気候変動に伴う気温上昇は熱中症や自然災害を増加させるなど、世界中の人々にさまざまな悪影響を及ぼすことが知られています。複数の研究や事例をレビューした新たな論文で、気候変動は脳卒中・てんかん・統合失調症・アルツハイマー病などの脳や精神の疾患が増加させると報告されました。

Climate change and disorders of the nervous system - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1474442224000875



Climate change likely to aggravate brain conditions | UCL News - UCL - University College London

https://www.ucl.ac.uk/news/2024/may/climate-change-likely-aggravate-brain-conditions

Climate change is linked to worsening brain diseases - new study

https://theconversation.com/climate-change-is-linked-to-worsening-brain-diseases-new-study-225704

人間の脳には約860億個もの神経細胞(ニューロン)があると考えられており、これらは電気的な活性を持つコンポーネントからなるコンピューターのようなものです。人間が進化したアフリカはおよそセ氏20〜26度、湿度20〜80%ほどの環境であり、人間の脳はこの環境において快適に動作するようになっています。しかし、近年の気候変動により極端な気候が増えると、脳がうまく動作しなくなってしまう可能性があるとのこと。

そこでイギリスのユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは、1968〜2023年に発表された332件の論文をレビューして、脳卒中・片頭痛・アルツハイマー病など19の異なる神経系の疾患と気候変動の関連を調査しました。

その結果、気候変動がさまざまな脳や神経系の疾患を悪化させることが示されました。研究チームは、「気温や湿度の上昇によって悪化する可能性がある症状には、脳卒中・片頭痛・髄膜炎・てんかん・多発性硬化症・統合失調症・アルツハイマー病・パーキンソン病などがあります」と述べています。



たとえば、熱波は睡眠を妨げるため睡眠障害を引き起こし、そのせいでてんかんなどの脳疾患が悪化するとのこと。また、熱波は脳の接続不良を悪化させて多発性硬化症の人の症状を悪化させたり、脱水症状によって血液が濃くなることで脳卒中のリスクを高めたりすると研究チームは指摘しています。

一部の病気は体の涼しさを保つために必要不可欠な発汗や、暑すぎるという認識自体を妨げている可能性があると研究チームは指摘しています。神経疾患や精神疾患の治療に用いられる薬の中には、発汗を抑えたり、脳内の体温調節機能を乱したりするものもあるそうで、これらを服用していると暑さに対処する能力が落ちてしまう可能性があるとのこと。

研究チームの調査では、気温が上昇するに従って認知症による入院が増え、てんかん発作のコントロールが難しくなり、脳卒中の発症や死亡リスクが増加し、統合失調症などの精神疾患が悪化しやすくなることが示されました。また、2003年にヨーロッパで発生した熱波では、超過死亡の約20%が神経疾患を持つ人だったことも報告されています。



研究チームは、神経学的ケアの一環として気候変動に取り組まない限り、医療の進歩がもたらす脳や神経疾患への恩恵が、気候変動による症状の悪化に相殺されてしまう可能性があると指摘。「私たちが望む生活を続けるには、暑くなりすぎているという感覚に注意を払い、気候変動に対して行動を起こすべきです。私たちの生活は脳に依存しており、気候変動はその脳に悪影響を及ぼすのです」と述べました。