サイゼリヤ、ギリギリ「国内黒字化」も残る難題
4四半期連続で国内事業の営業損益は黒字、しかし利益はごくわずかだ(撮影:尾形文繁)
「利益率は改善の方向に進み出している」――。2024年8月期の中間決算説明会で、サイゼリヤの松谷秀治社長は国内事業についてこう語った。
サイゼリヤが発表した2024年8月期の中間決算(2023年9月〜2024年2月期)。売上高は前年同期比24.8%増の1046億円と第2四半期時点で過去最高となった。営業利益は59億円で前年同期の9億円から約6.5倍となり、大幅な増収増益だった。
強い決算を支えたのは中国を中心としたアジア事業だ。アジア事業の売上高は372億円と全体の4割に満たないものの、営業利益は55億円と全体の9割以上を稼いでいる。
利益柱は依然として海外事業
中国は好調に推移し、特に2023年12月〜2024年2月の3カ月間の既存店売上高は上海で前年同期比28.8%増、広州で33.4%増、北京にいたっては106.9%増と急回復を見せている。海外では値上げも業績を後押ししており、客単価はコロナ禍以降、上昇基調にある。
国内事業も売上高は順調だ。他社が軒並み値上げを実施する中、サイゼリヤは低価格を維持し、集客力で優位に立っている。上期の既存店の客数は前年同期比19.1%増、既存店売上高は同21.9%増と、業界では群を抜く。
一方、国内は値上げを実施しておらず、利益面で苦戦が続く。国内事業の営業利益はわずかに3400万円の黒字。期初に計画した営業利益の計画(20億円)からは大幅に遅れ、依然、低い利益水準から抜け出せない。
営業利益が低水準だったことについては、「売り上げが想定よりも伸びたため、在庫が不足した」(松谷社長)ことが大きな要因だったという。
サイゼリヤは、基本的に食材を自社工場で製造している。売り上げの伸びに対して生産が追いつかず、在庫量が減少。食材の生産を外部に委託したことなどで仕入れコストがかさんだ。
また、海外からの輸入も滞った。昨年末からイスラエルのガザ地区への攻撃を発端として、イエメンの反政府武装組織のフーシ派による紅海を航行する船舶への攻撃が発生。欧州から仕入れるパスタやオリーブオイルは、紅海を避け、南アフリカの喜望峰経由での輸送になった。
さらに、肉類やミートソースの工場がある豪州で港湾ストライキが発生。空輸などで対応し費用がかかった。足元では仕入れ計画や生産計画を見直し、影響は小さくなっているという。
国内は値上げなしで計画に届くのか
前述のように、今期の国内事業の営業利益計画は20億円。サイゼリヤはもともと下期に稼ぐ企業だが、このまま達成できるのか。
3月にはメニュー改定の効果が発現し、既存店売上高は29.1%増だった。同月に14.4%増だったすかいらーくや12.7%増のすき家と比較しても好調だ。松谷社長は「組み合わせて食事を楽しむメニュー構成が浸透している」と手応えを語る。
また、一部メニューの削減を実施するなど効率化も進めてきた。セルフレジは今2024年8月期に、テーブルオーダーも2025年8月期にそれぞれ全店舗へ導入を予定している。
ただし、他社チェーンのように全面的に商品を値上げしなければ、収益面で一段と厳しくなる可能性もある。2024年も円安などで食材の価格が高止まりし、人件費やエネルギーコストも上昇しているからだ。
これまで「国内では賃金水準が上がっていなかった」(松谷社長)として値上げをしてこなかったサイゼリヤ。国内事業で肝心の利益をどう生み出すのか、一段と踏み込んだ決断が求められそうだ。
(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)