「頻繁に悪夢を見る人は認知症の発症リスクが高い」という研究結果が報告されるなど、悪夢は見ると嫌な気持ちになるだけでなく、病気との関連性があることが示唆されています。新たな研究では、悪夢を見ることが自己免疫疾患である全身性エリテマトーデスの早期兆候かもしれないということが明らかになりました。

Neuropsychiatric prodromes and symptom timings in relation to disease onset and/or flares in SLE: results from the mixed methods international INSPIRE study - eClinicalMedicine

https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(24)00213-X/fulltext



“I feel like I’m Alice in Wonderland”: nightmares and ‘daymares’ could be early warning signs of autoimmune disease | University of Cambridge

https://www.cam.ac.uk/research/news/i-feel-like-im-alice-in-wonderland-nightmares-and-daymares-could-be-early-warning-signs-of

Nightmares May Have an Eerie Link to Autoimmune Disease : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/nightmares-may-have-an-eerie-link-to-autoimmune-disease

全身性エリテマトーデスは発熱や倦怠(けんたい)感、両頬に現れる赤い湿疹(蝶形紅斑)、関節炎といった症状が、症状のない期間とある期間が数年おきに出たり治まったりする自己免疫疾患です。これらの症状に加えて心血管系や脳、腎臓などその他の臓器にも症状が現れることがあり、重症化すれば命に関わることもあります。ほとんどのケースでは15〜45歳の間に発症し、症状の再燃は「flare-up(フレアアップ)」と呼ばれます。

ケンブリッジ大学の公衆衛生学者であるメラニー・スローン博士が率いる研究チームは、全身性エリテマトーデスの患者676人を対象としたオンライン調査を行いました。調査では、29の神経学的およびメンタルヘルスの症状(抑うつ・幻覚・平衡感覚の消失など)が起きたタイミングについて尋ねたほか、全身性エリテマトーデスのフレアアップ時に現れる症状の順序などについて質問したとのこと。

分析の結果、全身性エリテマトーデス患者の約5分の3が「悪夢」による睡眠の乱れを経験しており、約3分の1は全身性エリテマトーデスの発症やフレアアップの1年以上前に悪夢を見るようになったことがわかりました。この結果は、夢と脳の免疫系が何らかの形で関係していることを示唆しています。



研究チームはオンライン調査に加えて、全身性エリテマトーデスを含む自己免疫性リウマチ疾患の患者69人に対し、詳細なインタビューも実施しました。ある患者は自身が見た悪夢について、「殺人事件のように、人から皮膚が剥がれ落ちるような恐ろしいものでした……全身性エリテマトーデスが悪化している時のように圧倒されている感じでした……私の体がストレスにさらされるほど夢はより鮮明で悪いものになるんだと思います」と述べたとのこと。

幻覚を経験した患者はそのことについて語りたがらない傾向にありましたが、インタビュアーが幻覚ではなく「daymare(白昼夢)」という言葉を使用すると、経験を語ってくれるようになったとのこと。ある患者は、「『白昼夢』という言葉を聞いてすぐに納得しました。必ずしも怖いわけではなくて、夢を見ているのに目を開けて庭に座っているような感じなんです。目が覚めているのに夢を覚えていなくて、そこにいるのにいないような……本当に混乱した感じです。一番近いのは、不思議の国のアリスになったような感覚でしょうか」と話したそうです。

また、研究チームは患者だけでなく、臨床医40人にもインタビューを行いました。臨床医の多くは、全身性エリテマトーデスのフレアアップと悪夢や白昼夢との関連性を考えたことがなかったとのことで、もし関連があるようであれば将来的に患者と悪夢や白昼夢について話したいという前向きな姿勢を示したそうです。



スローン博士は、「臨床医が患者にこのような症状について話し、患者それぞれの症状の進行を書き留めるために時間をかけることが重要です。患者はどのような症状がフレアアップの兆候なのか知っていることが多いものの、患者も医師も精神や神経学的な症状については話したがらないことがあります。特に、これらが自己免疫疾患の一部であることを理解していない場合はなおさらです」とコメントしています。

また、論文の最終著者であるキングス・カレッジ・ロンドンのデビッド・クルーズ教授は、「私は全身性エリテマトーデス患者と悪夢について話し合い、疾患の活動性と悪夢に関連があると考えてきました。私たちはより多くの医師に、悪夢やその他の精神神経症状について患者へ尋ねるよう強く勧めています。悪夢やその他の精神神経症状は珍しいものだと考えられていますが、実は全身性自己免疫疾患では非常によく見られる症状です。悪夢や白日夢について尋ねることで、フレアアップを早期に発見することができます」と述べました。