ベンチャーキャピタルのフィアレスファンド(Fearless Fund)に対する訴訟は、美容業界全体にどのような影響を与えるのだろうか?



フォーブス(Forbes)、フォーチュン(Fortune)、ワシントンポスト(The Washington Post)、NPR、APニュースなどのパブリケーションで最近、ベンチャーキャピタル会社フィアレスファンドの命運に関する見出しが取り上げられている。この話題は米国におけるDEIの状況の変化を示すケーススタディとなっており、美容ビジネス関係者にとって重要な問題を提起している。つまり、ブランドや小売業者は、この画期的な事件の最終的な判決にどう備えるのがベストなのだろうか?

2019年に創業したフィアレスファンドはアトランタを拠点とするベンチャーキャピタルで、BIPOC(黒人、先住民、有色人種)が所有するブランドに資金を提供し、資金格差の是正を支援している。昨年、黒人の創業者が調達した資金はベンチャーファンド全体の1%未満で、2022年の1%、2021年の1.3%から減少している。

フィアレスファンドは起業家のアリアン・シモン氏とアヤナ・パーソンズ氏が設立し、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)、JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)、マスターカード(Mastercard)などが出資している。サーティーンルーン(Thirteen Lune)やライブティンテッド(Live Tinted)などの企業に300万ドル(約4億7000万円)の助成金を提供、ブレッドビューティサプライ(Bread Beauty Supply)、ザ・リップバー(The Lip Bar)、シアシェア(ShearShare)に投資している。

BIPOC支援のフィアレスファンド、AAERに訴えられる



パンデミック時の政治的および社会的混乱は、2020年にDEI(ダイバーシティ、公平性、インクルージョン)を支持する機運を生み出したが、同時にさまざまなセクターでDEIプログラムの廃止を目指す保守派グループの注目も集めることとなった。昨年、アメリカ平等権同盟(the American Alliance for Equal Rights、以下AAER)は、最高裁で大学入試におけるアファーマティブアクションを廃止する判決を勝ち取った後、フィアレスファンドの2万ドル(約313万円)のストライバーズ助成金コンテスト(Strivers Grant Contest)をターゲットにした。アファーマティブアクションが廃止されたわずか数週間後、同基金に対して訴訟を起こしたのである。

「AAERは、ストライバーズ助成金コンテストが、契約を履行する際の人種に基づく差別を禁止する合衆国法典42編1981条に違反していると主張した。AAERは基金がコンテストから黒人以外の女性を排除することを禁止する仮処分を求めた」と、デュアンモリス(Duane Morris)の弁護士ケリー・ボナー氏は米Glossyに語った。

AAERは昨年10月、フィアレスファンドのフィアレスストライバーズ助成金(Fearless Strivers Grant)の差し止め命令を勝ち取った。今年6月、フィアレスファンドはジョージア州の裁判所において昨年の決定を覆すよう求めた上訴に敗れ、各分野で再びDEIの将来に関するニュースがあふれることとなった。

多くの小売業者が一般向けのDEIプログラムを運営しているが、応募の際に人種を要件としているのは一部だけである。その中には、アルタビューティ(Ulta Beauty)のプログラムであるミューズ(MUSE)も含まれている。セフォラ(Sephora)のアクセラレート(Accelerate)プログラム、ターゲット(Target)のフォワードファウンダーズ(Forward Founders)、ウォルマート(Walmart)のスタート(Start)など、ほかのプログラムはBIPOCの創業者に焦点を当てたマーケティングを行っているものの、応募プロセスの要件としては人種について明確に言及していない。

「フィアレスファンドの裁定はまだ一時的なものである点を忘れてはならない」とボナー氏は米Glossyに語った。「連邦最高裁判所に第11巡回区判決の破棄を求めるなど、ファンドが追求できる道はまだ残されている」。

1981条に基づく契約であるかどうか



この訴訟がどのように展開するのか、最高裁判所までもつれ込むかどうかを業界が見守るなか、ブランドや小売業者はこの訴訟から得られる教訓に留意するかもしれない。「人種に焦点を当てたプログラムは、より厳密に精査される可能性があるといっても過言ではなく、特に助成金が1981条に基づく契約と解釈される可能性がある場合には、この流れに沿った訴訟が増えることが予想される」とボナー氏は述べた。

多くの識者が予測しているように、この事件は美容業界を含むDEIプログラム全体への冷却効果のほんの一部だが、一時的な反発にすぎないという主張も多い。ではブランドや小売業者は、自社のDEIイニシアチブのリスクを軽減しながら、どのようにして自らの価値観を守ることができるのだろうか?

「フィアレスファンドの判決は国全体を拘束するものではなく、必ずしもほかの連邦裁判所の考え方を反映するものでもない」とボナー氏は述べた。「とはいえ多様性を推進する、あるいは不利な背景を持つ人々を支援することを重視するブランドや小売業者が、より狭い保護された階級に基づくものではなく、もっと幅広い応募者にプログラムを開放するということは考えられる」。

人種に特化しない、将来のDEIプログラム



ブリックビジネスロー(Brick Business Law)の弁護士、ケヴィン・ズウェッチ氏は、「大学入試をめぐる最高裁の判例は、法的な展望についての重要な決定だった」と米Glossyに述べた。「差別法は進化しているようなもので、ある状況下での法の進化と適用だと私はみている」。

法律の専門家は、変化する状況に対してどのDEIプログラムが調和しうるのか、あるいは調和させるべきなのかを判断するには、弁護士に相談するのが賢明であるという意見に同意している。「(美容業界などにみられる)これらの問題は、特に組織レベルではピンポイントで特有のものだ」とズウェッチ氏は言う。つまり、企業がどの程度リスクを回避するか、そしてDEIが企業のミッションにどのように適合するかは、社内の意思決定に影響を与えるべきである。

「(将来のDEIプログラムでは) ある程度、人種に特化したものは少なくなり、多様性に焦点を当てたり、昔から排除されてきた、あるいは無視されてきた声を促進することに焦点が絞られるようになるかもしれない」とボナー氏は言う。すなわち、社会経済的地位、高等教育へのアクセス、場所、および法律の下で保護された、階級とはみなされないそのほかの要素に基づいたものとなるかもしれない。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: DEI is changing - here’s what brands and retailers need to know now]

LEXY LEBSACK(翻訳:Maya Kishida、編集:戸田美子)