過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙が7月7日に投開票日を迎える。フリージャーナリストの宮原健太さんは「当初は現職の小池氏と蓮舫氏による戦いが軸になると見られていたが、最新の情勢調査では石丸氏の急伸が報じられている。背景には旧来型の『保守vs.リベラル』とは別次元の対決軸があるのではないか」という――。
写真=時事通信フォト
東京都知事選の掲示場に張り出された候補者のポスター(東京都中野区) - 写真=時事通信フォト

■都知事選の「構図」が変わってきた

7月7日に投開票される東京都知事選では、各候補が支持を広げるために舌戦を繰り広げている。

これまでは、現職の小池百合子氏と前参院議員で民進党代表などを歴任した蓮舫氏による戦いが軸になると見られていたが、選挙戦の中で戦いの構図が変わってきている。

その背景には、国民の既存政党に対する不信感が大きく影響していると見られる。

「前安芸高田市長の石丸伸二氏が予想以上に支持を伸ばしてきている。これまでの情勢調査では現職の小池氏がトップで次点に蓮舫氏、大きく引き離して石丸氏と続いていたが、2位と3位が入れ替わる可能性も出てきている」

永田町関係者は予想外の事態に驚きをもって話した。

都知事選の情勢をめぐっては、6月24日に寄稿した「『予想外の結果』になる可能性が高まった…都知事選『最新の情勢調査』で見えてきた"勝敗を分ける要素"」で、自民党が告示前に実施した調査では小池氏が40%台、蓮舫氏が30%台の支持を集めた一方で、石丸氏は10%未満にとどまったと詳報したが、事態は大きく変わってきている。

自民党が告示前に実施した情勢調査を基にプレジデントオンライン編集部作成

マスコミ各社が実施した最新の情勢調査によると、石丸氏が支持を伸ばす一方で、小池氏と蓮舫氏はともに支持を落としており、2位の蓮舫氏と3位の石丸氏の差が縮まってきているのだ。

■「3位に転落する可能性もあるのではないか」

共同通信社は6月29日〜30日に調査を実施し、小池氏が一歩リード、蓮舫氏が続き、石丸氏が激しく追い上げる展開となっている、と報じている。また、読売新聞社が28日〜30日に実施した調査によると、無党派層では石丸氏の支持が蓮舫氏を「やや上回った」という。

そうした中、永田町では「蓮舫氏が3位に転落する可能性もあるのではないか」と囁かれており、蓮舫陣営は引き締めを図っている。

なぜ石丸氏の支持が選挙戦の中で伸びてきているのか。

その理由のひとつには小池氏や蓮舫氏とは異なる選挙戦略が功を奏したことがある。

石丸陣営は1日10カ所以上で街頭演説をする日も設けるなど、かなり過密なスケジュールを組んでいる。

もともと石丸氏は安芸高田市長のころに市議会やマスコミに対する歯に衣着せぬ発言が注目され、ネットを中心に知名度を高めたが、一方で広島県の自治体の首長という立ち位置から東京都政との繋がりはあまりなかった。

そこで、ネット人気を実際の都民の投票行動に繋げるべく、一人でも多くの都民に顔を見せて接触するという戦略をとっており、その中で支持を伸ばしていると言えるだろう。

回数が多くなる分、1回1回の演説は小池氏や蓮舫氏に比べると短めだが、「銀行で経済アナリストとして活動し、その後、市長として理論を実践した。経済を知る都知事として、東京を経済都市として盛り立てていく」(石丸氏)と自身の経歴を引き合いに支持を呼び掛けることで、聴衆の関心を引いている。

■なぜ街頭演説の数が圧倒的に少ないのか

一方で小池氏は街頭演説の数を少なくし、あえて離島や郊外で演説をするなど控えめな行動をとっている。

初の街頭演説は6月22日に八丈島で行い、23日には奥多摩町や青梅市でマイクを握った。29日には北千住駅前、30日には蒲田駅前、そして7月2日には秋葉原駅前に立ったが、他の候補に比べると演説の数が圧倒的に少ないと言えるだろう。

筆者撮影
街頭演説する小池百合子氏(2024年6月30日、JR蒲田駅前) - 筆者撮影

もちろん現職の都知事であるため公務との関係も考慮しなければならないが、それだけではないと永田町関係者は言う。

「演説の回数が少なく、しかも離島や郊外を回ったのは、各地の支持を固める狙いももちろんあると見られるが、それ以上に蓮舫氏との対決が盛り上がることを懸念したと考えられる。選挙戦が盛り上がれば盛り上がるほど、挑戦者である蓮舫氏が際立ってしまい、その中で逆転を許す恐れもあるからだ。都心で舌戦を繰り広げる蓮舫氏をかわすことによって、『小池vs.蓮舫』という構図を目立たせないようにしている」

