元阪神ドリス「NPB復帰」を目指して高知で奮闘中 佐々木朗希世代「紀州の剛腕」にも好影響
オリックスのアンドレス・マチャドや西武のアルバート・アブレイユ、阪神のハビー・ゲラなど、メジャーリーグでの実績をひっさげて今季来日した剛腕投手たちがNPBで躍動している。
以前から在籍するソフトバンクのロベルト・オスナや巨人のアルベルト・バルドナードを含め、元メジャーリーガーたちは質の高い投球で日本のファンを魅了すると同時に、チームメイトに与える影響も大きい。
そうした意味で、日本の"別の舞台"で注目される元メジャーリーガーがいる。四国アイランドリーグPlusの高知ファイティングドッグスに今季加わった、元阪神の右腕投手ラファエル・ドリスだ。
再び日本にやってきた元阪神のラファエル・ドリス photo by ©Kochi Fighting Dogs
「シカゴ・カブス時代に藤川球児さんと一緒にプレーをされて、その後は阪神でもチームメイトになりました。ふたりは長い期間の友人です。ファイティングドッグスのOBでもある藤川さんから1月にお話をいただき、入団に至りました」
そう説明するのは、高知球団でチーム強化・育成ディレクターを務める青木走野氏だ。
ドミニカ共和国生まれで現在36歳のドリスは、2011年〜2013年にメジャーで40試合に登板したあと、2016年に阪神と契約して来日した。2017年には37セーブを挙げて最多セーブ投手に輝くなど、4年間で208試合に登板してタイガースファンの人気を博した。
2020年からメジャーのトロント・ブルージェイズで2年間プレー。その後はマイナーリーグやメキシカンリーグを経て、今年1月、藤川氏を介して高知球団に売り込みがあった。青木氏が説明する。
「もともと実績のある投手です。近々で言うとドミニカのウインターリーグで投げていて(※2023-24シーズンに7試合登板)、フィジカルも維持されているということでした。藤川球児さんのご紹介なので、信頼もあります。人間的にも性格のいい選手だと聞いていて、実際に来てみても『さすがだな』という印象を受けています」
【36歳になったドリスにチャンスはある?】4月12日に行なわれた愛媛マンダリンパイレーツとのダブルヘッダー2試合目で初登板を果たすと、最速148キロのストレートやスプリットで2奪三振を含め三者凡退に抑えた。地元メディアが注目するなか、新天地で格の違いを見せつけた格好だ。
もっとも、ドリスにとって独立リーグで活躍することはゴールではない。その先に見据えるのが、5年ぶりのNPB復帰だ。青木氏が続ける。
「今季もメキシコの球団からオファーを受けていたそうです。でも、もう1度NPBでプレーすることを目指すには何が必要かを考えて、うちの球団を選んでくれたのだと思います。日本でプレーしていれば、NPB球団のスカウトの目につきやすいですからね。家族をドミニカに置いて単身赴任で勝負をしにきていますが、年齢的に言っても覚悟がすごいなと」
メキシカンリーグは世界で4番目の規模を誇り、目安として月給は100万円前後とされる。日本の独立リーグより給料はひとケタ多いなか、条件面で劣る高知球団を選んだのは、NPB復帰を見越してのことだろう。
果たして、36歳になったドリスにチャンスはあるのか。球速に関し、青木氏にこう話していたという。
「初登板では最速148キロでしたけど、『阪神時代も日本に来た当初はそのくらいのスピードから始まり、暑くなって状態が上がってくると150キロ以上投げる』ということでした」
青木氏は選手時代に高知球団でプレーし、現役引退後は日本ハムで広報として大谷翔平(現ロサンゼルス・ドジャース)の入団1年目を担当した。同球団出身の中村勝(現くふうハヤテベンチャーズ静岡・投手コーチ)がメキシカンリーグでプレーした際、通訳を務めたこともある。
