「ファクトリーを持って行って、縫製ライブを届けるのが夢だった」と話す小中さん(滋賀県東近江市で)

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 滋賀県東近江市八日市本町のデニム縫製工場「コナーズ・ソーイング・ファクトリー」が、ジーンズの縫製を実演するトラックをつくった。

 車体には「滋賀・東近江をデニムの聖地へ」とペイントしたほか、縫製に使うミシンを積み込むための昇降機を取り付けた。代表の小中儀明さん(48)は「全国へ赴き、デニムの魅力を伝えたい」と意気込んでいる。(中村総一郎)

 同工場のジーンズは、アイロンやまち針を使わず、手で折り曲げながら一気に縫い上げる「手曲げ縫製」。ビンテージ(年代物)のジーンズと同じ縫製技術だといい、縫いつける時の微妙なゆがみやズレが独特の風合いを生む。

 小中さんは2013年、故郷の東近江市をデニムの聖地にしようと、近江鉄道八日市駅前の本町商店街で開業。ビンテージのような味わいがある縫製を実現するには当時のミシンが必要だと考え、1940年代以前のミシンを探して使っている。

 小中さんが「移動ファクトリー」と呼ぶトラックは、縫製の仕事の楽しさ、素晴らしさを伝える狙いがある。車体の側面には、小中さんと仲間が店に集い、同工場で小中さんが縫製する様子をイラストで描いた。工程ごとに使い分ける何台ものミシンを積み込めるようにして、トラック側面のウイングが開くと、荷台がそのままライブで縫製するステージとなる。

 今年5〜6月にクラウドファンディングで支援を呼びかけたところ、目標の400万円を上回る757万4372円が寄せられた。トラックは三重県松阪市で運送会社を営む常連客が貸してくれた。「縫製ライブ」を通じて、トラック運転手の長時間労働への規制強化で輸送力低下が懸念される「2024年問題」に直面する運送業界への理解や、さまざまな使い方ができるトラックの魅力も伝えるつもりだという。

 9月7日は東近江市役所でトラックのお披露目式があり、デニムでできたテープをカットして完成を祝うと、小中さんが荷台に上がって縫製を実演。ずらりと並ぶミシンを使い分け、ジーンズを一気に縫い上げた。小椋正清市長はジーンズ姿で駆け付け、「デニムの聖地としてブランド化したい」と支援を約束した。

 同工場は、通販はせずに対面販売を続けてきた。「目の前でデニムができていくのを見ると、お客様が目をキラキラさせる」と小中さん。「これからは東近江市まで来られない人の元に行って、縫製ライブを届けることができるので、ワクワクしている」と胸を躍らせている。