ろうそくの火を消せない、風船が膨らませられない…10代からはじまる「口の退化」のヤバすぎる実態
※本稿は、照山裕子(著)、來村昌紀(監修)『口の強化書』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■クラスの半数が風船を膨らませなかった
数年前に、私が小学校で、口や歯の大切さを教える出前授業をしたとき、クラスの半数以上の子どもが風船をふくらませなくて驚いたことがありました。
それは、肺活量の問題だけではなく、口を開けたり閉じたりするときなどに使う口輪筋などの筋肉が育っていないため、口をしっかりとすぼめられないことが大きな原因となっています。
また、同じような原因で、ろうそくの火を消せないという子どもも多くなっていると聞きます。
子どもたちの口まわりの筋肉の発達不足が顕著に数字となって表れているのが、口呼吸の子どもが多いことです。2021年に発表された、新潟大学大学院医歯学総合研究科小児歯科学分野の齊藤一誠准教授らの研究によると、日本人の子どもたち(3歳〜12歳)の30・7%が日常的なお口ぽかん状態、つまり口呼吸だったという結果が出ています。
自分では閉じているつもりでも、じつは口呼吸をしている「隠れ口呼吸」の人などを含めると、8割くらいが該当するのではといわれています。
口呼吸になる大きな原因のひとつが、先ほどの口輪筋をはじめとした、頬や舌などの口周りの筋肉の発達不全です。
これらの筋肉がしっかり発達しないことで口呼吸になると、病原菌やほこりなどが入りやすくなるほか、口が乾くことで、口臭などさまざまな影響が出ます。むし歯や歯周病といった病気のリスクも上がります。
また、「口呼吸によって睡眠障害、仕事や学習における持久力や活動量の低下などの症状や注意欠損・多動障害などのさまざまな精神疾患を引き起こすことがある」ともいわれており、子どもの口周りの筋肉の衰えは、決してほっておけない事態といっていいでしょう。
■10代や20代の口の衰えが引き起こす不具合
口周りの筋肉の衰えは、小学生だけでなく、若い人全般に関わってきています。
最近の調査結果で、口腔機能の実態があきらかになってきました。日本歯科医師会による、全国の15歳から79歳の男女1万人を対象に実施した「歯科医療に関する一般生活者意識調査」(2022年)の項目において、「滑舌が悪くなることがある」「ムセやすい」「食べこぼしをすることがある」など、口腔の機能不全が疑われる6つの症状を経験したことがあるかどうかを質問したものがあります。
その結果は、基本的には年齢が高くなるとともに、これら6つの症状を経験したことがある人が増えています。次にまとめたグラフを見ていただくとわかるように、意外にも10代、20代の数値の大きさが目立っているのです。
特に10代は、「口のなかが渇きやすい」以外のすべての項目で、20代や30代よりも数値が高くなっています。さらに「口のなかが渇きやすい」「ムセやすい」をのぞけば、40代よりも高くなっているのです。
なかでも、「滑舌が悪くなることがある」と回答したのはなんと30.3%で、これは60代に匹敵する数値です。また、20代も26.5%と、50代とほぼ同じ数値でした。
また、口腔の機能不全が疑われる症状を経験しているのは、10代で48.3%、20代で40.6%と、半数近くの人が、なんらかの症状を経験していることもあきらかになりました。
■10代は70代より食べ物を“噛み切れていない”
さらに、10代は「噛む力」も未発達の傾向があり、ふだんの食事について聞いたところ、「かたい食べ物よりやわらかい食べ物が好き」が53.6%、「かたい食べ物を食べるときに噛み切れないことがある」40.3%と、全年代のなかで最多となりました。
これはつまり、10代は70代よりも、食べ物を“噛み切れていない”実態があきらかになったというわけです。加えて、「食事で噛んでいるとあごが疲れることがある」と答えた10代は48.3%で、70代のなんと2.7倍にも上り、若年層の口腔機能の発達が不十分な疑いを表す結果になっているのです。
もちろん、調査からわかるのは決して若年層だけの問題ではなく、基本的な傾向としては、年齢とともに口の機能が衰えていくという事実です。
■食べ物が変わって口が老化した現代人
これまで、若年層の口腔機能の衰えについて見ましたが、そもそもなぜわたしたちが噛まなくなってきているのかというと、時代とともに食べ物が変化してきたのも理由のひとつです。
かつて、ウェストン・プライス博士という、むし歯がなぜ世界中で増えたのかを調べた歯科医がいました。
彼は世界各地のさまざまな食生活や栄養について研究し、特に小麦や砂糖、加工植物油脂類をはじめとする、いわゆる西洋式の食生活が栄養不足を引き起こし、多くの歯の問題の原因になっていると主張しました。
彼の研究には賛否両論もありますが、彼が行った調査をもとにして、歯科や栄養学について議論されるようになっていきました。
日本でも、食べ物と「噛む」ことに関するさまざまな調査があり、なかには興味深い報告もあります。
たとえば、齋藤滋著『よく噛んで食べる 忘れられた究極の健康法』(NHK出版)によると、日本の各時代の復元食と噛む回数や時間を調べた結果、戦前の食事は、1食につき1420回噛み、約22分かけていたのに対し、現代では620回噛んで約11分になっているそうです。
たった数十年の間に、噛む回数や食事時間が約半分に減ったわけですね。
■噛まない食事、早食いでいいことはない
この調査がユニークなのは、全体的に噛む回数が減少傾向にあることを示すと同時に、より長いスパンで比較されていることでしょう。
調査結果によると、卑弥呼(ひみこ)の時代よりも紫式部の時代のほうが、源頼朝(みなもとのよりとも)の時代よりも徳川家康(とくがわいえやす)の時代のほうが、噛む回数と食事時間が減っています。
