金メダルは何枚取れるかな(写真はイメージです)

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ラピッドファイアピストル

 7月26日(金)に開幕するパリ五輪だが、巷では「実感がない」「盛り上がらない」といった声も数多く聞こえる。だが、いざ始まってみれば案外盛り上がるのではなかろうか。というのも、五輪の直前はほとんど盛り上がらないというのは、実は毎度のことなのだ。

【画像】すっかりパリ五輪ムードに染まったJOCの公式ホームページ

 その大きな理由は、五輪の競技種目である。日頃、メディアに登場しない種目があまりにも多いのだ。サッカーW杯や野球の世界一決定戦・WBCは日本人にとって馴染み深いため、開幕前の代表選考やら敵チームの戦力、グループ分け等でも盛り上がれる。では「馬術」や「レスリング」の各階級別代表選手をご存じだろうか? 多くの場合、五輪でメダルを獲ってようやくその名前を知るのである。もちろん、以前の大会でメダルを取っている選手が代表に選出されれば、「おぉ、〇〇さん、また来たか」となるが、それは吉田沙保里や野村忠宏や谷亮子や内村航平ら、いわゆるレジェンドレベルにならなければ無理である。

金メダルは何枚取れるかな(写真はイメージです)

 つまり、あくまでも「知識」があることが事前の盛り上がりに影響するのである。

 たとえば、1984年・ロサンゼルス五輪では、「ラピッドファイアピストルで蒲池猛夫選手が金メダルを獲得しました」という報道がされた。するとここから「ラピッドファイアピストルとはどんな競技だ?」となり、メディアが盛り上げを開始する。

 この時は、蒲池選手が福岡県出身であることと、当時絶頂のアイドル・松田聖子が福岡出身で本名が「蒲池紀子」であることから「蒲池選手と松田聖子は親戚か!?」というどうでもいい詮索報道までされるほど、大いに盛り上がった。

日本のメダルは合計49個

 ここから見ても分かるように、五輪というものは、メダルを取れば突然盛り上がるものなのだ。そして、パリ五輪が盛り上がるかどうかも、メダルの数次第である。私自身もメディア関係者なので、最初から期待値を煽り過ぎるとその結果にならなかった時に社会の空気が「シーン」となってしまうため、楽観的な予想はしないようにしている。

 ただ、一部メディアはバスケ男子日本代表について「歴代最強チーム」「ベスト8を狙え!」などと言っているが、さすがにそれは難しい。もっとも優秀な選手である八村塁にしても、NBAのチームでは12人中6番目か7番目の選手だ。その選手とNBAとの契約をしなかった渡邊雄太がツートップだろうが、世界ランク26位のこのチームがベスト8というのはかなりキツいと思う。

 このように、一部煽りメディアはあるものの、その一方で、冷静な分析については傾聴に値するだろう。アメリカのデータ会社「グレースノート」による4月時点の日本のメダル獲得予想は、金13、銀16、銅20の合計49個となった。いや、これは相当なものである。ここまでのメダルラッシュとなれば、連日テレビはスタジオの人々がにこやかに拍手をし、メダル獲得選手と中継で話をし、その健闘を称える。

チョー気持ちいい!

 翌日のスポーツ紙の一面はその選手に関するものだし、X(旧ツイッター)でも、トレンドワードは「#金メダル」やその選手の名前になることだろう。多くの人がメダル獲得を喜び、祝杯をあげる様子を公開する。

 五輪とは毎回そのようなものなのだ。ここで、個人的に覚えている「とにかく社会・ネットが盛り上がったメダル」を振り返る。

・具志堅幸司・森末慎二、体操で連続金メダル(1984・ロサンゼルス)
・平泳ぎ岩崎恭子「今まで生きてきた中で一番幸せです」(1992・バルセロナ)
・柔道古賀稔彦、大ケガをしているのに金メダル。(1992・バルセロナ)
・ふなきー、ふなきーと叫ぶ原田雅彦(1998・長野)
・マラソン女子、Qちゃんこと高橋尚子、金メダルを取った後「とてもたのしい42kmでした」発言(2000・シドニー)
・柔道井上康生・金メダル獲得後、表彰台の上で亡き母の遺影を掲げる(2000・シドニー)
・マラソン女子、野口みずきが圧勝し、ゴールの瞬間右手を上げ満面の笑顔(2004・アテネ)
・北島康介「チョー気持ちいい!」と金メダル獲得後インタビューで発言(2008・北京)

4年に1度のお祭り騒ぎ

 これ以外にもたくさんあるため、ここでやめるが、とにかく五輪で日本人選手がメダルを取ると国内は歓喜に湧き、自動的に盛り上がるのである。今現在「パリ五輪、盛り上がってないね……」と嘆く向きはあるが、上記「49個のメダル」という予想通りになれば、かなり盛り上がるだろう。この手の予想は案外当たるものである。

 仮に当たらず、30個台だったとしても御の字。何しろ1988年のソウル五輪は惨憺たるものだった。金4、銀3、銅7の合計14個。しかも、お家芸の柔道では最終日の95kg超級の斉藤仁が金メダルを取るまで誰も取れない事態になった。

 こうした悲喜こもごもある五輪だが、4年に1度のお祭り騒ぎとして皆で楽しみましょー! 幸いなことに、我々は今回、東京五輪の時に発生したような、裏金やら工事費の増加やらコロナ対策やら面倒なことは開催国のフランスに押し付けられるので、何も心配しなくていい。

 あぁ〜、今後一切オリンピックなんて日本でやってもらいたくねぇ〜! 海外諸国が手を挙げて、日本は選手団を派遣するだけでいい。正直東京五輪のあのゴタゴタはもう見たくもない。だから頼むから札幌市は冬季五輪の開催、金輪際諦めてもらえませんか?

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部