今から50年ほど前なら全国各地で見ることができた「オートレストラン」、そのうどん自販機を岐阜で見つけました。当初は動かなかったものの、来場者の熱意に押されて修復したのだそう。経緯についても聞いてきました。

1970〜80年代が最盛期! オートレストランとは?

 1970年代から80年代にかけて、全国で見ることができたオートレストランという無人の飲食店。ここでは自動販売機(以下、自販機)によって食べものが提供されており、有人店舗が軒並み閉まった深夜でも、温かい食事を味わえる施設として、長距離トラックの運転手などを中心に利用されていました。

 オートレストランにある自販機の一番の特徴は、内部にストックされた商品をただ売るのではなく、それらを機械の中で加熱・調理して提供してくれる点でしょう。そのため、扱う商品ごとに専用の機械が用意されており、中でも特に人気があったのは、ラーメンやそば・うどんといった麺類、箱入りハンバーガー、レトルトを加熱して出すカレーライスなどでした。


岐阜レトロミュージアムの軽食コーナー入口。昭和から平成にかけてのデパートやゲームセンターなどに置かれた遊戯機械や自販機が、ディスプレイとして置かれていた(布留川 司撮影)。

 ドライバーの憩いの場であったオートレストランは1970年代から都市部郊外の幹線道路沿いを中心に作られました。しかし、その後は24時間営業のコンビニエンスストアや飲食店が増えたことで需要が減っていき、現在はそのほとんどが姿を消しています。

 ただ、近年はオートレストランの自販機自体がレアな存在になったことで注目が集まり、使われなくなった当時の機械を修復し、一種の観光施設のような形で復活するケースもあります。

 岐阜県にある「岐阜レトロミュージアム」もそんな施設のひとつです。ここにはハンバーガー自販機やうどん自販機などが今でも可動状態で設置されており、令和の現在でもアツアツの食事を楽しむことができます。

懐かしの食品自販機 再稼働は苦労の連続!

「岐阜レトロミュージアム」は、岐阜市内から車で40分ほどの山県市椎倉323にあり、その名前のとおり昭和頃のレトロな雰囲気を感じさせるアミューズメント施設です。入口には昭和の駄菓子屋を連想させる売店と、懐かしいアーケードゲームの筐体が並び、奥にはここの一番のウリともいえる1980〜90年代のパチンコを集めた遊戯コーナーがあります。

 館長の杉本勇治さんはパチンコ・パチスロ機材を個人収集していたコレクターで、それらを誰でも楽しめる場所として、「岐阜レトロミュージアム」を作りました。一般的なパチンコ店と違って、出玉やコインを景品などに交換することはできませんが、入場料を払えば、営業時間内に無制限に楽しむことができます。

 こういったレトロなパチンコに特化した施設は全国的にも珍しいため、マニアの間では有名な場所であり、ここにしかない台を求めて全国から来場者が集まって来るそうです。


岐阜レトロミュージアムの全景。掲げられた看板や正面にある各種置物から昭和の雰囲気を大いに感じられる(布留川 司撮)。

 そんな「岐阜レトロミュージアム」が、オートレストランの自販機を置いたのは、杉本さんのコレクターとしてのマニア心が動いたからだそう。

「私自身、コレクター気質なところがありまして、集める対象はパチンコだけじゃありませんでした。ある時、昔のオートレストランにあったうどん自販機のことが気になって調べたら、もうほとんど現存していないことがわかりました。そこで、なくなってしまう前に、その一台を手元に保存しておこうと思って入手しました。けれども、そこから自分の中のコレクター魂みたいなモノに火がついてしまったんですよ」

 最初はうどん自販機だけでしたが、その後ハンバーガー自販機、みそ汁自販機と、杉本さんのコレクションはどんどん増えていきました。

自販機の精密&複雑な作業工程に驚愕!

