「積立投資」が初心者にはやっぱり"最強"なワケ
(写真:© 2024 Bloomberg Finance LP)
株式市場は調整局面に入った可能性も指摘されるが、今後の見通しが読みにくい環境が続いている。こうした状況では、なかなか投資をスタートさせる勇気は出てこないかもしれない。とりわけ、投資初心者にとっては難しいタイミングと言っていい。
かといって、放置して投資をしないリスクも囁かれている。株式市場や金価格は、今後もどんどん上がっていく可能性も消えてはいない。そこで注目したいのが「積立投資」だ。毎月コツコツとさまざまな金融商品に投資していくことで、価格変動のリスクを減らし、10年、20年と続けていくことで最終的に大きな投資成果を上げられる、そんな運用方法だ。
最近では、値動きの激しい金融商品に対しては毎日とか、毎週といった積立運用も可能になっている。今年から始まった「新NISA」は投資枠が大幅に拡大されたことで、アメリカの代表的な平均株価指数である「S&P500」や世界中の株式市場の平均株価指数に連動する「オールカントリー」といった投資信託の積立投資を始めた人が多い。以前よりは、身近な存在になった積立投資だが、改めてその魅力について考えてみよう。
「ドルコスト平均法」で投資リスクを最小限に抑える?
そもそも積立投資とは、ある特定の金融商品を毎月など一定の期間ごとに一定額もしくは一定量ずつ投資していく投資法の一種だが、大きな欠点は投資の成果が出るのに時間がかかってしまうことだ。すでに60代、70代の高齢者にとっては、なかなか積立投資に踏み切る勇気はないのかもしれない。
その反面で、20代、30代にとっては時間的な余裕があるために積立投資に向いている。たとえば、株式や金、あるいはビットコインのような暗号通貨にコツコツ積立運用することで、リスクを最小限に抑えることができる。いわゆる「ドルコスト平均法」と呼ばれる運用法だが、投資の価格変動リスクを抑える効果的な方法だ。詳細は省くが、市場価格が高いときは少なく買い、安いときは多く購入できるという特性を生かして、総じて安く購入できる投資法だ。
では、具体的にどんな金融商品を積み立てていけばいいのか。どんな金融商品でも積み立てさえすれば儲かる、というわけではない。たとえば、株式市場でも固有銘柄にターゲットを絞って、その企業の株式を積み立てていく「るいとう(株式累積投資)」といった投資法があるが、株価は、企業のファンダメンタルズや投資家の人気を表しているものであり、株価が極端に低い銘柄に長期投資しても儲かる可能性は低いかもしれない。将来性のある企業の株に投資していくのがベターだ。
また、いま円が安いからといって、FXで「ドル売り円買い」にかけても、成果を上げるのはなかなか難しい。むろん、差金決済のような期限付きの金融商品での積み立ては論外だ。積立投資をするのであれば、長期運用ができること、そして市場価格が将来的に上昇する可能性がある金融商品を積み立てていくのが原則と言える。
どれほどのリターンがあるのか
一方、日本株のように30年間コツコツ投資してきても、平均的なリターンが少なすぎて、積立投資の成果が上がっていないような金融セクターも存在する。日本株以外にも投資対象によって、そのリターンの度合いは歴史的に見てまちまちだ。
実際に、インターネットをチェックして「資産クラス別平均リターン」の数値を見ると、その違いがわかる。ブルームバーグやJPモルガンといったサイトでもわかるが、たとえば毎月平均リターンを発表している「myINDEX 世界の主な投資資産リターン(毎月更新)」をチェックするのも1つの方法だ。最近発表された、各20年の資産クラス別年平均リターンを見てみると次のようになる。
・日本株式…… +6.5%
・外国株式…… +11.3%
・日本債券…… +1%
・外国債券…… +4.5%
・日本不動産…… +5.8%
・外国不動産…… +8.7%
・コモディティ…… +1.8%
・円(対米ドル…… +2%
