決まった。玉木が振り返って語る。

「わたしは、財務省には補助金の拡充よりトリガー条項凍結解除のほうが結果的に安くつくという話をしていました。国政選挙のたびに消滅すると言われ続けてきた国民民主党ですが、少しずつ支持を拡大しながら、政策を一つひとつ実現しています。

小さい政党ですから、実績が報じられることは少ないのですが、そのいっぽうで、小所帯ゆえに意思決定は早い。小さいからこそスピードで勝負をしないと生き残れません。どういう政策が国民に必要とされているのか、アンテナを敏感に張って、政府にも岸田総理にもぶつけていきます」

■なぜ霞が関から新しい知恵が出てこないのか

玉木は、国民民主党の目指すべき役割についても語った。

「国民のためになる政策を実現するために何がベストかを常に考えています。わたしも官僚をやっていたからわかりますが、残念ながら、いまの霞が関からは新しい知恵が出てこない。いまの官僚たちは政治主導の影響もあって、萎縮してしまいました。

民主党政権時代にも進みましたが、じつは政治主導が一番進んだのは、第2次安倍政権。内閣人事局ができて、人事を官邸が掌握したことが大きい。わたしが大蔵省に入ったときは、官僚が知恵も出してリスクも取っていましたが、いまは受け身になってしまった。

なぜなら、官邸のやることに変に口を出したり目立つことをしたりしたら、自分の首が飛ぶのを目の当たりにしたからです。これでは霞が関から積極的に政策のアイデアが出てきません。

では政治家から出てくるかと言えば、自民党は霞が関べったりで利害調整がメイン。業界団体の顔色をうかがって、しがらみを気にしていたら、大胆な予算の組み替えなどは絶対にできません。

国民民主党はしがらみにとらわれず、先手先手で必要な政策を訴えています。そういう役割を果たす野党はいままでありませんでしたから、新たな野党の役割も果たしていきたい」

写真=iStock.com/mizoula
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■国民民主党の目指す先

玉木は、党代表として2021年10月の衆院選と2022年7月の参院選を乗り越えてきた。2021年の衆院選では、事前の予想を覆し、現有8議席から11議席へと議席を伸ばした。

また、2022年の参院選では、改選7議席から5議席へと2議席減となったが、前年の衆院選と比べて、比例区での得票は315万票と50万票以上も増やすことに成功した。

玉木は、代表として、今後、国民民主党をどのようにしていきたいのか。

「国民民主党を大きくして、政界のキャスティングボートを握れるような政党にしたい。将来、与野党を超えた政界再編が起きたときに対応できるような一定の規模の政党に育てたいと考えています」

玉木は、党勢拡大の目標があるという。

「堅実かつ着実な目標としては、国政選挙のたびに2割ずつ比例区の得票を増やしていくことです。2年前の衆院選が259万票で、去年の参院選が315万票。次の衆院選で380万票、再来年の参院選で460万票、そして、次の次の衆院選で560万〜600万票。そうなると共産党や公明党と同じくらいの規模になる。

いま、あと3年間の代表の任期のうちに比例区で600万票前後の得票ができるような政党に成長させたいと思っています」

■「総理大臣ですね」

国民民主党の連立入り騒ぎが報じられた直後の2023年9月10日、玉木は、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演し、橋下徹前大阪市長から問われた。

「仮に連立になったとして、玉木さんだったらどこの大臣に就きたいんですか?」

玉木はこの問いに間髪を入れずに答えた。「総理大臣ですね」この発言も話題となったが、玉木は、これまでにも民進党の代表選に出馬したときや、希望の党の代表時代など、たびたび総理大臣に就任する意欲を示してきた。

大下英治『政権交代秘録』(清談社Publico)

現在、玉木が代表を務める国民民主党は、衆議院議員10人、参議院議員11人の小政党だが、過去には小政党の党首が総理大臣に就任したケースもある。非自民、非共産の8党派による連立政権となった細川内閣の細川護熙日本新党代表や、自社さ政権時代の村山富市社会党委員長などだ。

玉木自身も、チャンスがあれば総理大臣になる意欲があるのだろうか。玉木が語る。

「政治は生き物ですから、何が起きるかはわかりません。わたし自身は、国際政治が劇的に変化するなかで、日本の政治において中核的な役割を果たせるような気構えや、覚悟と責任を持てるようになりたいと思っています」

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大下 英治(おおした・えいじ)
作家
1944年、広島県に生まれる。広島大学文学部を卒業。『週刊文春』記者をへて、作家として政財官界から芸能、犯罪まで幅広いジャンルで旺盛な創作活動をつづけている。著書に『安倍官邸「権力」の正体』(角川新書)、『孫正義に学ぶ知恵 チーム全体で勝利する「リーダー」という生き方』(東洋出版)、『落ちこぼれでも成功できる ニトリの経営戦記』(徳間書店)、『田中角栄 最後の激闘 下剋上の掟』『日本を揺るがした三巨頭 黒幕・政商・宰相』『政権奪取秘史 二階幹事長・菅総理と田中角栄』『スルガ銀行 かぼちゃの馬車事件 四四〇億円の借金帳消しを勝ち取った男たち』『安藤昇 俠気と弾丸の全生涯』『西武王国の興亡 堤義明 最後の告白』『最後の無頼派作家 梶山季之』『ハマの帝王 横浜をつくった男 藤木幸夫』『任俠映画伝説 高倉健と鶴田浩二』上・下巻(以上、さくら舎)、『逆襲弁護士 河合弘之』『最後の怪物 渡邉恒雄』『高倉健の背中 監督・降旗康男に遺した男の立ち姿』『映画女優 吉永小百合』『ショーケン 天才と狂気』『百円の男 ダイソー矢野博丈』(以上、祥伝社文庫)などがある。
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(作家 大下 英治)