家族旅行に行けない、「Switch」が買えない…ひとり親家庭が直面する「体験格差」の実態

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習い事家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか?

低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。

発売即4刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。

*本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。

ひとり親家庭の多くは、厳しい経済的な制約の中で暮らしている。その大半は仕事をしており、それに加えて子どもの生活の面倒を見たり、勉強の世話をしたりもしている。家庭の中に大人が一人しかいないことは、時間的にも、精神的にも大きな制約となる。十分な社会的サポートがない中で、子どもたちの「体験」にとっても、その影響は大きい。

小西尚子さんは1年契約の不安定な仕事で働きながら二人の子どもを育てている。普段は旅行に行くのも難しいが、今年の夏は他県に住む姉夫婦の家まで家族で泊まりに行った。

──お子さんたちと動物園や、海、旅行などに行かれることはありますか。

動物園は年に1回、無料の日があるので、その日に行ったりします。

旅行は行けていないですね。ただ、私の姉が他県に住んでるんですけど、今年の夏は私の両親がレンタカーを借りてくれて、子どもたちと一緒に乗せてもらって行きました。親は一泊で帰って、私たちはもう一泊したので、自分では帰りの電車代だけ払いました。

──お姉さんの家ではどんなことをしましたか。

庭でプールをしたり、スイカ割りをしたり。近くに、子どもたちが一日中遊べるような大きな公園があるので、そこにも行きました。姉の子どもと一緒に行って、みんなすごく楽しそうでしたね。

あとは、姉の家でゲームをやらせてもらって。自分の家にはゲームがないので。

──ゲームですか。

(Nintendo)Switchです。子どもたちは「Switchがほしい」とずっと言っていて。学校の友達は大体持ってるんです。一人1台ですね。小学校に上がるときに買ってあげる家が多いみたいです。

この前、息子の友達が家に遊びに来たんですけど、「Switch持ってる?」って聞かれて、息子が「持ってないよ」って言ったら、「なんで?お金ないの?」って言われたんです。もう、びっくりしました。

うちはYouTubeも見せていないんですけど、ゲームを持ってないとか、そういうことで子どもが孤立してしまうというのを最近本で読みました。話題にも追いつけないし、「あいつはゲーム持ってない」みたいに言われたり、ゲームでみんなで遊ぶときに呼ばれないとか。

確かにそれはあるなと思って、かわいそうだなと思いましたね。

──みんなが持っているものを自分だけが持っていないという。

私の姉が遠くに住んでいるので、自分の子どもとの普段の様子を動画で撮って、それを両親がタブレットで見れるようになっているんですね。両親は私の家の近くに住んでいるので、私の子どもたちも一緒に見せてもらったんですけど、プールのウォータースライダーで遊んでいるのを見て、「ずるい」って言ったんですよ。自分より年下のいとこがそういう経験をしているのを目の当たりにして。それを聞いた私の父が、「ウォータースライダーに行こう」って言って、連れていってくれました。

──子どもたちも比べてしまいますよね。小西さんが子どもだった頃は、ご両親が色々なところに連れていってくれるような感じでしたか。

私の父はすごい貧乏だったときも、年に1回、夏はキャンプ、冬はスキーとか温泉とかに連れてってくれましたね。そういうのは大事にしていて。なので、孫にもさせてあげたい。私もすごい楽しかったという記憶があります。昔の写真も残っています。

ただ、自分が子どもたちにしてあげるとなると、お金的にも、体力的にも、時間的にも、難しいですね。

──小西さんのご両親は近くに住んでいるんですね。

そうですね。子どもたちが遊びに行くこともあります。いつも家に3人でいるので、逃げ場というか、別の居場所も子どもにとっては必要かなと思います。でも、子どもたちには「あまり頻繁には行かないでね」って言ったりします。両親も疲れてしまうので。

──お仕事について聞いてもいいですか。

はい。離婚をしたあと、仕事を変えました。週4のパートで働いていたのを、正社員の事務に。週5の仕事で、週6のときもありました。そのときは結構しんどかったですね。

収入は手取りで月約8万円から月約15万円まで増えました。ただ、最初からすごいパワハラを受けてしまってきつかったです。でも、仕事を辞めると子どもたちを保育園に預けられなくなってしまうので、しばらくがんばりました。

そのあとに就いたのが今の公務員系の仕事で、有期雇用契約のパートです。毎日朝から夕方まで、土日祝日は休みです。自分が倒れちゃうと何もかもうまく回らなくなるので、絶対にパワハラがなくて、子どもの行事や体調不良時になるべく迷惑をかけずに休める仕事がいいなと思って選びました。手取りで15万円ぐらいで、ボーナスもあります。

ただ、1年契約なので、そこが不安です。職場の人数もどんどん減ってきています。毎年、既存のメンバーと外から応募してきた人が一緒に集団面接を受けるんです。そこで受からないと次の年は続けられません。

──面接も過酷ですし、契約も短期で不安定ですね。来年どうなるかもわからない。物価も上がっていますよね。

すごく高いですよね。例えば今日は牛乳がこんなに高いんだ、じゃあ買うのやめようって、買えるものがすごい少ない日もありますね。そういうことが続くと家に食べ物がなくなってしまって。

フードバンクみたいなものもたまに利用しています。子どもたちと一緒に行くんですけど、「友達に言ってもわからないから言わないようにね」って言ったりして。

ただ、今の仕事になって忙しくなってからは、毎日をこなすことが精一杯で、節約とかもあんまり考えられなくなってしまって。これはこっちの安いお店に買いに行ってとか、そういう体力がもう残っていなくて。少しは稼いでいるから、ちょっと高いなと思いつつ買ったりすることもあります。

仕事からの帰りで運転しているときに、道が混んでいるとイライラしてくるんです。子どもたちがおなか空いてるだろうなとかって考えて。早く帰らないとって。

つづく「子どもの「やりたいこと」をさせてあげられない…経済的理由だけではない「体験格差」の現実」では、親御さん同士でのやりとりの有無や想定していたよりもっとお金がかかってしまうことへの不安など小西さんが置かれている現実をさらに掘り下げる。

本書の引用元『体験格差』では、「低所得家庭の子どもの約3人に1人が体験ゼロ」「人気の水泳と音楽で生じる格差」といったデータや10人の当事者インタビューなどから、体験格差の問題の構造を明かし、解消の打ち手を探る。

子どもの「やりたいこと」をさせてあげられない…じつは経済的理由だけではない「体験格差」の現実