この記事をまとめると

■高速道路では車両性能の向上によって120km/h巡行でも安全性に問題がない

■超高速走行は燃費を悪化させる

■日本の高速道路の80〜100km/hという制限速度は効率面においてバランスに優れている

高速走行はクルマにとっていいことではない!

 高速道路の制限速度は100km/h……という認識をあらためるべきなのが令和のクルマ社会かもしれない。新東名高速道路では約150kmにわたり最高速度120km/hの区間があり、そのほか東北道や東関東道においても120km/h区間は存在している。

 車両性能の向上により、120km/h巡行での安全性に問題がないということは、こうした区間を走ったことのあるドライバーの多くが実感しているだろうが、このまま全国的に高速化が進むとは限らない。

 すでに欧州などでは高速道路の制限速度を低めるという意見もある。速度無制限として知られるドイツ・アウトバーンにおいても130km/h制限について議論されているという報道を目にしたことがあるかもしれない。

 なぜ、こうした議論が起きるかといえば、超高速走行は燃費にネガティブで、すなわちCO2排出量が増えることにつながるからだ。経験的に高速巡行は燃費に有利と感じているドライバーにとっては「速度を出すことで燃費が悪化する」といわれてもにわかには納得できないかもしれない。

 しかし、物理的にいえば、物体が移動する際には、さまざまな走行抵抗を打ち破る必要がある。

 最高速度が車種により異なるのは、走行抵抗と駆動力が釣り合うポイントにあるからといえる。そして、高速巡行における最大の走行抵抗といえるのが『空気抵抗』だ。

 風向きや密度などの条件を無視するとして、直進時の空気抵抗は車体形状と速度によって決まってくる。車体形状は一定といえるが、空気抵抗は速度の二乗で計算される。走行スピードを高めるほどに、維持するために必要な駆動力は増していくことになる。

 駆動力を増すということは、エンジンやモーターの出力を高めることだ。つまり、ハイスピードで走ることは燃費や電費が悪化する要因といえるのだ。

 とくにモーターとタイヤの間に多段変速機構を持たないハイブリッドカーや電気自動車の場合、速度が高まるほどモーターの回転数も増えるため、空気抵抗の増加は燃費や電費の悪化につながりやすい。

 ただし、純エンジン車や変速機構を持つマイルドハイブリッド車の場合は、トランスミッション(変速機)を介してタイヤをまわしている関係から速度とエンジン回転数が比例しない。高速走行に向いたハイギヤを用いることでエンジン回転を低めつつ、高速巡行ができる。前述したように高速巡行は燃費に有利と感じているドライバーが少なくないのは、そのためだろう。

燃費とクルマの流れを考えると制限速度はバランスが優れている

 それでは、燃費・電費を考慮した最適な高速巡行速度というのは存在するのだろうか。目安はあるが、すべての車種に共通した答えを求めるのは、非常に難しい問題といえる。

 前述したように、空気抵抗は車体形状によって決まる。Cd値として知られる空気抵抗係数を減らすよう各メーカーは工夫しているが、基本的には前面投影面積が広いほど空気抵抗は大きくなってしまう。同じCd値であったとしても、全高の低いスポーツカーよりミニバンやクロスオーバーSUVのほうが空気抵抗自体は大きくなりがちだ。

 ミニバンなど前面投影面積の広いクルマはスピードを高めることによって燃費や電費の悪化度合いが大きいといえる。さらに、エンジン車においては車種によって変速比は異なる。小排気量になるほど全体にローギヤード傾向となり、高速巡行におけるエンジン回転数は高くなってしまう。

 つまり、高速巡行において燃費や電費に優れた最適速度というのは車種によって違うものだ。エンジン出力に余裕があり(ハイギヤードなトランスミッションを組み合わせた)、空気抵抗の小さなボディをもつスポーツカーと、小排気量で前面投影面積の広いミニバンでは、おのずと最適解が異なってくる。

 だからといってスポーツカーは120km/h巡行、SUVは100km/h、ミニバンや軽スーパーハイトワゴンは80km/hで走ればいい、とはいかない。個々のクルマにおける効率的な速度とクルマ社会全体の高効率を考えたときの効率追求が一致するわけではないからだ。

 小排気量のエンジン車で高速移動していると実感しやすいだろうが、巡行速度にバラつきがあって、加速と減速を繰り返すような高速走行は燃費が悪くなりがちだ。理想的には一定速度で巡行したい。さまざまな車種が走行する高速道路において、ある程度バランスをとった速度で、皆が巡行することが効率面からは望ましい。

 その意味では、日本の高速道路において多くの区間で設定されている80〜100km/hという速度は、ひとつの目安としてコンセンサスがとりやすく、効率面においてもそこそこバランスに優れているともいえるかもしれない。