義理チョコが減っている背景とは。写真はイメージ(写真: JIRI / PIXTA)

女性から好意がある男性に対してチョコレートを贈るバレンタインデー。ヨーロッパやアメリカでは男性から女性に贈り物をするのが一般的で、日本のバレンタインデーは独特かもしれない。

そんな中で、近年はジェンダーレスの影響もあり、日本のバレンタインデーも多様化しつつある。かつて職場でよく見られていた、義理チョコを渡す光景も減っているようだ。最新のバレンタイン事情について、分析・考察してみた。

バレンタインのチョコレート市場は拡大

1月〜3月のバレンタイン・ホワイトデー時期の市場規模は2020年で前年比19.9%増、2021年で同41.1%増、2022年で5.6%増と成長を続けている(Nintによる、Amazon、楽天市場、Yahoo!JAPANの三大モール比較)。コロナ禍の影響を受けつつも、日本におけるバレンタインデーのチョコレート市場は拡大している。

バレンタインデー関連のイベントも盛況だ。パリ発で2003年から三越伊勢丹が開催する「サロン・デュ・ショコラ」、2001年からジェイアール名古屋タカシマヤが開催する「アムール・デュ・ショコラ」など、チョコレートの祭典も毎年大きな賑わいをみせている。

ここまでバレンタインデーが広く伝播し、深く浸透したのは、チョコレート業界の努力や戦略が実を結び、メディアが盛り立ててきた結果だといえるだろう。

では誰に渡すかなど、バレンタインチョコを贈る相手にはどのような変化があるのだろうか。

ハースト婦人画報社が行った「バレンタインギフトに関する意識調査 2024」によれば、約9割が「バレンタイン向けにチョコレートやギフトなどを購入すると思う」、6割以上がバレンタインのチョコレートやギフトを「自分用」に購入すると回答している。

購入予定のバレンタインギフトの個数、平均購入額ともに「自分用」が1位となっており、6割以上が「サステナブル」を意識したチョコレート(フェアトレード、カカオ農家支援、オーガニック認証など)を買ってみたいと回答していた。「女性から男性へ」というバレンタインデーの習慣は、だいぶ変わってきているようだ。

また自分用のチョコに加えて、推しチョコなるものも登場している。推しチョコとは、好きなアイドルやキャラクターなどの推しに贈るチョコレートのことだ。


明治は推しチョコを使ったプロモーションも(写真:明治公式サイトより引用)

名古屋タカシマヤの調査(2023年12月末〜2024年1月上旬)によると、チョコの購入目的のうち、推しチョコが人気を集めている一方で、義理チョコは過去最低のわずか3%にとどまった。

2018年にゴディバ・ジャパンが、日本経済新聞で「日本は、義理チョコをやめよう」という広告を掲載したことは記憶に新しい。コロナ禍で対面が減ったこと、特に職場での接触が減少したことが、義理チョコの価値低下に拍車をかけた。

女性から男性に渡すことに疑問の声

バレンタインデーは実に多様化しているが、ジェンダー観がバレンタインデーを変えたという声も上がっている。

女性から男性へという流れ、さらには、男性を立てるという視点から、義理チョコに対するネガティブな意見も見受けられるのだ。

義理チョコを渡さなくなった人は増えているようだが、そもそも好意を抱く男性にチョコを渡さない、という声もある。筆者の周りからは「そもそも贈りたい相手がいない」「意中の人はいるけれど、あえて渡すほどには……」という話も聞いた。

また、百貨店を始めとして品揃えは非常に豊富だが、だからこそ「多すぎて選べない」、売り場が活況を呈しているからこそ「大混雑して疲弊する」、売れ筋商品が集中しているので「欲しいチョコレートはすでに売り切れている」、高級化が進んでいることから「値段が高すぎる。それならランチでコースが食べたい」といった、バレンタインデーにチョコを渡すこと自体に疑問を抱く声もあるようだ。

日本の洋菓子はチョコレートを含めて非常にレベルが高い。普段からおいしいものが身近にある。

日本は「チョコレート民度」が高い

そのため「バレンタインデーだからといって特別感はない」や「あえてイベントに左右されるのもどうか」、さらには「みんなと同じなのは嫌だ」「食べたいときに買いに行く」という意見もある。

ライフスタイルの変化に加えて、日本の“チョコレート民度”が高いゆえに、バレンタインデーを冷静に俯瞰している部分もあるだろう。

日本では、もともと行事を大切にしており、祝日やイベント日に何かを贈る風習が根強い。ただ、近い将来、バレンタインデーから“女性が男性に愛の告白としてチョコレートを贈る”という習慣はなくなるかもしれない。

実際にバレンタインデー商戦に疲弊したり、ライフスタイルに合わないと感じたりしている層もいる。洋菓子業界がどのような手を打つのか注目していきたい。

(東龍 : グルメジャーナリスト)