おそらくは、それぞれ以前の時代に比べて、よりやわらかく食べやすい食事に変化したということなのでしょう。つまり、食べる意識の問題というよりも、「食事内容」の変化によって噛む回数などが減り、口腔機能が変化してきたと見ることができるのです。
端的にいえば、戦前に比べると、パンやハンバーグ、オムレツをはじめとする、あまり噛まなくても食べられる西洋式の食事が増えたことで、現在はどうしても歯や「舌の力」、口まわりの筋肉がうまく発達しない傾向にあるようです。
■口周りの筋肉を鍛えてほしい
口周りの筋肉を鍛えるには、よく噛むことがとても大切です。「ひと口につき30回は噛みましょう」と推奨されているのを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。もちろん、時間をかけて食べられるときは、ゆっくりたくさん噛むに越したことはありません。
ただ、わたしは、ひと口で噛む回数ばかりに、こだわりすぎなくてもいいと考えています。回数を数えながら食べるというのは、大変です。
そこで、できるだけ多く噛むということを意識してもらいながらですが、もっと楽しみながら、噛む回数を少しでもプラスできる体操をしたほうが続けやすいのではないかと考えました。
『口の強化書』でも詳しく紹介している「かみかみリズム体操」を行うと、1日で100回程度、噛む回数が増えます。また、「かみかみリズム体操」では、グミを使って行うことをおすすめしています。
そうすることで、間食や気分転換といった生活の合間で気楽に行えるのが特長です。そうした、「ながら」で行えるからこそ毎日続けやすく、結果的に噛む回数を自然に増やしていくことができます。原材料がシンプルでおいしいので、子どもでも安心して続けやすいという効果もあります。
■「老け口」防止のための「かみかみリズム体操」
では、「かみかみリズム体操」の具体的なやり方です。まずは、舌の力をつける「舌ポジリセット」を行います。
2.下を使って、グミを歯ぐきの裏側にぐっと押し付け、その状態を10秒キープします。
次に行うのが「3・3・7拍子がみ」です。
1.「舌ポジリセット」のグミを舌で左側の歯に持っていき、3・3・7拍子のリズムで噛みます。
2.次に下で右側の歯にグミを持っていき、右側の歯でも3・3・7拍子のリズムで噛みます。
3.さらに左側で同様に噛みます。飲み込めるくらいまで、2〜3を繰り返して、飲み込みます。
新しいグミで、「舌ポジリセット」と「3・3・7拍子がみ」をもう1度繰り返します。
最後に仕上げの毒出しうがいを行います。
1.上の歯をきれいにする
30ml程度の水(口のなか全体に水が回るくらい)を口に含み、口を閉じます。そのまま口に含んだ水を上の歯に向けて、くちゅくちゅとできるだけ大きな音が出るように強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
2.下の歯をきれいにする
同じように口に水を含み、その水を舌の歯に向けて、1と同じように強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
3.左の奥歯をきれいにする
同じように口に水を含み、その水を左の歯に向けて、強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
4.右の奥歯をきれいにする
同じように口に水を含み、その水を右の歯に向けて、強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
毒出しうがいの水は、吐き出すのが一番いいですが、吐き出す場所がなければ飲み込んでも構いません。ただし、重度の歯周病など口のトラブルを抱えている方は、吐き出すことをおすすめします。水が理想ですが、お茶でも構いません。
ほかの筋肉と同じように口の筋肉も使わないと加齢とともに衰えていきます。年代問わず「最近かみ切れない」「口臭が気になる」「食事でムセる」などの症状があるのならば、ぜひ、「口の筋トレ」に、目を向けてみてはいかがでしょうか。
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照山 裕子(てるやま・ゆうこ)
東京医科歯科大学非常勤講師(顎義歯外来)
日本大学歯学部卒業、同大学院歯学研究科にて博士号取得。世界でも専門医が少ない「顎顔面補綴」を専攻し、口腔がんの患者と歩んだ臨床体験から予防医学の重要性を提唱する。「日本人の口腔ケアへの意識を変えるにはどうしたらいいのか?」という課題の答えのひとつとして考案した内容を『歯科医が考案 毒出しうがい』(アスコム)として書籍化。13万部のベストセラーとなった。現在は大学病院及び全国の歯科クリニックにて診療を続ける傍ら、テレビ・ラジオなどのメディアにも多数出演。「日経xwoman」のオフィシャルアンバサダーも務める。『新しい「歯」のトリセツ』(日経BP)など、著作多数。
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來村 昌紀(らいむら・まさき)
らいむらクリニック院長、千葉大学臨床教授
医薬学博士。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。和歌山県出身、和歌山県立医科大学、千葉大学大学院卒業。和歌山県立医科大学附属病院などで、経験を積み、2014年にらいむらクリニック開設。著書に『漢方専門医の脳外科医が書いた漢方の本・入門編』(あかし出版)などがある。
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(東京医科歯科大学非常勤講師(顎義歯外来) 照山 裕子、らいむらクリニック院長、千葉大学臨床教授 來村 昌紀)