世界で豊富な経験を誇る青木氏の目に、ドリスの可能性はどう映っているのだろうか。
「フィジカルも健康ですし、コントロールもいい。スプリットも含め、コマンドがちゃんとできていることに、"上"で抑えてきた力を感じます。実績に加え、本人の性格や野球への取り組み方を見たら、NPBでも全然行けるなと。どのタイミングで行くのだろうかなと見ています」
【多くの阪神ファンがドリス目当てに高知へ】ドリスがNPBに復帰できるかは、各球団の需要も大きく関わってくる。リーグ優勝やクライマックスシリーズ進出の争いに向け、リリーフの補強が必要という球団が出てきたら、5年ぶりの電撃復帰もあるかもしれない。
デッドラインは支配下登録期限の7月31日。あと約3カ月のアピール期間が残される一方、ドリスはすでに高知球団に多くの好影響を与えているという。
そのひとつが、ファンやメディアの注目度だ。もともと高知には阪神ファンも多く、タイガースで愛されたドミニカンへの期待は大きい。県外から応援に来たファンもいるという。
同時に、チームメイトたちへのプラス効果も大きい。とりわけ刺激を受けているのが今年、注目を集める大型右腕の落合秀市(22歳)だ。
和歌山東高校時代には「紀州の剛腕」と呼ばれて2019年のドラフト候補にも挙がったなか、指名漏れで一般企業への就職を表明。一転して決めた関西独立リーグの入団会見を「進路に迷いがある」と欠席したことでも話題になった。今年合同トライアウトで高知球団に入団し、その先にNPB入りを目指している。
4月16日、敵地での香川オリーブガイナーズ戦で落合が今季初セーブを挙げた裏には、ドリスのアドバイスがあった。
「マウンドがいつもの球場より高いから、これまでのような感覚で投げると、おそらくボールが1、2球分くらい高く浮いてしまう。最初から少し低めを意識して投げたほうがいい」
落合はその前回登板で敗戦投手になったが、ドリスの助言もあって香川戦では3つのアウトをすべて三振で奪った。期待の剛腕にドリスも太鼓判を押していると、青木氏が語る。
「ドリスは落合に対し、『クローザーに抜擢されるのは強い真っすぐを投げられるということだから、変化球を多用するのではなく、真っすぐを軸にピッチングを組み立てていったほうがいい』とアドバイスしていました。
落合は入団当初、球速141キロだったのが、トレーニングもして低めに148キロを投げるようになっています。ドリスは『落合は100マイル(約160キロ)くらい投げられるようなピッチャーになると思う』と話していました」
【佐々木朗希・奥川恭伸と並ぶ素質は開花する?】メジャーやNPBの大舞台で活躍したベテラン投手のアドバイスや一挙手一投足は、独立リーグの若手にとって何よりのお手本になるだろう。対してドリスにとっても、夢を追いかける独立リーガーの姿に刺激は多いはずだ。青木氏は、ファイティングドッグスで生まれる相乗効果に期待している。
「どうすればスピードを上げられるのか。どうやったら相手打者を抑えられるのか。若手投手は毎日、目の前で"答え合わせ"ができるので、成長スピードがどんどん速くなると思います。
一方、ドリスは日本食や日本文化が好きで、来日した翌日は鰻を食べていました。周囲にも積極的に話しかけ、自ら溶け込もうとしています。選手、人としてロールモデルになってくれるので、チームのみんなで高め合ってもらえたらと思いますね」
果たして36歳になったドリスは、もう一度阪神か、あるいは他球団でNPBの舞台に立つことはできるか。
高校時代に同世代の佐々木朗希(ロッテ)や奥川恭伸(ヤクルト)と並べて素質の高さが語られた落合は、ポテンシャルを開花させることはできるか。あるいは、ほかの日本人投手が刺激を受けて台頭してくるのか。
高知の独立リーグから大きな夢を追いかける、男たちの挑戦の行方を楽しみにしたい。