腸脛靭帯炎

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監修医師:
松繁 治(医師)

経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医

腸脛靭帯炎の概要

腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)は、膝の外側に起こる慢性的な障害です。一般的にランナーやサイクリストによく見られます。

腸脛靭帯は、骨盤の外側から膝の外側までをつなぐ長い靭帯です。膝の屈伸動作の際、腸脛靭帯が、太腿骨(太ももの骨)の出っ張りと擦れ合いを繰り返し、炎症を引き起こすことで痛みが生じます。

ランナーやサイクリストは、膝の屈伸動作を繰り返すことで、腸脛靭帯炎を生じやすくなるため、一般的に「ランナー膝」と呼ばれることがあります。しかし、医学的な分類では、腸脛靭帯炎とランナー膝は厳密には異なるものです。
膝周囲の関節痛があるものの原因が明らかでない場合にランナー膝と呼ばれ、腸脛靭帯の炎症が原因だと分かっていれば腸脛靭帯炎だと呼ばれるため、腸脛靭帯炎はランナー膝の一種という位置づけになります。

早い段階での適切な治療と正しいストレッチ・筋力トレーニングを行うことで、症状の改善や再発予防が期待できますが、腸脛靭帯炎が生じている状態で無理に運動を続けると慢性化する恐れもあるため、注意が必要です。

腸脛靭帯炎の原因

腸脛靭帯炎の主な原因は、膝の屈伸動作を繰り返す際に、腸脛靭帯が大腿骨の外側(膝を構成する部分)と擦れ合うことです。

特に、腸脛靭帯と骨の位置関係から、膝の屈曲が浅い動作の繰り返しで生じやすいため(屈曲30度程)、ゆっくりとしたランニングや自転車を漕ぐ動作、バスケットボール、水泳などで好発します。

反対に、膝の屈曲が深い動作(早いスピードでのランニングなど)では、腸脛靭帯と骨との擦れが減るため、生じにくいと言えます。

腸脛靭帯炎の発症を促進する要因としては、過度のトレーニングやフォーム、足のアライメントの異常(O脚など)、柔軟性の不足、筋力のアンバランス、疲労の蓄積、クッション性の低いシューズなどが挙げられます。

腸脛靭帯炎の前兆や初期症状について

腸脛靭帯炎は、膝の外側に違和感や軽い痛みを感じることから始まります。徐々に痛みが強くなり、足を地面に接地した際の痛み、膝の外側を押したときの痛みをより自覚するようになります。

症状が悪化すると、運動時だけでなく、日常生活で行う動作でも痛みを感じるようになります。特に、膝を深く曲げる動作や階段の上り下りで痛みが強まるのが特徴です。

腸脛靭帯炎の検査・診断

はじめに、患者の症状や運動歴、膝の痛みの場所や痛みがあらわれるタイミングを確認します。確認方法として「Grasping Test」や「Over Test」というものが使われます。

Grasping Test(グラスピングテスト)は、膝を90度曲げて、痛みが出ている部位を強く押さえたまま膝を伸ばしていくときに、痛みが出るかどうかを確かめる方法です。そこで痛みがあらわれた場合は「陽性」となり、腸脛靭帯炎だと判断します。

Ober Test(オーバーテストまたはオーベルテスト)は、テストする側を上にした横向きで行います。横向きの状態で膝を90度曲げ、足を開いた後、体と同じ高さまで落ちなければ陽性となります。Ober Testには「Ober Test変法」と呼ばれる方法もあります。変法の場合も基本的なテストのやり方は同じですが、膝を伸ばした状態で行うため、テストを受ける際に違和感を覚えにくいのがメリットです。

また、稀ではありますがX線やMRI、超音波などの画像検査も行われることがあります。画像検査は、膝の外側に痛みが出ることがある他の疾患との鑑別が目的です。具体的には、変形性膝関節症や半月板損傷、外側側副靭帯損傷(がいそくそくふくじんたいそんしょう)などの疾患との鑑別が必要なことがあります。

腸脛靭帯炎の治療

腸脛靭帯炎の治療は、痛みや炎症の軽減、再発の予防を目的とした保存療法が行われます。外科的治療が必要になることはほとんどありません。

まず、症状が現れた初期段階では、安静にするよう指導されます。膝に負担をかける運動や活動を一時的に控え、炎症が自然に回復するのを待ちます。

そのうえで、アイシングや抗炎症薬の使用、ストレッチや筋力訓練によって、痛みや腫れの軽減と再発予防を行います。特に、運動後や痛みが強いときには、膝の外側をアイシングすることで炎症を抑えられます。

ストレッチや筋力訓練に関しては、専門家である理学療法士とともに、腸脛靭帯に負担をかけないよう、股関節や膝周辺の筋肉を強化するトレーニングや柔軟性を高めるリハビリテーションが推奨されます。適切なフォームや運動方法、シューズの考え方も身に付けられるため、腸脛靭帯炎の症状改善が期待できるでしょう。

重症の場合や、保守的な治療で効果が見られない場合には、手術が検討されることもあります。ただし、ほとんどのケースでは保存療法で改善可能です。

腸脛靭帯炎になりやすい人・予防の方法

腸脛靭帯炎は、習慣的にランニングやサイクリングなど、膝を繰り返し使うスポーツをする人がなりやすいです。さらに、ランニングフォームや姿勢が適切でない場合や筋力のバランスが悪い、柔軟性が不足している、O脚であるといった場合は、腸脛靭帯に余計な負担がかかりやすく、腸脛靭帯炎を引き起こしやすいと言えます。

予防方法としては、運動前・運動後のストレッチと筋力強化が効果的です。腸脛靭帯は骨盤から膝にかけて付いているため、膝関節周辺だけでなく、股関節周辺の柔軟性を高めるストレッチも大切です。

また、腸脛靭帯炎を引き起こす人の共通点としてお尻にある「中殿筋」と呼ばれる筋肉が弱いという報告があります。中殿筋は、股関節を外に開いたり回したりする動作で主に使われる筋肉で、中殿筋を中心に鍛えることで腸脛靭帯への負担を減らすことができます。

注意点として、トレーニング量を急激に増やさず、少しずつ負荷を増やしていくことが重要です。トレーニングの際には、ランニングシューズ選びや、正しいフォームも心がけ、腸脛靭帯炎の発症リスクを減らしましょう。


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参考文献

National Library of Medicine「Iliotibial Band Friction Syndrome」

筑波大学 陸上競技研究室「陸上競技の理論と実際」