開幕から苦しい戦いが続くヤクルトにあって、ふたりの新外国人投手が見事なピッチングを続けている。ミゲル・ヤフーレは、ここまで(4月29日現在)5試合に先発して4勝1敗。ホセ・エスパーダは中継ぎで10試合に登板して、防御率0.87。ふたりの存在はこれからの巻き返しに向け、チームのポジティブ要素のひとつになっている。


ここまでセ・リーグトップの4勝をマークしているヤクルト新外国人のミゲル・ヤフーレ photo by Sankei Visual

【課題はクイック】

 石井弘寿ピッチングコーチは「ヤフーレもエスパーダもまだ成長途上で、本当に研究熱心ですし、日本の野球に順応しようと頑張っています」と評価した。

「ヤフーレは、僕たちに『ここはどう思いますか?』とか『どうしたらいいですか』と、去年の自分の映像を見せて聞いてきます。エスパーダはクイックや牽制など課題はいろいろありますけど、それを克服しようと一生懸命取り組んでいます。日本で成功するためにはそういう姿勢が一番大事なところなので、ふたりともいい方向に進んでいると思います」

 ヤフーレは開幕3戦目となった3月31日の中日戦に先発すると、6回を6安打2失点にまとめ来日初勝利。その後も、「自分はボールを低めに集め、ゴロを打たせて打ちとるタイプです」という持ち味を発揮して、ここまでリーグトップの勝利数を記録している。

 ヤフーレはうまくいっているところと、見つかった課題についてこう話す。

「自分の原点である打者に向かっていくピッチングが、ここまではできています。ただ、前々回の登板(4月21日のDeNA戦/7失点)ではそれができませんでした。課題としては、日本はランナーがよく走ってくるので、クイックがすごく大事になってきます。そこがもう少しうまくなれば、ランナーにそこまで気を遣わずに済むと思うので、そこを修正ポイントとして練習していきたい」

 日本の打者や投手の印象を聞くと、「バッターはボールの見極めがいいですし、ストライクゾーンに対してすごく教育されていると思いました」と言い、こう続けた。

「マイナーでプレーしている時に、ブルックス・クリスキー(かつてDeNA、西武でプレー)から『日本の打者はボールに当てる技術が高いし、野球のレベルも高いよ』と聞いていたのですが、ほんとにそのとおりだなと。ピッチャーもストライクゾーンをよく知っていますし、いろいろな球種を投げる人が多い印象です。自分もそういうタイプなので、とくに誰からというのはありませんが、もっともっと学んでいきたいと思っています」

 前出の石井コーチは、ヤフーレの投球スタイルについてこう説明する。

「真っすぐの球速は140キロ台後半から150キロくらいで、チェンジアップ、ツーシーム、カーブ、スライダー、スプリット、カットボールなど変化球も多彩。いろいろボールを動かしながらゾーンのなかで勝負していくタイプですよね。アメリカでは技巧派なんでしょうけど、日本ではパワーピッチャーの部類に入ると思います。今は日本のボールの扱い方がもうちょっとだと感じるので、それに慣れたらもっとよくなるんじゃないでしょうか」

【ペコちゃんとパダちゃん】

 もうひとりの新外国人であるエスパーダについては、次のように語る。

「ホップ成分の数値が高いですよね。ホップ成分は50センチあれば高いほうなのですが、エスパーダは60センチ近くあります。そして初速と終速の差もそれほどないので、打者からしてみればタイミングの取りづらい真っすぐかなと。球速もキャンプ時は145キロ前後だったのですが、今は150キロ前後くらいまで上がって。まだまだ伸びる感じがしますね」

 エスパーダ自身は、ホップ成分について「そこを意識することはないですよ」と言う。

「自分は常に全力で投げて、チームの助けになることだけを考えています。結果、それがホップ成分の高さになっていると思います。ここまでは自分の持っている球種、真っすぐ、カーブ、スプリット、これらをゾーンに投げ込んで打ちとるスタイルでうまくいっています。まずは、今のスタイルを続けていきたいですね」

 エスパーダにも日本の打者や投手の印象を聞いてみた。

「自分はリリーバーなのですが、試合を見ていて日本のバッターは修正する能力が高いと感じています。たとえば、第1打席で真っすぐを投げて、打者が凡退したとします。そうすると、次の打席では真っすぐの対応力が上がっている。修正能力が高いですよね。日本のピッチャーについては、真っすぐはメジャーよりも正回転しているというか、浮き上がるボールを投げる印象を持っています」

 ヤフーレは3勝目を挙げた試合後のインタビューで、「試合を楽しめているのが、勝てている要因です」と答え、それが印象に残っている。

「楽しむことも自分の原点で、打者との対戦や競争などを楽しめれば、自分のパフォーマンスを発揮できます。日本で野球をして感じたのは、勝ちにこだわるところが楽しいですね。そのためにチームがひとつになって戦っています。自分の結果が出なかった時でも、誰かが活躍すれば喜ぶし、喜んでくれる。そのことでいろんな人と仲良くなれる。とても楽しいですよね(笑)」

 そして続けて、「バッティングも楽しいですね」と笑顔を見せた。

「アメリカでは2年ほど前に打席に立ったのが最後だったのですが、日本ではピッチャーが打てばスタンドもベンチも盛り上がります。そこが新鮮ですし、僕も早くヒットを打ちたい(笑)」
※その後、4月29日の巨人戦の第2打席でレフト前に来日初ヒット

 ヤフーレは真っ赤な頬っぺたが印象的で、伊藤智仁コーチから「ペコちゃん」の愛称を授かり、チームにすっかり溶け込んでいる。

 そしてエスパーダも、ファンから「パダちゃん」の愛称で呼ばれ、日本の野球を楽しめているようだ。ブルペンでは、ブルペン捕手と仲睦まじい光景を見ることがある。

「ブルペンは家族だと思っています。もちろん集中する時はしますけど、それ以外はみんなと仲良くさせてもらっています。日本に来て、初めて組織で動く経験をしているのですが、たとえばストレッチとかでも、みんなで時間をかけてする。試合に向けていい準備ができますし、すべてが新鮮で、新しい経験として日々学んでいます」

 石井コーチは、ふたりへの期待についてこう話した。

「エスパーダはこの先、勝ちゲームでも多く投げて抑えができるくらいに成長してほしいですし、ヤフーレは去年の(ディロン・)ピーターズの6勝の穴というか、いろいろな課題を克服しながらふた桁勝ってほしいですね。なにより、ケガなく1年間戦ってくれることが、チームにとって一番だと思っています」

 ヤフーレとエスパーダが課題を克服し、投げるたびに成長していけば、チームの順位もひとつ、またひとつと上がっていくはずだ。