パリ五輪グループDは「地獄の組」 対戦国パラグアイ、マリ、イスラエルは「日本戦がカギを握る」と警戒
U−23日本代表がU23アジアカップで優勝を果たし、パリ行きを決めた。予選を首位で通過したことにより、日本がオリンピックのグループステージで入るのはグループDとなった。日本が入ったおかげでこのグループDは今や「死の組」、いやそれ以上の「地獄の組」だと言われている。
グループDの日本以外のメンバーは、2大会連続優勝のブラジルや古豪ウルグアイを抑えて南米予選で1位となったパラグアイ、ヨーロッパの並みいる強国を抑え、昨年のU20W杯では世界3位に輝いたイスラエル、そして若い世代が伸びているマリ。カテゴリーは違うものの、マリは昨年のU17W杯で3位になっている。日本も強いとはいえ、簡単には勝ち進ませてはもらえないだろう。
U23アジアカップの行方を見守っていたのは日本人だけではない。大会開催が今年の1月から4月に変更されたため、他の大陸の五輪出場チームはほぼ出そろっており、すでに組み合わせの抽選も行なわれていた。そのため、アジアのチームが振り分けられるグループの各国も、自分たちの対戦相手がどこになるかを見守っていた。日本が入ったグループD各国の反応を見てみよう。
パリ五輪出場権を獲得したU−23日本代表の山田楓喜 photo by Getty Images
まずはアフリカのマリ。3月に来日し、日本と親善試合を戦った監督のバダラ・アル・ディアロによると、彼らはチームスタッフが揃って生放送で決勝を見ていたという。
「サッカー協会が特別に大きなスクリーンを用意してくれたので、我々は生放送で細部にわたって試合を見ることができた。私は目を大きく見開いて、ひとつのプレーも見逃すまいと、日本対ウズベキスタンを見ていた。試合を見始めてすぐに、どちらのチームが首位になっても、我々にとってはかなり厄介なるということがわかった」
そして日本と対戦するための方法をこう述べている。
「我々は絶対に彼らにボールを持たせてはいけない。それはあまりにも危険だ。彼らはどんなパスもおろそかにせず、決してあきらめない。我々は日本以上に頑固に鉄の意思でプレーしなければならない」
【奇遇に湧くパラグアイ】
一方、パラグアイの監督カルロス・ハラ・サギエルはこう述べている。
「日本がアジアで優勝したことで、我々のグループは大会で最もハードなものとなってしまった。なかでも一番重要な試合は、南米チャンピオン対アジア王者、つまり初戦のパラグアイ対日本だ。もし金メダルがほしいのであれば、多くの強敵に立ち向かわなければならないが、日本戦は最初の大きな試練となるだろう。私はアジアカップでの日本の試合を見たが、日本のプレーはとてもスピーディーで、少なくとも2、3人の非常に優秀な選手がいる。だが、パラグアイにもいい選手はいるし、我々は集中している。このグループ初戦は非常に大事なものとなるだろう」
パラグアイのメディアも久しぶりのオリンピックに注目している。「ABCテレビ」の記者カルロス・ハラ・グスマンは言う。
「パラグアイの選手たちは今、その歴史を手に握っている。なぜなら20年を経て、我々はオリンピックに戻ってきたからだ。パラグアイは2004年のアテネ大会で唯一のメダルを勝ち取った。アルゼンチンに負けての銀メダルだった。ブラジルやウルグアイという南米の強豪を破ってパリ行きの切符を手にできたことは、グループリーグを戦う大きなモチベーションとなるだろう。
パラグアイはマリには絶対に勝たなければならない。しかし我々はバランスの取れた、プロフェッショナルなチームであり、きっと勝てるはずだ。イスラエル戦もそれほど問題はないだろう。このグループでの本当の敵は日本だ。日本は我々よりも規律があり、間違いなく勝ちにくる。私の意見では、パラグアイがこの組で優位に立ち勝ち進みたいのであれば、日本に勝つことに集中しなければならない」
ちなみにサギエル監督は、2004年アテネ五輪当時の監督でもある。昨年10月に監督に就任した彼は、20年ぶりに再びチームをオリンピックに導き"奇跡の人"とも呼ばれている。そしてそこには日本にまつわる因縁がある。パラグアイサッカー協会のロバート・ハリソンはそれを語る。
【日本研究に余念がないイスラエル】
「我々は歴史的な挑戦を目の前にしている。初戦の相手が日本になると知って、私は少なからず驚きと運命を感じた。なにしろパラグアイが最後にオリンピックに出場した時も、初戦の相手は、まさに日本だったからだ。そう、2004年の銀メダルへの道は、まず日本戦から始まった。4−3で日本を破ったパラグアイはそのまま決勝まで進んだ。数奇な偶然だが、日本が我々にもう一度、幸運をもたらしてくれることを願ってやまない」
