金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の賭けが北朝鮮自らに、そして韓半島(朝鮮半島)と国際安保状況に深刻な危機を招いている。金正恩委員長は昨年12月30日に南北関係を「敵対的な両国関係」と規定した。先代から受け継いできた「民族統一」路線を廃棄処分しすべての政治的象徴物も破壊した。これで北が南側を攻撃する時に同族を攻撃したという心理的政治的制御装置を除去してしまった。その結果韓半島危機はより一層高まった。

こうした新しい対南戦略が果たして成功するだろうか。1990年代中盤の苦難の行軍以来、北朝鮮住民は最悪の経済難を体験している。経済を生かす根本対策の代わりに、時代錯誤的な「自力更正」を叫び、数十年間習熟してきた「民族統一」の代わりに突然な「敵対的両国論」を突きつけたため、これが住民らにしっかり浸透するわけはないだろう。

こうした状況でロシア派兵を決めた。1万2000人の派兵の見返りに1年で7200億ウォン程度の収入を得るというメディア報道も出てきた。しかしこの収入の大部分は最高権力者の金庫に入ってしまうだろう。その上死傷者が続出すれば家族の不満はさらに強まるだろう。結局北朝鮮住民の不満と憤怒が臨界値に接近し政治的危機が醸成される可能性がある。

金正恩委員長のロシア派兵はまた、北朝鮮の対外戦略上の賭けだ。1991年のソ連崩壊と脱冷戦後に北朝鮮は体制維持に向け一方的に中国に依存してきた。中国は北朝鮮を米国と対決するのに必要な戦略的緩衝地帯として食糧とエネルギー支援、外交、軍事的後援で体制維持を助けた。

ところが北朝鮮はウクライナ戦争で支援が必要なロシアと軍事同盟を復活させ武器支援に加え派兵までした。これで北朝鮮はロシアを体制安全保障の重要な軸に引き寄せている。ウクライナ戦争の勝敗と関係なく北朝鮮はロシアに「わが国の軍人が血を流しあなた方を助けたのだから韓半島で戦争が起きればあなた方も私たちを助けるべきではないか」と要求できるようになった。

同時に北朝鮮のロシア派兵は中国に対する一方的依存から抜け出そうとする強い意図が込められている。完全に中国を離れることはないが、ロシアを中国と対等な安保支援国の隊列にのせたのだ。その上で過去に金日成(キム・イルソン)主席がしたように、中国とロシアを互いに競争させ双方の支援を最大化しようとするとみられる。しかし中国は反発しており、そのため最近朝中関係が難しくなった。