レアルの強さを再認識したCL準決勝 引いて構えて攻めさせて、逆転されても慌てない
バイエルン対レアル・マドリードとドルトムント対パリ・サンジェルマン。チャンピオンズリーグ(CL)準決勝2カードのうち、現地時間の4月30日にはまずバイエルン対レアル・マドリードが行なわれた。
「時間の経過を早く感じるのは好ゲームの証」とはサッカーでよく言われるフレーズだが、この一戦もそれを実証してみせた。CL準決勝に相応しい、見なきゃ損と言いたくなる接戦だった。
ブックメーカー各社などの戦前の下馬評で上回ったのはレアル・マドリード。準決勝で昨季の優勝チーム、マンチェスター・シティを下し、一躍本命の座に躍り出た格好だ。
欧州サッカー史上、最もしぶといチーム。ここ数年のレアル・マドリードの不撓不屈の精神に裏打ちされた粘り腰には、つくづく驚かされる。ギリギリの苦境を見事に切り抜けていく姿は感動的ですらある。サッカーの奥深さを痛感させられる名チームだ。
この準決勝第1戦でも、レアル・マドリードはアウェーの地であるアリアンツアレーナで"らしさ"を存分に発揮。バイエルンを慌てさせた。
バイエルン戦で2得点を挙げたヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)photo by Reuters/AFLO
開始早々から優勢に進めたのはバイエルン。レアル・マドリード陣内に一方的に攻め入り、レロイ・サネ(ドイツ代表)の惜しいシュートを筆頭にチャンスを連続して掴んだ。
だがバイエルンは、攻めたというより、あえて引いて構えるレアル・マドリードに"攻めさせられた"という印象だった。バイエルンが攻める姿に、逆にレアル・マドリードのペースであることを見て取ることができた。接戦であるうちはレアル・マドリード有利。このなんとも言えぬ暗黙の了解が、立ち上がりからバイエルンを攻撃に駆り立てた理由に思える。
微妙なところだが、ここでバイエルンが先に点を取ってしまえば、レアル・マドリードの引いて構える作戦は、失敗に終わったことになる。だが、際どいシュートを浴びても点にならない限り、作戦は成功している状態にある。
レアル・マドリードには、守りを固めている間は失点する可能性は低いとの自信があったのだろう。守備に追われる姿に悲壮感はなく、逆に喜々としているようにさえ見えた。
【個人技が光ったバイエルンの得点】
レアル・マドリードが初めてバイエルン陣内でボールを長い時間つなぐことができたのは、開始から17分も経過した後だった。
それまでを0−0で切り抜けた力。それを前提に自らのプランを押し進めようとするレアル・マドリードの、どこか厚かましい姿勢には恐れいる。
先制点は前半24分、マークしたのはレアル・マドリードだった。バイエルンのCBキム・ミンジェ(韓国代表)とエリック・ダイアー(イングランド代表)の間を突くように、トニ・クロース(ドイツ代表)が、ハーフウェイラインを少し越えたあたりから差し込むように送ったスルーパスが見事だった。
スルーパスは数あるパスのなかでも花形の、お洒落なパスと位置づけられるが、クロースが得点者となったヴィニシウス・ジュニオール(ブラジル代表)に出したパスは、天下一品と言いたくなる切れ味だった。得点者が霞むような、お洒落極まりない凄ワザと言えた。
もちろん、このまま終われば名勝負にはならない。バイエルンもしっかりと反撃する。次第に再びレアル・マドリードを押し込む展開になっていく。同点弾が生まれたのは後半8分で、右45度からサネが自慢の左足を渾身の力で振り抜いたスーパーゴールだった。
レアル・マドリードからすれば、高い個人の能力にこじ開けられたという感触だろう。「サネの左足はすごい!」で片付けられるゴールとも言えたが、その3分後、今度はジャマル・ムシアラ(ドイツ代表)にドリブルで割られると、右SBルーカス・バスケス(元スペイン代表)がたまらず足を掛け、PKを献上する。
これをハリー・ケイン(イングランド代表)が決め、バイエルンは2−1と逆転に成功した。この2点目も、言ってみればムシアラの個人技だ。高い個人能力を最大限に発揮されると、レアル・マドリードといえども失点する。チームワークに優れたレアル・マドリードをバイエルンが個々の個人技でいかに崩すか。展開はそんな感じになりかけていた。
【ヴィニシウスのカリスマ性】
ところが、2−1とされても、レアル・マドリードは慌てない。1点差ならば逆転できると、自分たちが内蔵するしぶとさに対する自負心がそうさせていたのだろうか。リスクを冒してまで同点弾を狙いにいこうとしないレアル・マドリードを見ていると、試合はこのまま第2戦に持ち越されるかに思えた。
だが、もちろんレアル・マドリードにも個人技に優れた選手はいた。先制点のシーンでは霞んで見えたヴィニシウスだ。サネやムシアラもすごいが、このブラジル人選手はその上を行く存在かもしれない。
左ウイングのポジションで、右CBアントニオ・リュディガー(ドイツ代表)から対角線パスを受けた後だった。ヴィニシウスはクネクネとした、なんとも言えないドリブルでペナルティエリア付近に侵入すると、切り返しを入れながら前方のロドリゴ(ブラジル代表)に縦パスを差し込んだ。ヴィニシウスのマークについていたサネの寄せが甘かったことも確かだが、それを寄せつけないヴィニシウスの圧倒的なカリスマ性が光ったシーンでもあった。
次の瞬間、ロドリゴはキム・ミンジェに倒されていた。判定はPK。キッカーのヴィニシウスは、これを楽々と決め試合を2−2とした。
第1戦という準決勝の前半部だけで、これだけの充実ぶりだ。第2戦に期待は募る。優位なのは第2戦をホームで戦うレアル・マドリードだろう。バイエルンの対抗手段は、やはりサネ、ムシアラらの個人の力になる。一方のレアル・マドリードにも、ヴィニシウスというそれ以上の選手が控える。
問題は、これまでヴィニシウスとともにチームを牽引してきたジュード・ベリンガム(イングランド代表)が、この第1戦では大した活躍ができなかったことにある。看板選手であるにもかかわらず、後半30分、ピッチを後にしている。この影響はどう出るか。
それにしてもクロースのスルーパスには恐れ入った。この10年強の間、ドイツサッカーの象徴として活躍してきた、元バイエルンの選手でもあるクロースが、古巣の心臓をえぐるようなラストパスを送る姿を見て、なんとも言えぬ物語性を覚えずにはいられなかった。
今年6月に開催されるユーロで、ドイツ代表への復帰も噂されるクロースも、第2戦を占う上でのキープレーヤーになる。ブックメーカー各社は、レアル・マドリード有利と予想するが、結果はいかに。