パラグアイは験を担ぐことができるか。
パラグアイのサポーターも初戦の対戦相手がどこになるかが気になったようで、ウズベキスタン戦は金曜日の昼間だったにもかかわらず、試合を追っていた者がいた。SNSには試合を見た感想がいくつも見られた。「ヤマダはマジでクラック!」「コクボってなんてファンタスティックなんだ!」「でもこの日本に勝てたら、金メダルにだって届くかもしれないよ」......といった具合だ。
イスラエルでも、日本が同グループにやって来たことは話題になっている。イスラエルは今回3回目のオリンピックだが、ヨーロッパ代表として参加するのはこれが初めてである(過去2回はアジアのチームとして出場)。ドイツやイタリアを抑えてオリンピックの舞台に立つことに非常に誇りを持ち、そこでメダルを取るために高いモチベーションを持っている。そのため対戦チームの研究にも余念がない。そしてかなり日本を重要視している。
イスラエルのガイ・ルゾン監督はこうコメントしている。
「イスラエルは最も難しいグループに入ってしまったのは確かだ。3チームとも非常に強い。だが同時に、三者三様のプレーの哲学を持ったチームと対戦できることを嬉しくも思う。マリは身体能力が非常に高く、持久力も抜群だ。パラグアイの強みはテクニックで、多彩なプレーを見せてくれるだろう。そして日本。私は日本のことは一番よく知っている。
私は間近で、日本がカタールやイラクを破るのを見てきた。彼らのプレースタイル、長所も短所も知っていることは非常に重要であると思う。とにかくオリンピックに出られるのは世界でたった16チームだ。そのなかに入っている我々もまた強いチームだ。それぞれの強さを持つ同組のライバルたちに勝つ唯一の方法は、恐れを抱かないこと、勇気を持って戦うことだ」
【「我々は日本のサッカーをよく知っている」】
イスラエル代表のFWドル・トゥルゲマンは日本戦をとても重要だと思っている。
「グループステージで対戦する3つのチームがやっと出そろった。マリは強いチームだし、パラグアイはテクニックがすばらしい。でも日本は、強さもテクニックも有している。それだけではない、彼らは規律の正しさと冷静さまで兼ね備えているんだ。これは大きな武器だよ。日本と戦う時はとにかく集中して、ミスを起こさないよう細心の注意をする必要がある。とにかくこのグループの行方は、日本戦の結果がカギを握ると思う」
イスラエルの最大の日刊紙「イェディオト・アハロノト」のウリ・ベン・ヌン記者もU23アジアカップの決勝をつぶさに見ており、その感想をそのコラムでこう述べている。
「イスラエルが戦うグループDの最後の対戦相手が決まった。我々はアジアカップのドラマチックな決勝を、キックオフから見守った。試合を見ながら、私はイスラエルが当たるのがウズベキスタンであってほしいと思った。日本は決してあきらめないチームだった。それは試合終盤に決めた山田(楓喜)のゴールからもわかる。
またその後、ウズベキスタンにPKが与えられた時の日本も印象的だった。この試合の日本は、たとえ引き分けでもオリンピックには出ることが決まっていた。しかし日本は一切、手加減をしなかった。まるでライオンのように勇猛にGKはPKを止めて、日本の勝利を守りきった。もしイスラエルがこの日本に勝つことができたなら、大会でより遠くまで行けるということだろう」
そして元イスラエル代表で現在TVコメンテーターを務めるジョシュ・ハレヴィはイスラエルがグループを勝ち抜く策をこう授けた。
「グループDのなかで一番強いのは、疑いなくパラグアイだろう。しかし、日本も決して侮ってはいけない相手だ。イスラエルはパラグアイに負けるかもしれない。マリとは少なくとも引き分けなければダメだ。そして一番重要なのは3戦目の日本との戦いだ。
ウズベキスタンを破ってU23アジアカップに優勝した日本は、この大会の最強のチームだった。なによりやる気にあふれていた。オリンピックで高みに行くことはイスラエルサッカーにとって大きな目標であり、それが実現すれば大きな功績となるだろう。アジア王者との試合がすべてのカギを握る。この試合の結果ですべてが変わる。だが、我々は日本のサッカーをよく知っている。彼らがイスラエルを知る以上に、私たちは日本には詳しいだろう。これは対戦するうえで重要なことだ」
どの国においても、日本が同じグループに入ったことは、大きなニュースだったようだ。