Image: Natee Meepian / Shutterstock

声の大きさが世論を左右するということなんでしょうかね…。

Ipsosが実施した世論調査によると、内燃機関自動車よりも「電気自動車(EV)の方が環境にいい」と考える人が過去2年間で5%減少したとNPRが報じています。Ipsosはその要因に触れていませんが、だいたい想像はつきます。

EVは環境にいいと考える人が60%を割る

最新の世論調査では、「EVの方が環境にいい」と考えるアメリカ人は58%と、2022年の63%から5%減少しています。

しかし、今回のデータで最も興味深いのは、EV購入を検討している人の割合に変化が見られない(2022年から2024年まで3年間82%で推移)一方で、EVを購入するつもりがない層の間で「EVの方が環境にいい」と考える人が世論調査の誤差の範囲を超えて減っている(2022年は38%、2023年は31%、2024年は30%)ことです。

保守メディアによるネガキャン

NPRも指摘しているとおり、多少のトレードオフはあるものの、ほとんどの基準でEVは環境にとってメリットがあります。しかし、環境保護に興味がなさそうな保守系メディアによる「EVは地球にとって有害」という報道が後を絶ちません。

その代表例が、2024年3月にニューヨーク・ポスト紙が掲載した「より多くの有害物質を排出しているEVは、ガソリン車よりも環境に悪いという研究結果(原題: “Electric vehicles release more toxic emissions, are worse for the environment than gas-powered cars: study ”)」という記事です。

この記事は、タイヤとブレーキから出る有害物質だけにフォーカスして、温暖化の要因となる温室効果ガスなどを対象にしていない研究結果を取りあげる誤解を招きやすい内容になっています。

電気自動車は内燃機関自動車よりも重いため、タイヤからより多くのプラスチック微粒子が大気中に放出される傾向があります。これは間違いなく環境汚染問題として憂慮すべきです。

しかし、 一般的な読者だったら、「排出」に温室効果ガスのようなものも含まれると考えるであろうことを承知のうえで、ニューヨーク・ポストが客観的に率直ではないタイトルをつけたのは明らかです。

保守系インフルエンサーもEVをディスる

そして、この記事を保守系ポッドキャストを配信しているジョー・ローガン氏が、EVの環境へのメリットを無視してもいいんじゃないかという論調で取りあげることに。

特にEVを購入するつもりがない層を中心に、「EVの方が環境にいい」と考える人が減ってきている背景には、多くのフォロワーを持つインフルエンサーたちの存在が見え隠れします。

ローガン氏や共和党のドナルド・トランプ大統領候補のように、声の大きい人物がEVをディスる影響は小さくありません。まあ、トランプ氏は、友人で支援者のイーロン・マスク氏に配慮して、EVへの攻撃をトーンダウンさせていますけれど。

マスク氏も以前は気候変動は深刻な問題というポジションでしたが、気候変動を「中国がでっち上げたデマ」とするトランプ氏に配慮して、8月にX(旧Twitter)のスペースで行なわれたトランプ氏とのチャットで、次のようにトーンを後退させています。

石油とガスはいずれ枯渇するため、持続可能なエネルギー経済に移行したいと考えていますが、もしも現時点で石油と天然ガスの使用をやめたら、私たちはみんな飢えて、経済は崩壊するでしょう。

さらに、マスク氏は脱化石燃料を達成するまでには「まだまだ時間がかかる」とし、「急ぐ必要はない」と主張しています。

ここで問題なのは、人々が「EVを買っても環境にいい影響を与えない」と本気で信じれば、EVが売れなくなるだろうってことです。そしてそれは、テスラのCEOにとって深刻な問題でしょう。ただ、マスク氏がラッキーなのは、そういった意見がそもそもEVを買うつもりのない人々の間で高まっているだけというところ。

それでも、マスク氏と右派の仲間たちが「EVは環境に良くない」というナラティブを広め続けた場合、次の2年間で世論がどのように変化するかは、神のみぞ知るって感じでしょうか。

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