演説を終えると「謎の音頭」に乗って踊り出した朝霞市議の外山麻貴氏

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 公職選挙法違反容疑で勾留されている政治団体「つばさの党」代表の黒川敦彦容疑者(45)が都知事選に出馬した。第一声の場所は赤坂のアメリカ大使館前。“獄中”にいる本人に代わってマイクを握ったのは、黒川容疑者の内縁妻で朝霞市議の外山麻貴氏(52)である。荒くれ者の幹部たちの留守中、党を預かる女性リーダーが見せた「新しい選挙戦」とはーー。

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【写真】「みなさん一緒に踊ってくださーい」。炎天下で警備していた約100人の警察官たちはアングリ…黒川敦彦容疑者の内縁妻がスカートをひらひらさせながら見せた「華麗なステップ」

3度目の逮捕も「ほぼ確定」している

 6月20日午後2時前、アメリカ大使館は物々しい雰囲気に包まれていた。制服警官とイヤフォンをつけた公安、捜査2課の私服警官があちこちに待機。総勢100人は越えていた。マスコミもテレビカメラを含めて20人ほど集結した。同日早朝、「つばさの党」が同所で第一声を行うとXで公表したからである。

演説を終えると「謎の音頭」に乗って踊り出した朝霞市議の外山麻貴氏

 2カ月前に行われた衆院東京15区の補欠選挙で彼らは、初日からやりたい放題だった。電話ボックスの上によじ登り、拡声器を使って敵陣営の演説を妨害。警視庁から警告を受けるも無視して、「カーチェイス」と称して選挙カーを追い回した。

 当初、逮捕しない方針だった警視庁は選挙後に方針を転換。5月17日、代表の黒川敦彦容疑者ら幹部3人を公職選挙法違反容疑(自由妨害)で逮捕し、6月7日に同容疑で再逮捕した。

「次の勾留満期は28日になっていますが、3回目の逮捕でつなぐと見られています。都知事選の選挙期間中に外へ出さないためです」(警視庁関係者)

 それでも黒川容疑者は予告通り「獄中立候補」した。13日、都庁で代わりに出馬会見を行った黒川容疑者と内縁関係にある外山氏は、補選の妨害行為について「乱暴な言葉遣いになってしまったり、やりすぎた面が多々あった」と詫びつつ、「基本的に逮捕されないように、今まで私たちつばさの党がしてきたような主張、前向きな活動をやっていくつもり」と語っていた。

 とはいえ前科のある集団だ。万一があれば外交問題にも発展しかねない場所であったため、警視庁は厳戒体制を敷いて待ち受けていたのである。

黒川容疑者からのメッセージを代読し始めた外山氏

 定刻前に一人で姿を現した外山氏。記者たちに囲まれ「また凸することはあるのか?」と問われると、

「もうああいうやり方はしません。パクられるのがわかっているから」

 5分ほど遅刻して、選挙カー2台が連なってやってきた。そして外山氏が立っていたあたりを演説場所にしようとしたが、すかさず5、6人の制服警官に取り囲まれ、移動するよう求められた。彼らは素直に応じた。

 黒川容疑者たちがシャバにいた頃なら、一言二言言い返しそうなところだが、やはり3人が逮捕されて牙を抜かれてしまったのか。

 やがて、マイクを握った外山氏はこう訴えた。

「私たちつばさの党は、今の政治家が嘘つきだと、その嘘を暴くため彼らの都合の悪い質問を、選挙で有権者の前に出てきた政治家たちに直接聞こうという行動をやりました。そして、それが妨害だと認定されて今逮捕されております。しかし、どのマスコミも私たちが騒いでいるところしか切り取らず、私たちが本当にやりたかったことは全く報道していただけていません」

 こう警察やマスコミへの恨み節を述べた後、黒川容疑者からのメッセージを代読し始めた。

「自由と志と狂気。自由を守るためには狂気とも思える志が必要だ。人は弱い、欲や堕落にすぐ負けてしまう。愛のない狂気は暴力だ。愛とは大切な人のために行動すること。大切な人が自由に生きる社会を作ること。だから、愛する人を守るには狂気が必要だ」

 心を込めて夫が託した「愛」を語る外山氏。やがて話は第一声の場をアメリカ大使館に選んだ理由へ踏み込んでいった。

「我々は日本での最高権力者はアメリカ大使館とCIAだと認識している。陰謀論ではなく、残念ながらただの事実として、例えば、CIAは自民党に資金提供してきた。それはアメリカの公文書で公開されいる…」

謎の「音頭」が始まった

 内容はさておき、普段と打って変わって真面目に訴えかける演説は面白みに欠けたのか、足を止める人は少ない。外山氏の後、3人の党関係者の演説も続いたが、ちゃんと聞いている聴衆は10人程度の支援者だけ。その数倍もの警官たちが退屈そうな顔をして見守っていた。

 だが、外山氏が再登場してから様相が一気に変わった。

「新しい方はご存知ないかも知れません。CIA音頭というものがございますので、みなさんと一緒にここで踊っていきたいと思います」

 すると、選挙カーから陽気な祭囃子が流れ出し、外山氏は踊り出したのである。

「CIA〜、CIA〜、CIA〜♪」

 アメリカ陰謀論を風刺した歌のようである。サビでCIAのフレーズが出るたび、西城秀樹の「YMCA」のように体でアルファベット文字を作る外山氏。満面の笑みでこう呼びかける。

「みなさん一緒に文字を作って踊ってくださーい!」

 もちろん呼応して踊るのは数人の支持者だけだ。ほとんどの警官・マスコミは口をあんぐりさせて聞いていた。大勢の冷たい視線を意に介さず、外山氏は華麗なステップでスカートをひらひらさせながら、4分以上も路上で舞い続けた。

悪ガキたちが部活のノリでやっているようなものです

 そして最後に「これからも私たちは楽しく政治活動を続けていきたいと思います」と訴え、街頭演説会は平和に終了したのだった。終了後、外山氏を直撃した。

――ソフト路線に変更したということか。

「CIA音頭は以前からアメリカ大使館前でやっていたことなので、決して路線を変更したわけではありません。これは私たちの街宣では定番になっている歌です」

――随分とやり方が変わった印象がありますが。

「私たちは権力者の監視役を担って活動してきたつもりで、前回はちょっとやりすぎてしまっただけなのです。あの3人がいなくなったら、私くらいしかこうして訴える人もいない。今日も名古屋や福岡から支援者が駆けつけてくれましたが、全部で10人ちょっと。悪ガキたちが部活のノリでやっているようなもので、50人体制の捜査本部を作るなんて警察が大袈裟すぎるのです」

――勾留中の黒川代表はどんな様子ですか?

「本来ならば政治犯は完黙を貫くべきところですが、黒川はああいう性格ですから黙っていられなかったらしく、言いたいことは言い尽くしたようです。で、今はもう言うこともなくなって黙秘していると弁護士から聞いています」

 そして、次の街頭演説場所であるイスラエル大使館へと向かっていったのだった。午後7時から予定が「都内某所」となっていたので尋ねると、

「妨害する人が現れる可能性があるので、直前までお教えできません」(スタッフ)

 こんな騒ぎに巻き込まれ、暑い中、1時間以上も警備に当たらされた警視庁の警官たちには頭が下がる思いである。

デイリー新潮編集部