胸に手を当て感謝の意を示すクロップ photo/Getty Images

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 リヴァプールでも一時代を築き上げ、まさに現代の「名将」の名にふさわしいユルゲン・クロップ。今後しばらくは休養をとるとのことだが、この稀代の指揮官を欧州のクラブがそう長いこと放っておくとは思えない。すでにいくつかのクラブや、代表監督の噂も挙がっているようだ。

 クロップは果たして休養のあと、どこへ向かうのか。ブンデスリーガにも詳しいジャーナリストの飯塚健司氏とともに、この名将の今後を予想してみた。

イタリアならミラン? スペインならアトレティコ?

編集部・前田「23-24シーズンをもって、クロップ監督とリヴァプールの蜜月関係はいったん終わりを迎えました。本人いわく、1年は休むだろうとのこと。エネルギーがなくなってきたと言っていましたね」

飯塚「代理人もそう言っているみたいだね」

前田「新しく家も買ったようです。フランクフルト近郊のヴィースバーデンに自宅を、さらにマジョルカ島に別荘を買って、改装したみたいですね。別荘の改装費用は日本円にして約6億3500万円。敷地の広さは5000平方メートルだそうですよ」

飯塚「さすが、スケールが違うね(笑)」

前田「しばらくは奥さんと一緒に過ごして、充電するんでしょうね。ただ、あれだけの監督なので、その後はしっかり復帰してくると思います」

編集部・及川「イングランドではリヴァプール以外はやらない、と言っているようです。やっぱり想像通り義理堅いというか、ハートが熱い人なんでしょうね」

飯塚「でも、なんだかんだでまだ3チームしか指揮していないんだよね」

及川「そうなんですよね。名将!という感じがしますけど、まだ3つなんですよ。2001-2008でマインツ、2008-2015でドルトムント、2015-2024でリヴァプール。ひとつひとつが長いですね」

前田「家を買った場所を考えると、やはり次はドイツ方面なんでしょうか」

飯塚「マインツもフランクフルトの南のほうの街だから、あのへんが好きなのかもしれないね。ヴィースバーデンもあのあたりで、有名な温泉地だよね」

前田「それはあるでしょうね。ただ、マインツのスポーツ部門にいるクリスティアン・ハイデル氏はクロップの親友らしいのですが、彼いわくドイツ方面では仕事をしないんじゃないかとのこと」

飯塚「そうなると、イタリア説も出てくるね」

前田「『calciomercato』に出ていたのですが、イタリアの場合はミランか、ユヴェントスか、ということらしいです。でも、これも信憑性はどうかなと」

及川「僕もそれは見ましたが、ユヴェントスがいきなりドイツ人監督を招聘するとは思えないです。ミランも、ミラニスタの間ではピオリを1年間続投させて、来夏にクロップを呼んだらいいんじゃないかという話もあったようなんですが、結局ピオリも退任が決まってしまったので、可能性としては低いのかなと思いますね」

前田「クロップの年俸総額は1900万ユーロにも及ぶそうなので、ミランだとそれを払えるかどうか……という問題もあるようです」

飯塚「切実だね。ただ、クロップはお金で動く人じゃないかもしれないよ。彼にとっては、情熱を持てるかどうかも大事だろうからね」

及川「サポーターが熱いところですよね」

飯塚「そう考えると、バルセロナやレアルもなんか合わないなという感じはするよね」

前田「バルサは噂は出ていたみたいですが、なにせクロップのスタイルとバルサの哲学は真逆と言ってもいいくらいですからね。だから勝手に予想すると、スペイン方面ならアトレティコが面白いかなと」