選挙戦は一般的に、盛り上がらないほど現職にとって有利となり、また、固定の支持層や組織票を持っている候補にとって勝ちやすい状況となる。

小池氏は自民党や公明党の自主支援を受ける中、あえて選挙運動を控える戦略をとっていると言えるのだ。

■「保守vs.リベラル」とは別次元の対決軸

対する蓮舫氏は渋谷や池袋、新宿など主要な駅前を中心に街頭演説を繰り返すほか、LGBT団体の街宣に参加するなど、従来型のスタンダードな選挙戦を繰り広げている。

筆者撮影
街頭演説する蓮舫氏(2024年6月23日、錦糸町駅前) - 筆者撮影

「小池さんは光に光を当てるのは得意です。でも東京で広がる格差。光と影。だったら私は影に光を当てて、その影がなくなるまで光を当て続ける都知事になりたい」と聴衆に訴えかけて小池氏との違いを強調。

6月29日には明治神宮外苑の再開発について都民投票を実施することを追加公約として掲げるなど、争点作りにも取り組んでいるが、保守層への波及にはまだ課題が残ると言える。

このように三者三様の選挙戦が繰り広げられる中、石丸氏が小池氏や蓮舫氏から支持を奪う形で勢力を伸ばしていることが伺える。

ただ、石丸氏が支持を伸ばしている理由はそれだけではないだろう。

そこには「保守vs.リベラル」という旧来型の政治対立とは別次元の、既存政党への忌避感が、石丸氏を押し上げているという様子も見てとれるのだ。

■れいわ新選組と参政党の共通点

前回寄稿した中で分析した自民党の情勢調査では、石丸氏にはれいわ新選組と参政党の支持層のそれぞれ約2割から支持が流れていることを紹介した。

両党は「保守vs.リベラル」という従来の対決軸では対極にあることから、石丸氏への支持はこうした軸で推し量ることはできない。

一方で、両党に共通しているのは新興の国政政党であることだ。

こうしたことから、石丸氏には「現状を変えてくれる」という、新興政党に抱く期待感と似たような面で支持が集まっていると考えることができる。

これは「既存政党vs.新興勢力」という新たな対決軸と捉えることができるかもしれない。

そのように考えると、小池氏は自民党を中心に、蓮舫氏は民主党を中心に長らく活動し、要職を務めてきた政治家だ。

どちらも既存政党の代表のような存在で、そこに忌避感を抱くような人たちの票が、ごっそりと石丸氏に動いているという風にも考えられる。

筆者撮影
街頭演説する石丸伸二氏(2024年6月23日、戸越銀座商店街) - 筆者撮影

実は似たような現象は4月28日に投開票された衆院東京15区補選でも起きていた。

東京15区補選では立憲民主党が擁立した酒井菜摘氏が最多得票となり初当選を果たしたが、一方で二番手には無所属の元参院議員、須藤元気氏が続いた。

ほかにも日本維新の会の金澤結衣氏や、小池百合子氏が擁立して自民の一部が応援に入った乙武洋匡氏が出馬していたが、それらを抑えて次点につけたのである。

■「既存政党への失望」で新たな構図が生まれた

須藤氏は山本太郎氏と仲が深い関係で、れいわ新選組から一定の票が流れたが、NHKの出口調査によると、自民や立憲の支持層からも票の流入が確認できており、ここでも「保守vs.リベラル」という対決軸によらない支持を集めたことが伺える。

また、新興勢力への期待感という点では、この選挙で日本保守党の飯山陽氏が4位となったことも特筆に値するだろう。

そうすると、今回の東京都知事選でも、東京15区補選における須藤氏のように、石丸氏が終盤にかけて一気に票を伸ばすことも考えられる。

それは、裏金問題などに起因する既存政党への失望の裏返しという風にも捉えることができるだろう。

このような票の動きは東京15区補選や都知事選にとどまらず、今後行われる衆院選などの国政選挙でも出てくる可能性がある。

これまでも、れいわ新選組やNHK党、参政党などの新興政党が躍進し、議席を獲得してきたが、その動きがこれまで以上に進んでいくかもしれない。

「保守vs.リベラル」という従来型の対決軸が通用しなくなり、「既存政党vs.新興勢力」という構図で思わぬ候補が一気に躍進する。

既存政党はそうした事態も踏まえた選挙戦略の見直しが求められるだろう。

国民の今の政治に対する不満が、どのような形で票となって表れるのか。

都知事選の結果は、今後の選挙のあり方を大きく左右するものになるかもしれない。

----------
宮原 健太(みやはら・けんた)
ジャーナリスト
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で官邸や国会、政党や省庁などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしてニュースに関する配信もしている。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。
----------

(ジャーナリスト 宮原 健太)