 こうした経緯で、杉本さんが集めたオートレストラン自販機はこの「岐阜レトロミュージアム」に置かれました。当初はハンバーガー自販機のみを可動させて、残りは展示物として置いていたそうです。しかし、来場したお客さんからハンバーガー以外の自販機も利用したいという声が上がったことで、残りの自販機の修復も始まったのだといいます。

 なかでも、特に大変だったのは、うどん自販機だったとか。「岐阜レトロミュージアム」で稼働しているうどん自販機は、川崎重工業から分離独立した川鉄計量器株式会社(現在の社名はJFEアドバンテック株式会社)という企業が製造した機械です。


施設内のメインとなるパチンコ・パチスロコーナー。店内の雰囲気も昭和のパチンコ店を連想させてくれる(布留川 司撮影)。

 この機械は開発目的もユニークです。当初は一般への販売ではなく、自社の福利厚生のために作られたのだとか。杉本さんによれば「最初は自社工場で働く夜勤シフトの社員たちに温かい食事を提供するために製造され、その後、一般にも販売されるようになった」とのことで、そのため採算度外視で開発されたのか、内部は非常に複雑な構造なのだそう。単純に麺と汁を温めるような簡易なシロモノではないと話してくれました。

「お金を入れてボタンを押して、商品が出てくるまでの時間が27秒。この短時間に、内部では冷蔵麺を湯通しし、さらに湯切りを2回もやってから汁に入れて出しています。このような複雑な工程をアナログ制御のリレー回路(一動作ごとに電気信号のON・OFFで動かす)でやっています。この自販機の凄いところは、人間の調理と同じ工程を機械化しているので、麺と汁と自販機の看板を入れ替えれば、うどんだけでなく、日本そばやラーメンなど、麺類どれでも販売できることです」

 しかし、ここまで複雑な機械であるため、その修復作業は簡単には進みませんでした。

とにかく食べたい!「1000円でもいいから」

 うどん自販機は汁物を扱うため、錆などで内部の痛みが激しかったのだとか。それでも食品を扱う以上は修復を完璧に行う必要がありました。

 まず、不足した部品を入手するために、部品取り用として同型の自販機を複数台入手。そこからパーツを抜き出して、動作する自販機を1台組み上げました。また、実際の修理作業は、このような古い機械のノウハウを持っている関東の業者の協力してもらい進めたとのことでした。

 ただ、うどん自販機の修復作業にあまり多くの手間と費用を掛けてしまうと、そのしわ寄せは販売価格の高騰へと繋がってしまいます。杉本さんも当初は商売的に難しいと考えていたようですが、お客さんからの「値段が1000円でもこの自販機のうどんを食べてみたい」という声が後押しになり、無事に修復を終えることができたと語っていました。


三洋電機製のみそ汁自販機。恐らく日本国内で現存しているのはここだけではないかとのこと。2024年1月現在はメンテナンス中(布留川 司撮影)。

 約1年の歳月を経て修復されたうどん自販機は、現在も「岐阜レトロミュージアム」の軽食コーナーで稼働しています。2024年1月現在の提供価格は1食500円で、お揚げ入りのきつねうどんを頂くことができます。

 価格については杉本さんによれば、自販機が置かれた施設の営業時間も関係しているそうです。「ここは営業時間が昼間だけで、休館日もあります。24時間販売できる既存の施設と比べて、食品の廃棄が必ず出てしまうので、それらを考慮すると500円が限界ギリギリの価格設定になります」

 なお、メニューは基本的にうどんのみですが、年始などの特別な日には日本そばに入れ替えられることもあるそうです。

 筆者が取材した2023年末には、うどん自販機、ハンバーガー自販機、アイスクリーム自販機、ガム自販機、カップヌードル自販機(お湯はセルフ)が稼働しており、それ以外にも食品用自販機でパン類やレトルトカレーが売られていました(備え付けの電子レンジで温め可能)。

 なお、日本国内ではおそらくここにしかないであろう三洋電機製のみそ汁自販機も置かれていたものの、こちらは現在メンテナンス中で稼働はしていませんでした。

 これら自販機を利用するには「岐阜レトロミュージアム」で入場券を買う必要があります。価格は1時間800円、3時間2000円、1日3000円(小学生、児童割引あり)です。施設内のゲーム機は、パチンコと同様に入場料のみで楽しめるフリープレイ方式なので、オートレストランの食事を楽しみながら、それが全盛期だった昭和の文化を体験することができます。

 40代以上ならば懐かしさ、それ以下の年代ならば歴史の1ページになった「昭和レトロ」を堪能できるのではないでしょうか。