生成AIは、どのようにビジネスを進化させるのか(写真:metamorworks/PIXTA)

2023年におけるAIの話題は、もっぱらChatGPTをはじめとする「生成AI」が中心であった。一方で、「生成AI」をよく耳にするが、実際のところビジネスの現場でどう使われているのか、イメージしにくい人も多いのではないだろうか。

そこで、生成AIがどのようにビジネスを進化させるかを描いた『AIナビゲーター2024年版』より一部を抜粋・再構成のうえ、生成AIの利用に関する現実について解説する。

短期間で浸透した生成AI

「生成AI」という言葉は、どれぐらい浸透しているのだろうか。

野村総合研究所では、日本人の一般就労者を対象に「AIの導入に関するアンケート調査」を実施した。調査は、2023年5月と10月にインターネットを使って、パート・アルバイトを除く就労者20〜60代(性・年代別に均等割付)を対象に実施している。



この調査結果によると、「生成AI」という言葉の認知率は、日本人の一般就労者で見た場合に、「確かに知っている」と「聞いたことがある」を合わせると、2023年の5月の時点では50.5%であったのに対し、10月では70.5%と急速に高まっている。「確かに知っている」と回答した割合も15.3%から26.8%まで高まっており、生成AIを名前だけ知っている人ではなく、内容までしっかりと理解している人が増えたと考えられる。

ChatGPTは2022年11月30日に提供が開始された。「生成AI」という言葉が、使われ始めるようになったタイミングから、わずか1年の間で、日本における「生成AI」の認知率は7割まで高まった。認知率の水準が高いことだけではなく、浸透したスピードの速さも生成AIの特徴であるといえる。

会社の業務の中で、生成AIが導入されている割合を見てみよう。野村総合研究所では、自身の仕事における業務の中で、具体的に、「生成AI」を用いたツール・アプリケーションを導入している割合を調査した。


一部の業界では急速に導入が広まっている

その結果は、生成AIの導入率について、業種を問わず就労者全体で見ると、2023年の5月の時点では9.7%であったのに対し、10月では12.1%となっている。10月の時点では、実際に業務で使っている割合が4.4%で、業務に使えるかどうかを具体的に試している割合が7.7%となっており、合わせて12.1%の就労者が業務で生成AIを導入している可能性がある。

業種別で見ると、IT・通信、金融・保険などの業界で生成AIの導入率が高くなっている。IT・通信業では、システム開発などの業務において、ドキュメント作成やプログラムコード作成などで導入が始まっていることが考えられる。金融・保険などのサービス業では、カスタマーサービスの合理化のための利用や、営業支援などで活用している例が多く見られている。

2023年の5月から10月にかけて、生成AIの導入率が拡大した業種としては、5月の時点ですでに導入率が高かったIT・通信、金融・保険などの業界に加えて、建設・土木、運輸・物流などにおける業界での導入が進んでいる。建設や運輸における業務効率化や最適化などの工程での生成AIの活用が進んでいると考えられる。公共分野においても、導入率が3.4%から6.8%と倍増しており、絶対水準は低いものの浸透が急拡大している業種といえそうだ。

一方で、卸売・小売、医療・福祉、その他サービスなどの業種では、5月から10月にかけての生成AI導入は進んでおらず導入率は10%を下回る水準となっている。これらは、AIによる自動発注や、創薬へのAIの活用などが、以前から検討されてきた業界である。ただし、AIを業務に使う方法のレベルが高く、一部の企業では積極的に利用されているが、多くの企業に広く浸透するにはまだ時間がかかりそうだ。生成AI活用のユースケースが浸透すれば多くの企業で導入されるようになるだろう。

ChatGPTが発表されてから、わずか半年で9.7%の就労者が生成AIを利用し、さらに1年後の2023年10月では12.1%まで導入が進んだ。生成AIの具体的な活用の仕方が共有されるようになってきており、企業の業務の中で、今後も急速に生成AIの導入は進んでいくものと考えられる。

また、具体的に生成AIを利用している業務内容と、今後利用できると考えている業務内容も調査した。

日常業務のサポートに現状ではとどまっている

現状で導入が進んでいる業務としては「あいさつ文などの原稿作成」が43.7%、「記事やシナリオの作成」が46.0%と、テキストのアウトプットが圧倒的である。創造性のあるコンテンツを生成するというよりは、簡単な出力結果を業務に活用しているのが現状だ。ChatGPTなどにおけるテキスト(文章)ベースにおけるコンテンツの生成を活用していると考えられる。

テキスト以外では、「挿絵やイラスト」で現在利用している人が16.1%、「動画の作成」が9.2%となっている。少ないながらもテキスト以外のコンテンツ生成に活用している事例も見られる。

今後の活用可能性と、現状の利用状況の差を見ることで、今後、利用が増加すると考えられる生成AIの活用方法を推測することができる。同じテキストの生成の中でも、「マニュアルの作成」(現在の利用率26.4%)や「議事録の作成」(現在の利用率19.5%)は、今後の活用可能性がそれぞれ44.2%、36.4%と期待が高く、現在の使い方よりは、より深い業務の支援における活用が期待されている。プログラムの「作成」(現在の利用率18.4%)についても、今後の活用可能性が32.1%と期待している人が多く、プログラムの「チェック」だけではなく、「作成」まで生成AIが使われていくことになるであろう。

現状は、ChatGPTが発表された当初ほどのインパクトがビジネス現場に及んでいるかといえば、首肯する人は少ないかもしれない。たとえば、議事録や報告書を作成することができる。ただし、実際に使ってみると、思ったようなアウトプットを得られず、最終的には人の手が必要になるし、場合によっては人がやったほうが早いと感じているのではないだろうか。

それでも、生成AIの「精度」の向上と、その進化の「スピード」はわれわれの想像をはるかに超えてくる。もちろん、AIがどの程度の学習をすれば、シンギュラリティが来るのかはわからない。しかし、生成AIが「使えるレベル」になったように「人間の脳と同レベル」になるタイミングは突然やって来るかもしれない。シンギュラリティはいつ来てもおかしくないところまでせまってきているのだ。

(塩崎 潤一 : 野村総合研究所 未来創発センター生活DX・データ研究室長)