スポニチ

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 ティム・マッカーバーは大リーグの名解説者だった。2012年には「野球放送における殿堂入り」と呼ばれるフォード・C・フリック賞を受けた。現役時代はカージナルスやフィリーズの捕手として主に1960―70年代に活躍した。

 ワールドシリーズに出場3度、うち2度は世界一の感激を味わった。一方で、リーグ優勝決定シリーズ(LCS)での敗退も3度経験している。

 「プレーオフで敗れるということは――」と、その傷心のほどを語っている。「最高の舞台(ワールドシリーズ)に立てないことを意味する。しかしね、それも感謝祭までには忘れるさ」

 慰めの言葉である。感謝祭は11月第4木曜、今年は11月28日だ。甲子園球場前の商業施設ではかぼちゃのおばけなどハロウィーン(今月31日)の飾りつけがされていた。感謝祭はまだ先である。

 ということは、阪神はまだ傷心と悔恨のなかにあるわけだ。

 クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージでDeNAに敗れたのは今月13日。監督・岡田彰布は退き、新監督に藤川球児が就いた。22日からは甲子園球場で秋季練習を行っている。2日目の23日は藤川がドラフト前日会議で上京し不在。雨上がりの甲子園で粛々と行われた。

 21日のCSファイナルステージ最終戦をテレビで見て「やっぱり悔しいな」と言ったのは2軍監督に戻った前ヘッドコーチ・平田勝男だった。「オレたちもあの場に立つことができたんだから。DeNAは来年また強くなる。ウチも気を引き締めてやらないと」。悔恨を募らせ、警戒心を強くしていた。

 藤川の感想は違っていた。球団本部付スペシャルアシスタント(SA)ではあったが、実際に戦った当事者ではなかったからだ。DeNAのクローザー・森原康平が登板した時の笑顔や、巨人監督・阿部慎之助の表情……に「武者震い」し「興奮した」と話した。敗戦の悔しさはなく、憧れや希望に満ちていた。

 平田も藤川もともに本音だろう。松下幸之助の名言に「人には燃えることが重要だ」とある。「燃えるためには薪(まき)が必要である。薪は悩みである。悩みが人を成長させる」

 阪神の薪は悔しさだろう。すぐ日本シリーズが始まる。練習の日々、DeNAが立つ晴れ舞台を横目に成長したい。

=敬称略=(編集委員)