【ようやく掴んだ流れと勢い】

 欲しかった「流れ」をついに掴んだ。

 本拠地横浜での連敗から始まった日本シリーズ第3戦(10月29日)。舞台を福岡に変えてのベイスターズにとって負けられない戦いは、ケガ明けのエース東克樹を先発マウンドへ、4番にオースティンを復帰即時投入するという決死の覚悟で必勝を期した。

 シリーズの1、2戦では早い回からワンポイントに回またぎにと中継ぎ投手を、微妙なプレーにはリクエストを惜しげもなく注ぎ込んだ文字どおりの総力戦。それでも攻守に隙のないソフトバンクホークスを相手に常に主導権を握られての戦いは、終盤に粘りを見せたものの、結果を見れば最悪の連敗スタート。

 ほしいのは勢いだ。ベイスターズを日本シリーズの舞台にまで進ませた、とてつもない破壊力を秘めた最大の武器。連敗から移動日でひと息ついて、再び空気が動き出す第3戦。嫌な空気を払拭し、先に試合の流れを掴むためにも、どうしてもほしいのが先制点。つまり、初回こそがこの試合の最初の大きな山場であるとも言えた。

「やっぱり先に流れを掴めるかが大事な試合でしたからね。初回の先頭バッター、とくに今日は先攻になったことで、よーいドンで打席に立つわけですから、ここで勢いを出せるかどうかが大きかったと思います」

 と言うのは、1998年の日本シリーズ第1戦の第1打席でセーフティバントを決め電光石火の先制点でマシンガン打線に火をつけた球団史上最高のリードオフマン・石井琢朗コーチ。

「梶原(昂希)という選択肢もあるんだけど、やはりそこで勢いを出せるのは桑原(将志)だろうということです。初球から積極的に振っていくスタイルは、もちろん逆のパターンでチーンと沈んでしまう場合もあるんですけど、シリーズは一発勝負。桑原の勢いというものに期待しました」


2回裏、ファインプレーを見せたDeNA桑原将志 photo by Kyodo News

【今の雰囲気では勝てない...飛ばした檄】

 桑原は、連敗後の選手ミーティングで「今の雰囲気ではソフトバンクに勝てない。負けて悔しくないのか」と選手たちに檄を飛ばしていた2017年のシリーズ経験者でもある。

 このシリーズ1、2戦ともにプレーボール直後、「勝利の輝き」が終わらないうちに初球を打って凡退していたが、この第3戦も攻める姿勢は揺るがない。2球目のストレートを叩いた打球はライト線を破るツーベースとなった。

「(早いカウントから仕掛けていることは)特別に意識していることじゃなくて、打ちにいってはやめる、打ちにいってはやめるということをやれているだけですね。僕の役割はどの打席でも塁に出て後ろに回すこと。ただ今日は先攻ですし、初回に僕が塁に出れば打線は回るし、先制点を取れる確率が格段に上がるとは思いますけどね」

 初回無死2塁のチャンスとなり、2番の梶原に送りバントというシーズンでは考えられない作戦を取ったのも、それだけ先制点がほしいという表われでもあった。続く牧秀悟のショートゴロの間に、ベイスターズは、このシリーズどうしてもほしかった先制点と、試合の主導権を初めて手に入れる。

 キャプテンの牧も初回の攻撃を振り返る。

「2連敗して敵地に入ってきたので、"ひとつギアが上がった"じゃないですけど、試合前から全員『絶対に負けらんない』と気持ちも入っていましたし、そんななかで初回に桑さんがツーベースで出塁してくれて、またチームにスイッチが入ったような気がしましたね」

 1回裏には流れを手放しかねないミスでソフトバンクに同点に追いつかれてしまうも、2回は先頭打者のヒット性の当たりを、桑原が今度はダイビングキャッチで好捕と流れを渡さない。

【チャンスのあとにチャンスを作れ】

 その後はケガ明けのエース東が10安打を浴びながら、無四球で7回まで0を並べる粘投。一方、攻撃陣は3回無死1、2塁。4回1死2、3塁とチャンスを作りながらも得点には至らず。

 手放しそうになる流れを紙一重のところでなんとかつなぎ止めていくと、5回またしても先頭バッターの桑原が代わったばかりのソフトバンク2番手大津亮介の2球目をレフトスタンドに運び追加点。さらに無死満塁と攻め立てると、筒香嘉智の犠牲フライで3点目を挙げた。

 石井琢朗コーチは「まだまだ、あと一本が出ないね」とは言いつつ、このシリーズでやっと手に入れた「流れ」を死守したことを評価する。

「毎回のようにチャンスを作っても点が取れなかった。もちろん、チャンスのあとにはピンチがあるとは言うんです。だけど今日はチャンスを逃しても、『もう一回チャンスを作れ! ダメだった。もう一回!』と、チャンスのあとにチャンスあり。『チャンスのあとにチャンスを作れ』の精神でいけたことが相手に流れを渡さなかった要因でしょう。

 向こうは10安打。こっちは6安打だけど、四球を8つ取れているでしょ。点が取れなくても相手の守備の時間を長くすることで、流れを与えないですんだのかなって。ただね、チャンスを逃し続けているといい加減、野球の神様にもそっぽを向かれてしまうからね。本当に紙一重。そんな時にまた桑の一発が風穴を開けてくれましたからね」

【どんな形でもいいから勝利を】

 終わってみれば4対1で、この日本シリーズで1勝と流れを取り返したベイスターズ。難攻不落ホークスの日本シリーズ14連勝を止めたが、この試合でも細かいミスが目立つなど、ホークスを乗り越えるにはさらなる進化が求められるだろう。

「今の雰囲気ではホークスに勝てない」と飛ばした檄を、自ら有言実行した桑原に今日の勝利の余韻に浸るような空気は微塵もない。

「まったくないですよ。気持ちは自分のなかで常にできていますし、自分が持てる力のすべてをグラウンドで出しきると頭に叩き込んでやっているだけですから。僕は勢いや流れより、どんな形でもいいから勝ちがほしい。今日の勝ちに意味が出てくるのは、明日以降の戦いでわかることだと思いますから」

ーーチームに流れを呼ぶ先頭打者として『俺についてこい』という気持ちですか?

 最後に桑原に向けると、キッパリと言いきった。

「俺についてこい......とは言わないけど、『俺がやってやる』という気持ちはいつだって持っています!」

 ひとつ取り返して流れは変わるのか。勢いに乗った桑原。そして勢いに乗ったベイスターズは怖い。