【西田宗千佳連載】なぜ日本のスマホ市場は「トップ6社」に偏るのか
Vol.138-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはイギリスに拠点を置く「Nothing」が日本市場に投入するスマホ。ここでは日本のスマホ市場が偏っている理由を解説する。
今月の注目アイテム
Nothing
Phone(2a)
実売価格4万9800円〜
現状、日本のスマホ市場は寡占状態が続いている。
調査会社MM総研の調べによれば、2023年度のスマートフォン国内出荷台数は約2547万台。そのうち52.5%がアップルで、Google・シャープ・サムスン・ソニーと続き、このトップ6社でシェアの89%を占めている。
なぜこのような状況が生まれているのか? 日本人の趣向や機能の問題などもあるが、ひとつ明確な理由として挙げられるのが、「携帯電話事業者が扱う端末は、トップ6社に集中している」という点だ。
総務省が今年3月に公開した「令和5年度第3四半期(12月末)の電気通信サービス契約数及びシェアに関する四半期データ」によると、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天の大手携帯電話4社のシェア累計は84.7%。そして、これらと契約する人のほとんどが自分の契約する携帯電話事業者からスマホを購入しており、結果として、「携帯電話事業者の扱う端末のシェアが高くなる」傾向が出てくる。トップ6社の端末は、どれも携帯電話事業者で販売しているものだ。
フィーチャーフォンの時代、携帯電話端末の商品企画は、携帯電話事業者とメーカーが共同で行なっていた。通信をどう使うか、という部分は携帯電話事業者の領域であり、携帯電話端末もまず携帯電話事業者がメーカーから仕入れ、「携帯電話事業者の製品」として販売していた。
だが現在は、端末の企画と販売の主体はメーカー側。携帯電話事業者は「自社の回線で問題が出ないかを確認」したうえで、携帯電話回線を契約している人々への利便性を考えて販売する。本音として「回線契約維持の目的に使いたい」とは思っているだろうが、総務省の定めたルールによって「端末販売と回線契約の分離」が必須とされているので、昔のように大幅な割引は少なくなっている。それでも、分割払い+下取りの併用で、ハイエンドスマホも入手しやすくなるよう工夫されている。
過去からの経緯や事業者の努力もあり、“携帯電話は携帯電話事業者から買うもの”というイメージが広く定着している。良くも悪くも、スマホ市場寡占にはこのことが強く影響しているのは間違いない。
一方で、ハイエンドスマホの価格上昇は続いている。理由は円安に加え、ハイエンドスマホを構成するプロセッサーやイメージセンサー・メモリーなどの半導体コストが上がっており、機能アップに伴う価値の維持にかかるコストも上昇しているからだ。
景気の問題を抱える日本だけでなく、世界的にもスマホの価格上昇は課題となっている。スマホの進化ペースが落ち着いてきたこともあって、スマホの買い替えペースも長くなる傾向にある。
GoogleはPixel 8において「OSのアップデートを、ハードの提供開始以降7年間保証する」としている。他社も5年のサポートをうたうところが多い。アップルは明示していないものの、6年程度はOSのアップデートが続く。
この長さは“ひとりのユーザーが5年から7年同じ端末を使い続ける”という話ではない。仮に途中で中古として売られても、中古端末でも数年間、OSのアップデートを受けられるということになり、端末流通が安定するためだ。買う人が多ければ、それだけ“手持ちの端末を売って新しいものを買う”という人が増える。
ただ、このサイクルが通じるのは人気も高く、企業体力も旺盛な「大手が売るスマホ」に限られる。スマホのリセールバリューはメーカーによって大きく違う。アップルが圧倒的に高く、そのほかの大手が続く。それ以外は短期で下がってしまう……という世知辛い状況だ。
だとすると、“それ以外”の企業としては、リセールバリューに依存しない、強いファンを持つ端末を作って売っていく必要に迫られる。そう考えると、Nothingのように「ミドルクラスだがデザインや手触りで差別化する」のはひとつの手法だ。コストパフォーマンスを重視し、“他人と違うスマホ”をアピールするのは、良い販売戦略だと感じる。
では、今後のスマホの「性能」はどう変わっていくのだろうか? そのあたりは次回解説しよう。
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