山中崇史、劇団の先輩・六角精児は「本当にいい先輩」 『相棒』で遅刻した時…みなの前で「わざと怒ってくれた」

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2003年、『相棒 season2』(テレビ朝日系)の第4話から捜査一課の芹沢刑事役としてレギュラー出演している山中崇史さん。

season12で三浦刑事(大谷亮介)が依願退職した後は伊丹刑事(川原和久)の相棒役となり、season19で出雲麗音刑事(篠原ゆき子)が捜査一課に配属されてからは、先輩としての役目も担うことに。映画『太陽とボレロ』(水谷豊監督)、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)、『JKと六法全書』(テレビ朝日系)などに出演。劇団扉座の看板俳優としても活躍。

2024年6月6日(木)から主演舞台『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』(作・演出:横内謙介)の上演が始まる。

 

◆電車が止まって『相棒』の撮影に遅刻

『相棒 season2』から芹沢刑事役で出演することになった山中さんは、鑑識課員・米沢守役で出演していた劇団扉座の先輩・六角精児さんと共演することに。

――六角さんは、山中さんがレギュラーになったとき何かお話されました?

「六角さんはクールな感じでしたよ。『頑張れよ』みたいな感じで。あの人は、とくに目をかけてくれるというようなわかりやすいことをするタイプではないけれど、一度僕が遅刻をしたことがあって。

ちょっと寝坊したのと電車が動かなくなっちゃって、撮影所での撮影に30分ぐらい遅刻してしまったことがあったんです。そのシーンは水谷豊さんと寺脇康文さんも出演していたので、お待たせしてしまって…。

慌ててタクシーで撮影所に乗り付けたら、ちょうど水谷さんと寺脇さんが出てこられて。僕が『どうもすみませんでした』って謝ったら、『大丈夫、大丈夫。気にしないで早く準備しな』って言ってくださって。

準備し終わってセットに入ったら、水谷さんとかみんなが待っていらっしゃるでしょう? そこに六角さんもいたんですよ。それで、六角さんがみんなの前でわざと僕に『みんなのこと待たせて何やってんだ!』って怒ったんですよ。

普段そんなことはしないのに怒鳴ったの。ビックリしたけれど、『あっ、この人わざと怒ってくださっているんだな。僕が1回ここで怒られれば少し楽になるだろうって思ってくれたんだ』ってすぐにわかって。

『すみませんでした』って言ったら、六角さんが『どうもすみませんでした』ってみんなに謝ってくれていました。そのとき本当にいい先輩だなって思いました」

――山中さんがレギュラーになってから20年以上になりますが、水谷さんとはどのようなお話をされていますか?

「いろんなことを話しながらアドバイスをいただいています。『崇史、俳優っていうのはね、いつもクリアでいなきゃいけないよ。気持ちがネガティブでいたり、人を妬んだり、そういう気持ちでいると、それは(演技に)出るから』と。

常に明るくって言ったら簡単すぎるけれど、そういう風に気持ちがいつも穏やかでいることって難しいですよね。

でも、水谷さんはすごいなって思います。ものすごくいろんなことを抱えているのに、本当に太陽みたいな感じでね。笑顔で冗談を言ったり、おもしろい話をしてくれたり、叱ってくれることもありますしね」

――叱られたことというのは?

「『もっと現場で集中しなきゃ。どうすればこのシーンが良くなるか。どうすれば見てくださっている方々に喜んでもらえるか。そういうことを常に思ってなきゃダメだ。セリフを覚えてやるだけじゃなく、常にそういう気持ちでいることが大事なんだ』と言われたことがあります。このアドバイスは今でも感謝しています」

 

◆カットをかける前に水谷豊監督の笑い声

山中さんは、水谷豊さん主演の『だましゑ歌麿』シリーズ(テレビ朝日系)、『時代劇スペシャル 無用庵隠居修行』シリーズ(BS朝日)でも共演。水谷さんの映画監督デビュー作『TAP THE LAST SHOW』をはじめ、『轢き逃げ 最高の最悪な日』、『太陽とボレロ』など監督作品にも多く出演している。

――監督としての水谷さんは、どのような感じですか?

「監督だからといって特別変わった感じはなかったです。役者の演技を信じてくださっていますよね。

だから、自分のイメージとちょっと違っていたとしても、おもしろいと思ったらそれをOKと言ってくださる。僕が知っている『相棒』の右京さんを演じている水谷さんの雰囲気とそんなに変わっている感じがなかったんですよね」

2022年に公開された『太陽とボレロ』(水谷豊監督)は、オーケストラを題材に、音楽を愛する人々が織り成す人間模様を描いたもの。ある地方都市でアマチュア交響楽団を主宰してきた花村理子(檀れい)は、経営難から18年間の歴史に幕を閉じることに…という展開。山中さんは理子の父親の代から経営しているブティックの元従業員で、援助する条件として彼女に関係を迫る怪しいアパレルバイヤー・畑中善行役を演じた。

――ちょっとうさんくさくて下心いっぱいで、ユニークなキャラでしたね。

「そうですね。ホテルの寝室で彼女に関係を迫るシーンの撮影は、水谷さんは監督だから壁を挟んだ廊下のブースにいましたけど、どういう風にやるかというアイデアがどんどんその場で出てきて膨らんで。

『じゃあやろう』ってやったときに、水谷さんがすごくおもしろがってくれて、カットをかける前に笑い出したんですよ。こっちにも『ハーハッハハハハ!』って水谷さんの笑い声が聞こえて、それからカットってなって。『カットをかけるより先に笑っちゃったけど、大丈夫なのかな?』って思いましたけど、それぐらい楽しんでくれて良かったなって(笑)」

 

◆主演舞台で泥酔して記憶がない男に

劇団扉座の看板俳優として多くの舞台に出演してきた山中さん。2024年6月6日(木)〜16日(日)まで、座・高円寺1で劇団扉座第77回公演『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』(作・演出:横内謙介)に主演する。

――今回のお芝居はどんなお話ですか?

