「骨腫瘍」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

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監修医師:
松繁 治(医師)

経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医

化膿性骨髄炎の概要

化膿性骨髄炎とは、細菌などの感染により骨髄に炎症が生じる疾患です。急激に症状が悪化し重篤化しやすい「急性化膿性骨髄炎」と、化膿性骨髄炎が慢性化する「慢性化膿性骨髄炎」に分類されます。

化膿性骨髄炎の主な原因として、骨へ栄養を送る血管からの感染(血行性感染)と、開放骨折や手術に伴う直接的な感染などが挙げられます。
小児では血行性感染が主であり、慢性化しにくいという特徴があります。一方、成人では開放骨折・菌血症・軟部組織からの感染が波及することで、慢性化する可能性があるため注意が必要です。

化膿性骨髄炎の急性症状の特徴は発熱や倦怠感といった全身症状に加え、骨髄炎が起きている部位の痛み・腫れです。四肢に発症すると四肢を動かしにくくなり、感染が関節に波及して関節炎につながる可能性もあります。

慢性化すると急性期ほど重篤な症状はでなくなりますが、骨の病変が進行し骨の壊死や骨膜下腫瘍につながる可能性も否定できません。壊死した骨(腐骨)が骨髄内に残存した場合には手術で摘出する必要も高くなるので、早期に適切な治療を行い、慢性化を防ぐことが重要です。

化膿性骨髄炎の原因

化膿性骨髄炎の原因は黄色ブドウ球菌や肺炎球菌といった細菌による感染です。これらの細菌に感染し、骨髄で炎症が起きることで化膿性骨髄炎を発症します。骨髄への細菌の感染経路は主に以下の2つが考えられています。

骨髄に栄養を運ぶ血管からの感染

開放骨折や手術による骨髄の暴露(空気に触れること)からの感染

血管からの感染では、体内のどこかで感染した細菌が血液によって骨髄に運ばれることで感染します。骨への血管経路の特徴から、長管骨と呼ばれる上腕骨(腕の骨)や大腿骨(太ももの骨)に発症することが多く、成人では背骨にも発症します。

また骨髄の暴露による感染は開放骨折など、普段空気に触れない環境にある骨髄が外気に晒されることで発症します。特に股関節や膝関節の人工関節置換術などは大腿骨が外気に晒されることで感染の可能性があり、注意が必要です。

化膿性骨髄炎の前兆や初期症状について

化膿性骨髄炎を発症した時の初期症状は以下のとおりです。

発熱

全身の倦怠感

感染部位の痛み

四肢の動かしにくさ・麻痺

化膿性骨髄炎を発症すると、炎症によって発熱や全身の倦怠感がみられます。また、感染した部位の痛みがあり、例えば腰髄(腰骨の骨髄)に感染すると腰が痛いなどの症状が現れます。痛みによって四肢を動かしにくくなるほか、神経症状として麻痺が出現する可能性も否定できません。

症状が慢性化すると発熱や倦怠感といった症状は減少します。しかし、感染による骨の壊死や腫瘍の形成が見られ、外科的手術が必要になる可能性があります。

化膿性骨髄炎の検査・診断

化膿性骨髄炎は臨床所見・血液検査・組織の培養検査・画像所見で検査し、診断します。

臨床所見

化膿性骨髄炎では感染した箇所の四肢に強い痛みが生じるため、感染部位を動かせないことが特徴です。痛みのほか、感染部位の腫れや発赤といった炎症反応、全身の倦怠感・発熱などの全身症状があるかを確認します。

また、上気道や皮膚の感染歴があるかどうかも確認します。

血液検査

化膿性骨髄炎では血液検査で炎症を示す項目(白血球・CRP・血沈など)が高直となります。

ただしこれらの項目は化膿性骨髄炎以外の炎症所見でも高くなる数値です。そのため、血液検査のみで化膿性骨髄炎の診断はできず、ほかの臨床所見や画像所見と併せての判断となります。

組織の培養検査

化膿性骨髄炎では患部から出てくる膿や血液などから培養検査を行います。本来無菌である組織から細菌が確認されれば診断が確定できます。また培養検査によって原因菌の特定を行い、原因菌に応じた有効な抗生剤を選定します。

また、化膿性骨髄炎と悪性腫瘍との鑑別にも培養検査が有効です。悪性腫瘍も化膿性骨髄炎と似た症状を出しますが、治療内容が異なります。そのため、培養によって細菌が検出されるか腫瘍組織が検出されるかで疾患の鑑別を行います。

画像所見

MRIやCTなどの画像所見で、骨髄とその周辺の炎症を確認します。

またレントゲン検査では、感染した骨の骨萎縮像や骨破壊像、骨膜変化像など骨の異常所見がみられるかを確認します。
しかし、化膿性骨髄炎の発症から1週間以内にこのような骨の変化が見られることは少なく、経過の確認として使用されることが多いです。

化膿性骨髄炎の治療

化膿性骨髄炎の治療ではいかに早く抗生剤を投与できるかが重要です。

日本感染症学会のMRSA感染症の治療ガイドライン改訂版 2019では発症から48時間以内の抗生剤投与が推奨されています。抗生剤投与が遅れると、膿瘍や腐骨(感染による炎症で壊死した骨組織)の形成につながる恐れがあり、慢性化膿性骨髄炎に移行する可能性が高いと考えられています。

もし腐骨が骨髄内に形成された場合、抗生剤では化膿性骨髄炎が完治せず腐骨の摘出手術が必要になります。
骨壊死した組織は血管による血液供給が途絶えた状態であるため、抗生剤を投与しても抗菌成分が壊死部に届きません。そのため、手術で腐骨や骨壊死部を摘出した後はチューブを留置し、抗生剤を含んだ液体で洗浄する持続洗浄療法を行います。

人工関節置換術で感染した場合には人工関節の隙間に骨セメントを留置し、セメントを通じて抗生剤を患部に送る方法もあります。

化膿性骨髄炎になりやすい人・予防の方法

化膿性骨髄炎は感染性疾患であるため、免疫力が低下している人がなりやすいと考えられています。高齢者や糖尿病などの基礎疾患がある場合には免疫力が低下している可能性が高く、化膿性骨髄炎を発症しやすいといえます。

また、開放骨折や人工関節置換術を施工する人も化膿性骨髄炎を発症するリスクがあります。本来外気に触れることがない骨髄が外気に触れるためです。

化膿性骨髄炎の発症予防には菌を死滅させること、つまり感染が確認できた場合に抗生剤を適切に投与することが挙げられます。
また、開放骨折や人工関節置換術で骨髄が外気に晒された場合、外気に触れた部位の洗浄が非常に大切です。洗浄することで化膿性骨髄炎の原因菌を死滅させ、発症を予防することができます。


関連する病気

開放骨折菌血症化膿性脊椎炎

関節炎

骨腫瘍

参考文献

日本感染症学会MRSA感染症の治療ガイドライン改訂版 2019

和泉賢一 et al 肺炎球菌 による多発性化膿性脊椎炎 ・脊髄炎の1例 感染 症学 雑誌 第82巻 第2号 2008

井樋栄二, 津村弘 et al 標準整形外科学第15版 医学書院 2023