この破線の正体は? ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した銀河の画像に出現
こちらは「ペガスス座」の方向約4億光年先の棒渦巻銀河「UGC 12158」です。「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」で取得した複数のデータを使って作成されました。UGC 12158は地球に対して正面を向けた位置関係にあるため、渦巻銀河のうち2分の3が持つとされる中心部の棒状構造や、その周りに広がる渦巻腕(渦状腕)の様子がよくわかります。
ぱっと見て気になるのは、画像の中央上にある誰かが書き足したような破線ではないでしょうか。ハッブル宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、これは観測中に視野を横切った太陽系内の小惑星の軌跡です。
ハッブル宇宙望遠鏡は天文学の研究のために特定の狭い波長域の光を通す何種類ものフィルターを切り替えながらデータを取得しています。背景の天体と比べて高速で視野を横切る天体は線状の軌跡を残しますが、その軌跡は各データで異なる位置に現れることになります。ただし、フィルターを切り替えている間も天体は視野を移動し続けるため、データ全体では一部が途切れた不連続な軌跡が記録されます。ここに掲載したような天体画像は異なるフィルターを介して取得された複数のデータを着色・合成して作られるので、完成した画像には天体の軌跡が破線として描き出されるというわけです。
よく見ると、小惑星の軌跡はカーブを描いています。STScIによると、これはハッブル宇宙望遠鏡が地球を周回しているために生じた視差効果の一種です。ハッブル宇宙望遠鏡は高度約520kmの地球低軌道を約95分で1周しながら観測を行っています。STScIによればこの軌跡を残した小惑星までの距離はUGC 12158と比べて10兆分の1しかないため、ハッブル宇宙望遠鏡自身の移動にともなって、小惑星の位置が変化しているように見えるのです。走行中の列車や自動車の窓から外の景色を眺めた時、遠くの山は動かないように見えるのに、近くの建物は過ぎ去るように動いて見えるのと原理は同じです。
STScIによると、この視差効果を応用すれば観測時の小惑星までの距離を測定したり、見かけの明るさとあわせて小惑星の大きさを推定したりできます。2019年に天文学者のグループが立ち上げた市民科学プロジェクト「Hubble Asteroid Hunter(ハッブル小惑星ハンター)」では、19年にわたるハッブル宇宙望遠鏡の観測で取得された3万7000点のデータをチェックした1万1482人の市民ボランティアによって、合計1701個の小惑星の軌跡が発見されています。このうち1031個はカタログ化されたことがない小惑星で、暗すぎて捉えるのが難しい幅1km未満の小惑星も約400個含まれていました。
これらの小惑星の多くは火星と木星の間にある小惑星帯を公転しているとみられますが、何年も前に取得されたハッブル宇宙望遠鏡のデータから見つかったため、今から追跡して正確な軌道を特定するのは不可能だといいます。今後このプロジェクトではこれまで知られていなかった小惑星の軌跡を調査して、小惑星の軌道を特徴付けたり自転周期といった特性の研究を進めたりする予定だということです。
冒頭の画像はSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)が2024年4月18日付で紹介しています。
Source
STScI - Hubble Goes Hunting for Small Main Belt AsteroidsNASA - Hubble Goes Hunting for Small Main Belt AsteroidsESA/Hubble - Hubble goes hunting for small main-belt asteroids
文・編集/sorae編集部