ドラマ『Destiny』最終章。自らを「ばか」という真樹…そんな彼を奏が“つかむ”名シーン
<ドラマ『Destiny』第8話レビュー 文:木俣冬>
放火犯は祐希(矢本悠馬)だった? 真樹(亀梨和也)は祐希をかばっていただけ? まさかの展開に気持ちがざわつく。
奏(石原さとみ)は祐希の家を訪れ、取り調べを行う。
いま明かされる、やるせない祐希の事情。勤務していた法律事務所のリストラにあいそうになった彼は野木浩一郎(仲村トオル)に再就職の世話をしてもらえそうになったものの、ふいに連絡が途絶え、焦って自宅を訪問。ちょうど真樹が来ていたので、浩一郎にあしらわれるも、諦めきれず家のまわりをうろうろしていたら、放火犯と間違えられてしまった。
「なにやってんだおれ まるで泥棒じゃん」と自虐していたら、泥棒よりもやばい放火犯に間違われるという最悪な流れ。そのうえ真樹にも誤解されて「真樹にまで疑われてるんだ」って、気にするところはそこじゃないよ祐希! 大変なことになっているんだよ!
「それを真樹がかばって」と言うときの奏のあんぐりした口と涙目の表情の仕上がりが的確すぎる。そんなぁ〜…という気持ちがひしひしと伝わってきた。
実は浩一郎は転職先を探してくれていたことがわかったため、自己保身に走ってしまった祐希を、「真樹は勾留されているんだよ、あんな体で」と責めざるを得ない奏。
こうなると、ほんとにかわいそうなのは真樹だが、やっぱり、真樹、〇〇だよねえと言いたい。(〇〇は、あとから当人が自ら言う。)
「おればかなんで」と。ばかばかばかと何度も言いたい(愛情をこめて)。そして祐希もそうとうばかだと思う。
祐希の証言を鵜呑みはできない。奏は検事として、この事件の真実を発見して、ふたりの無実を証明してみせると誓う。いったい放火犯は誰なのか――。
◆真樹を“つかむ”奏…脚本のこだわりがみえるシーン
「わたしたちは再び検事と被疑者に戻った」(奏)――。そして再び、真樹の取り調べがはじまる。
ものすごくシリアスな物語のはずなのだが、なんだかおもしろくなってきてしまった。でもこうなることは、第1話のシアトリカルな主題歌のかかりかたからも予想はできた気はするのだ。
このドラマは恋人たちの痴話喧嘩として見たほうがいいのではないか。大学時代、三角関係になりそうになって別れた恋人が、再会して元サヤに戻るか戻らないかのすったもんだを、検事と容疑者プレーで見せるというシチュエーションドラマとして。
でも、人間とは愚かしいものであり、ちょっとしたことで、こんなふうに転落してしまうものなのかもしれない。
取り調べで、あの夜の真樹と浩一郎の会話が再現される。
浩一郎に「おまえの友達は変わったのが多い」「35歳も過ぎて、みんな幼稚で世間知らず」と言われ、真樹は友達を悪く言うなと激する。でも「あの事故は彼女(カオリ〈田中みな実〉)の空回りだ」という浩一郎の指摘は正しすぎる。言うたら、全員、空回りしているのだ。真樹も奏も祐希も。知美(宮澤エマ)だけだろう、地に足がついているのは。
浅はかな若者たちが暴走しすぎたその落とし前を12年かけてつけている。
僕たちの失敗――苦い青春の終焉の物語として、石原さとみや亀梨和也と同じ三十代くらいの視聴者は俳優に自分たちを投影して共感ポイントを探すだろうし、もう少し上のシニア世代は自分たちの置き去りにしてきた青春を思うに違いない。
「そうか祐希は放火なんかやってなかったんだ そうか 祐希はやってなかったんだ そうか」と自分の空回りに気づいた真樹は、そうかを繰り返しながらふっと笑う。安堵と自分のやったことが無駄だったことへの気の抜けた感じがよく出ていた。
奏:「あなたは放火していないんですね」
真樹:「はい」
奏:「なのにどうしてそんなことを」
真樹:「おればかなんで 知ってるでしょ 検事さんも おればかなんですよ。ばかだけど、それが一番おれにとっては大事なことなんで」
「やめて〜」「ばかなこと言わないで〜」や「真樹といるとばかが伝染る」は伏線だった(嘘)。
このときの奏のしょうがないなという感情と、無実だったことへの安堵の表情も印象的だ。
「取り調べは以上です」と終わりを宣言する奏。検事として、友人として、元恋人として「いますぐ病院へ行ってください」と告げた。
去っていく真樹を建物の上階の窓から見下ろし、ガラスに手のひらを押し当て、まるで真樹をつかもうとするような仕草をするも、彼の体はその手から離れていく。ここは台本にト書きとして書いてある、たぶん脚本家こだわりのシーンであろう。
◆奏と真樹を救うのは…あの人
真犯人はまだわからないが、真樹も祐希も犯人ではなかったことがわかった奏と祐希の妻・知美(宮澤エマ)は久しぶりにリラックスする。
12年間、ずっと重苦しく、すっきりしないでいたカオリの事件、そして、にわかに持ち上がった放火事件で、もうずっと苦しかったふたりが、貴志のことを「逃した魚は大きい」と騒いだり、奏の「私もただの女の子で」発言を笑ったり。まだ予断を許さないとはいえ、これだけ笑ったのはきっと大学以来であろう。
ただし、奏は大学時代のおどおどしたところは微塵もなく、ものすごく堂々として、別人のようだ。歳月は人を変える。
敏腕検事・西村奏の活躍はまだ残っている。
朝起きると、かつて、父(佐々木蔵之介)の死と関連する汚職事件で無罪になった東正太郎(馬場徹)が新総裁になったニュースが流れていた。東の父(伊武雅刀)は元総理大臣。その秘書・秋葉(川島潤哉)こそ、放火事件で暗躍していた人物にほかならない。
秘書自ら、顔ばれしそうなことをしないで、もっと下っ端にやらせればいいのにとも思うが、とても大事なことだからこそ秘書自らやるのかもしれない。
単なる青春の思い出をなつかしむ恋人たちの物語だと思ったら、最終回前に、巨大な日本社会を揺るがす事件につながった。20年前の事件の真相がここで明らかになったら、次期総理の道は絶たれ、社会は一変するだろう。そんな大きなことに関わっている奏。うまくいったらお手柄で、父の敵も討てる。
奏が検事として活躍できるのは、貴志(安藤政信)のおかげなのだ。一か八か真樹と逃亡したとき、家で寝ているとかばってくれた貴志がいたから、大事に至らずに済んだのだ。
貴志はすでに奏を諦めてマンションから出ていき、でも真樹の手術を担当しようとする。
恋敵的な存在に身体を切り刻まれることをおそれる真樹だが、貴志は、医師として責任をもって手術をしようと病に向き合っている。
結局、貴志が奏も真樹も救うのかもしれない。きっとハッピーエンドだとは思うのだけれど、これだけ毎回、ひっくり返されているので、最後の一手に期待します!