飯塚「シメオネ体制ももう長いし、やや結果が出にくくなったところもあるよね。でも、シメオネの契約っていつまでなんだっけ?」

及川「2027年までですね。昨年の11月に契約を更新しています」

飯塚「そうなると違約金もかかるのか。よっぽど成績が悪くならない限り、これもなさそうだね」

ドイツ方面はやはりアリ? ドルトムントでも変わらず愛される

前田「さっき、マインツのハイデル氏がドイツ方面を否定したと言ったんですけど、僕はあると思うんですよ」

飯塚「そうだよね。十分にありうると思うよ」

前田「CL決勝に姿を見せたじゃないですか。ドルトムントサポーターからめちゃめちゃ歓迎されていましたし、やはり愛されているんだなあと。面白かったのが、スタジアムのモニターにクロップが映ったシーン。その瞬間にドルトムントサポーターが指笛を鳴らしたり拍手してクロップを称えていたのに、モニターがモウリーニョに変わった瞬間に大ブーイング(笑)」

飯塚「ドルトムントはいつでも帰ってこいよって感じだろうね」

前田「なので、再びドルトムントもあるのかなと」

及川「ニュース記事にも出したんですけど、ドルトムントがクロップの復帰に動くとしたら、監督ではなくフットボール部門のトップみたいな役職でという話もあるみたいですよ」

飯塚「フロント的な立場でということだよね。個人的にはまだ早いような気がするかな。ブンデス復帰なら、やっぱりシュツットガルトとかフランクフルト、マインツ、あのあたりの土地のクラブかなと」

前田「あとは気になるのはバイエルンですが、来季は結局コンパニに決まりましたよね。1つありうるとするなら、コンパニでうまくいかなかったとき。バイエルンはファンもフロントも堪え性がないですからね」

飯塚「意外とすぐ決断しちゃうもんね。そんな状態でクロップが空いていたら……」

前田「そうなんですよ。半年くらいでクロップに白羽の矢が立つなんてことも、ありえない話ではない気がしています」

飯塚「規模でいえばリヴァプール以上のメガクラブになるね。そういう展開も見たいよね。クロップは強化担当とともに選手を獲得していって、チームを強くしていくタイプ。だからこそ、もともと選手がいるチームでどうなるのかは見てみたい気はするね」

及川「リヴァプールも前任のロジャーズで2位をとりましたけど、クロップ就任当初はそこまでスーパースター揃いって感じではなかったですよね。最初からスターが揃ったチームを指揮したらどうなるか」

前田「逆に、スモールクラブを指揮する姿も見てみたいですけどね。例えば昇格を決めたザンクトパウリとか。ドクロの旗のもと、強豪を次々と破っていく、みたいな。可能性は低いでしょうが」

飯塚「あそこは過激で熱いサポーターが多いからね。スタジアムの雰囲気も、労働者たちが集まって盛り上がっている感じ。確かに合うかもしれないよね」

オッズ一番人気はドイツ代表 代表監督の線はあるのか

前田「あと気になるのは、代表監督という可能性はあるのか」

及川「あるブックメーカーのオッズで一番人気だったのは、ドイツ代表なんですよ。次いでバルセロナ、バイエルン、ドルトムント、レアル、ミランと続いていました。オッズだけ見ると圧倒的にドイツ代表でしたね」

前田「去年の話なんだけど、『いずれそうなるだろう』みたいなことは本人が言っているんですよね。ナーゲルスマン体制でこれからEUROを戦うというときに、こんな話をするのもなんですが」

及川「ただ、クロップが代表監督向きなのかという議論はあるでしょうね」

飯塚「代表チームは活動期間が短いからね。短い時間のなかで、どれだけあの組織だったプレッシングサッカーを植え付けられるかは未知数だよね。一方で、どんな選手を代表に呼ぶかは興味がある」