一方、2005年末から2019年末までの資産クラス別平均リターンのデータによると、次のようなものもある。(「各資産クラスのこれまでのパフォーマンス 資産形成17」野村アセットマネジメント、2020年1月)。最近の日本株上昇が反映されていないために、少ないリターンしかない。
●日本株式…… 0.30%
●日本債券…… 1.79%
●日本REIT…… 2.11%
●先進国株式…… 7.83%
●先進国債券…… 3.11%
●先進国REIT…… 6.63%
●新興国株式…… 6.16%
●新興国債券…… 6.51%
●新興国REIT…… 6.03%
2005年末から2019年末までの資産クラス別平均リターンを見てみると、先進国株式が7%台と大きな利益を出していることがわかる。新興国株式でも6%だから、やはり15年という期間で見ると株式の運用成績がよかったことが分かる。また、新興国債券や不動産投資信託である「REIT」も6%台と高く、少なくともここ20年は株式やREITが日本を除く先進国では、高い運用成績を記録していたことがわかる。
2013年と2023年とでは、大きく運用成績が異なる
こうしたデータに基づいて、アメリカのS&P500に連動する投資信託やオールカントリーと呼ばれる世界中の株式市場に投資する積立運用が注目されているわけだが、こうしたクラス別の平均リターンというのは、そのときの状況に応じて大きく異なるのが普通だ。
たとえば、アベノミクスで日本株がそこそこ上昇した2013年と、やはり日本株が上昇をはじめた2023年の「資産クラス別平均リターン」の状況を比較すると、次のようになる(ゴールドマン・サックス Market know-Howミクロの視点、2023年10月、圧力の緩和2024年4月より)
<2013年/2023年>
1.グローバル小型株式……32.4%/15.8%
2.米国大型株式……31.5%/25.7%
3.日本株式……27.2%/20.3%
4.欧州株式……25.2%/19.9%
5.英国株式……21.0%/13.9%
6.ヘッジファンド……9.0%/6.6%
7.ハイ・イールド社債……7.3%/14.0%
8.グローバルREIT……4.4%/10.9%
9.グローバル債券……-0.1%/7.1%
10.マクロ/タクティカル・ヘッジファンド……-1.1%/-0.9%
11.コモディティ……-1.2%/-4.3%
12.新興国株式……-2.6%/9.8%
13.新興国債券……-5.3%/11.1%
2013年と2023年とでは、大きく運用成績が異なるのがわかるはずだ。もし自分の判断に自信がない場合は、複数の資産にわけて、自分なりのポートフォリオを作るのもひとつの方法だ。最近では、AI(人工知能)やプログラム売買によって1万円程度から投資家の「リスク許容度」に応じて積立てくれる運用機関も多い。
さて、これまで紹介した積立運用は、比較的オーソドックスな積立運用だが、価格変動が激しい金やプラチナ、ビットコインなどの暗号通貨にも、積立投資が効果的であることを紹介したい。たとえば、金はいまでこそ国際価格で1トロイオンス=2400ドル台、国内価格で1g=1万3000円台にとどまり、史上最高値圏にあるが、低迷していた時代もかなり長かった。30年前の1994年の金価格の平均は1トロイオンス=384.048ドル(田中貴金属工業調べ、以下同)、国内価格では1312円(1993年の平均)だった。
それが現在の金価格は、1トロイオンス=2402.08ドル(ニューヨーク市場、2024年7月19日)、国内価格では1g=1万3465円(田中貴金属工業、国内小売価格)となっている。10年以上前から「純金積立」をしてきた人は、大きな利益を上げているはずだ。純金積立は手数料などのコストが高すぎる、とよく言われるが、ここまで上昇すると手数料などのコストは度外視してもいいレベルだ。そういう意味では、積立投資はコストよりも将来的に価格が上昇する可能性を重視すべきなのかもしれない。