「異常気象の影響で桜が咲いてしまったハロウィンの夜。人生の転換期を迎えた50代男性が泥酔するほど飲んでしまい、翌朝目が覚めると昨夜の記憶が一切ない。見慣れぬものが散乱した部屋、見知らぬ人が次々訪ねてくるという、シチュエーションコメディに謎解き要素も加わったちょっと不思議でホロっとくる物語です」

――山中さん演じる主人公は、泥酔して記憶がなくなっているのですか?

「そうなんです。その記憶を取り戻していく話です。横内さんの作品というのは、若い頃はみんなが寝静まるくらいの夜に物語が始まって、朝日が登るとともに物語が終わる話が結構多いんですけれど、この話は朝10時ぐらいから始まって昼前に終わるみたいな話なんです。

だけど、昔の横内さんが書いていた話の雰囲気を持っているなって僕は思っていて。何かちょっと懐かしい感じがします」

――今、お稽古の真っ最中だと思いますが、どんな感じですか?

「少人数ですがにぎやかに楽しく、創意工夫しながら稽古に励んでおります。僕はほぼ出ずっぱりで、場面転換なし暗転なしの作品のため通し稽古はヘトヘトになります。僕はセリフを覚えるのが遅いので、早く覚えなきゃいけないなと思っているところです」

――劇団では後輩の方も結構いらっしゃると思いますが、劇団での山中さんはどんな感じですか?

「どうなんでしょうかね。若い頃は嫌われていました(笑)。後輩が慕ってくれているかどうかはわからないですけど、僕的には先輩や後輩と一緒に芝居をやっていて楽しい。お互いに信頼できている仲なので、そういう関係の中で物語を作っていくというのは、やっぱり楽しいですよね。

そういう場がある俳優って幸せだなと思いますよ。そういう場を持ってない俳優もいっぱいいますし、どっちがいいではないんですけれど、僕は自分のことを知ってくれていて、僕も信頼している仲間がいるなかで、一緒に創作活動ができる。そして、作った作品をお客さんに見ていただけるというのは幸せだなと思いますよね」

 

◆疲れを癒してくれる愛猫

山中さんの1歳下の弟・山中聡(そう)さんも俳優として活躍。『相棒』での共演歴もある。

「『相棒』にはうちの弟が、僕より先に出ていたんですけど、キャラクターが強い役で出ちゃったので、そのあとなかなか出られなくて。ずいぶん経ってから弟が出たときには、僕が弟を取り調べるシーンがあったんです。

お互いセリフも言わなきゃいけないし、弟だと思ったりはしなかったですけど、ただ監督が、僕が容疑者役の弟に話をするところで画の中に僕と弟の二人だけにしてくれたんですよ。それはちょっと放送を見たとき、新鮮でしたね。

うちの実家に帰ると、その僕たちの2ショットが飾ってありました(笑)。機会があったらまた一緒に何かやってみたいとは思っています」

――今、一番ホッとされるときは?

「家では犬と猫、両方飼っているんですけど、猫を触っているときですかね。猫ってあまり飼いたいと思ったことはなかったんですけど、ちょっと心臓の悪い猫がいて、引き取ることになったんですよね。

それで、その猫は結局心臓はさほど悪くなくて大丈夫で、今でも生きているんですけど、その猫と一緒に生活するようになってから、『猫ってこんなに可愛いの?』って思うようになって。

最初は猫って僕のことを嫌いだと思っていたんです。犬は呼ぶとお尻をプルプルプルプル振りながら来てくれるけど、猫は来てくれない。僕は猫に好かれると思ってなかったんですよね。

だから僕には寄りつかないと思っていたんだけど、うちの猫は結構夜になって妻とワンコが寝た後で僕に甘えに来てくれたりするの。それがすごく可愛くて(笑)。『猫ってこんなに甘えてくれるんだ。可愛いなあ』と思って。

『僕でいいの?』なんて最初は思ったんだけど、『僕じゃなきゃダメかも』って思うようになってきて。『よしよし、僕が守ってやるぞ』って言って触っていると疲れも取れて癒されるんですよ。本当にフワフワなんですよ、毛が柔らかくて。『お腹に顔をうずめていい?』って言って顔をうずめても引っ掻かない。触っていると疲れも取れて癒されるんです(笑)」

――今後やってみたいことは?

「舞台だったら長い時間かけて作品を作るじゃないですか。それと一緒で、たとえば映画もたっぷり時間かけて作ったりするでしょう? 『相棒』の劇場版みたいに、みんなでガーッとのめり込んでいくような映画作品がまたやってみたいですね」

――約2週間後には舞台の初日を迎えますね。

「はい。扉座らしい、優しく温かい作品になればいいなと想いながら、現在稽古しています。皆さんに永く愛されるような作品になればいいなと思っています。喜んでもらえる作品だと思うので、ぜひご覧いただきたいですね」

舞台稽古で多忙な毎日を送っている山中さん。主演舞台『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』は、早くも「山中崇史の生涯の代表作となる予定」と言われており、上演が待ち遠しい。(津島令子)