前田「クラブチームだと自分好みの選手を必ず揃えてくれるとは限らないけど、代表ならある程度好みの選手を自分で選ぶことができますね」

飯塚「そうそう。だから、意外と自分好みの選手を呼んで、やりたいサッカーがすぐにできちゃうかもしれない」

前田「クロップのスタイルを知らない選手なんて、いないでしょうからね」

飯塚「実際、クロップのチームって選手が馴染みやすいイメージがある。もちろん能力があることが前提だけど、遠藤もそれほど時間はかからなかったしね」

及川「そのあたりは、やはり指導の上手さなんですかね。良いモチベーターで、戦略・戦術だけじゃない。選手をうまく焚きつけるみたいなところもありそうですし」

前田「だとすると、代表チームの監督をやるのは面白いかもしれない。近年のドイツ代表を見ていると、わりとパスサッカーの方に振ろうとしてうまくいかなかったみたいなところがあったじゃないですか。走って戦うクロップのスタイルの方が合っているような気もします。そう考えると、イングランド代表なんかも面白いかもしれない。自分が一番見てみたいのは、これかもしれないですね」

飯塚「サウスゲイトの後任か。リヴァプールの選手もいるし、他の選手も何度も対戦しただろうし、イングランド代表もクロップ流を理解している選手は多そうだよね」

前田「これまでのイングランドは、ホジソンにしろ割とオーソドックスなサッカーをする監督ばかりだった。タレントは豊富なんですけどね。そんなチームに色を加えてくれそうというか」

飯塚「選手たちも、サウスゲイトよりクロップの方が熱くプレイ出来そうだしね(笑)」

及川「飯塚さんは、どんなクロップの未来に期待しますか?」

飯塚「やっぱりブンデスの、バイエルン以外かな。ドルトムントが強かった時代みたいに、どこが勝つかわからないというシーズンを作ってほしい」

前田「まさにブンデスは今、そんな感じになってきていますよね。レヴァークーゼンが強くなり、シュツットガルトが強くなり……」

飯塚「そしてクロップが戻ってきて、バイエルン、レヴァークーゼンを含めて三つ巴なんて展開も面白そう。さらにクロップのチームには日本人もいて、みたいになるといいよね」

及川「イタリア好きの僕としては、セリエAを盛り上げる展開にも期待したいですけどね。落ち目とか言われることもありますけど、来季はCLに5チーム出られますし。そういった流れも含めて、イタリアをより勢いづけてほしい。ファンの熱さも他のリーグに引けを取らないですし」

飯塚「それこそトリノあたりで、ユーヴェを倒すなんてのも面白そうだよね」

及川「今季5位に入ったボローニャあたりも、ほとんど夢物語ですけど、スタイル的には面白いかもしれません。同じくハートが熱いミハイロビッチが監督をしていたり、走れる選手も多いですから」

前田「あとナポリじゃない? ちょっと今季はうまくいかなくなったけど、ファンは熱いよね」

飯塚「情熱の場所だからね」

及川「スタジアムの応援で大地が揺れて、地震計が揺れを記録したなんてのもありましたしね。カンフル剤としてクロップってのも面白いですよね」

前田「ちょっと取り留めがなくなってきましたけど、じゃあ最後に日本代表はどうなのかという話をしてみますか。ないない! という声が聞こえてきそうですが(笑)」

飯塚「若い選手には合うかもしれないよね。それこそU-23の代表なんて、サイドに突っかけるタイプもいるし、速さのある選手もいるし」

及川「これも夢物語ではありますが、見てみたいですよね。日本でも人気があるし」

飯塚「そうしたら、国内でJリーグをチェックするとかじゃなく、ほぼほぼヨーロッパにいながら選手をチェックするってことになるかもね。元韓国代表監督のクリンスマンはそれで叩かれたけど、日本ならそういう文句も出ない気がする。日本サッカー協会はデュッセルドルフに支部をもってるからね。新時代が来るかもよ。親善試合も現地でヨーロッパの国々とたくさんやって……」

前田「確かに。クロップのチームとならマッチメイクしたいと考えてくれるかもしれませんしね」

飯塚「また違った代表が見られるかもしれない。そしたら日本国内でやる試合がたとえ親善試合でも、プラチナカードになってお客さんもたくさん入るだろうね」

前田「まあ夢ですけど、夢を見ることは悪いことではないですからね」

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第294号、6月15日配信の記事より転載