たとえば、10年前の2013年の平均価格は1トロイオンス=1411.77ドル、国内価格でも1g=4453円となっており、この10年でドルベースで「1.7倍」、国内価格では円安効果もあって「3.0倍」となっており、10年前にスタートしても、現在では大きなプラスになっているはずだ。
大きく乱高下してきた金価格
金価格は、アメリカのトランプ陣営からドルを「金本位制」にしようといった提案も飛び出し、今後も上昇する可能性が高いと言われている。1トロイオンス=2700ドル程度まで上昇するのではないかとも言われている。過去30年間の価格の推移を見ても、金価格は大きく乱高下する。大きく乱高下するほど、積立運用に向いている、と言っていいだろう。
ちなみに、純金積立は最低3000円からスタートできる。月々1万円の積立てしかできないという人でも、純金積立で3000円、S&P500などの投資信託に7000円といった分散投資をするのもいいかもしれない。
一方、ビットコインのような暗号通貨も同じだ。たとえば、GMOコインが提供している積立暗号資産では決まった日に、決まった金額を積み立てていくことができ、しかも最低積立金額がワンコイン「500円」から可能だ。実際に、ビットコインを毎月プランで10年間、500円ずつ積み立てた場合、過去のケースで換算すると「0.40701546BTC」が保有できる。10年間の元本(2014年7月〜2024年6月)「6万円」に対して「395万3948円」になるそうだ。10年間で6万円の元本を400万円近くにできる投資商品はそう多くないはずだ。
暗号通貨の価格変動幅は、株式や金よりもさらに大きく、安定した投資商品とはとても言えない。歴史的に見て、底値圏に低迷する時代も長く続いたが、そんなときには定期的な積み立て以外に追加で投資する「積立運用+追加投資」がいいかもしれない。暗号通貨の積み立てでは毎日とか毎週月曜日といった積立プランも選択できる。わずかな投資金額でコツコツ積み立てていくことが重要と言っていい。
積立運用の成果をシミュレーションする
最後に、積立運用の注意点だが、簡単にピックアップすると次のようになる。
<将来の税金を念頭に入れること>
NISAを使えればベストだが、通常の株式や投資信託に投資する場合、長年蓄積した運用益には特定口座の場合で「20%」の税金がかかる。さらに、金や暗号通貨の場合は一次所得として、「50万円」以上の運用益は申告して税金を支払う必要がある。特に、現在のような金価格が急騰している状況で、一気に利益確定してしまうと、翌年の税金で苦しむことになる。税額と合わせて分散して利益確定するのもひとつの方法だ。
<価格変動に一喜一憂しない程度の投資金額がベスト>
積立投資は、10年、20年単位で続けてこそ意味がある。そういう意味では、多額の資金をつぎ込まずに、最低限の金額で日常的に忘れることができる程度の金額で積み立てることが大切だ。果報は寝て待て、というスタンスがいいかもしれない。
<価格変動が大きく、将来的に価値が下落しにくい投資商品を選ぶ>
長い期間、積立運用ができるのであれば、できるだけ変動幅の大きい金融商品を選ぶ方が投資効率は大きい。平均株価もそうだがどうしても上昇していくのに時間がかかる。ある程度、乱高下を繰り返すような金融商品のほうが面白いかもしれない。
とはいえ、何があっても消滅してしまわない株価の平均指数などが積立には向いている。今後、戦争や天災など、気候変動による資源価格の高騰や地政学リスクの高まりなど、不透明な時代背景をきちんと考えて積み立てを開始することだ。
仮想通貨も、国によっては売買が禁止されるかもしれない。暗号通貨の中でも、ビットコインのような1番手の安定したポジションにいる商品に投資するべきだろう。ドージコインといった話題性が先行している商品は積立投資に向かない。
ちなみに、金融庁がホームページで積み立てのシミュレーションが簡単にわかるページを作っている。それを参考にすると、どんな金融商品に投資すればいいか、わかるかもしれない。
(岩崎 博充 : 経済ジャーナリスト)